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LEONE #54 〜どうかレオネとお呼びください〜 一章 第14話 1/3


1章:The Good, The Bad and The Ugly

第14話  文無しの脱出


「この野郎!」

宙に浮いたルチアーノの拳がぶるぶると震えた。その口元は今にも怒声をあげるかのようで、眼光は目の前のカルビンを焼き払うかのように光っていた。

しかしカルビンは少しも委縮しなかった。彼は無表情でルチアーノの顔を睨み付けた。目と目が合わせたまま少しも引き下がる気配はなかった。カルビンはルチアーノが何もできないことをよくわかっていた。

こんなヤツがいたとは

少なからず当惑したのはレンスキーも同じだった。パルス爆弾そのものも主要銀河の『SIS』が運用する珍しい装備だ。そんな物がこの外殻惑星にあるということだけでも驚きだが、まさかそれを自分の体にぶら下げ、特攻隊のように立ち向かってくる者がいるとは想像もできなかった。

もはや余裕をかましている状況ではなかった。

圧倒的な数的劣勢にもかかわらず、これまで自分たちの勝利を確信していた理由は、ひとえに『アーマードスーツ』の驚異的な破壊力のおかげだった。

しかしもしあのパルス爆弾の範囲がルチアーノと『ホワイトスカル』全体に影響を及ぼすレベルなら、彼らはそのまま数百キログラムのスクラップの中に閉じ込められ、賞金稼ぎたちの処分を待つはめになるはずだった。

ルチアーノがなんとかできる状況ではなかった。ここはレンスキーの出番だった。

「Mr.ルチアーノ、ここは私に」

レンスキーが前に出た。ルチアーノはチラッとレンスキーを見てさらに固く口をつぐんだ。彼はそれを肯定の意味で捉えた。

「我が名はレンスキー・モレッティー。カルビン・マックラファーティと聞いたのですが」

「そうだ。用件はその場で。近付くな」

「良いでしょう」

レンスキーは大人しく立ち止まった。カルビンも少し顔を傾けてレンスキーを見た。もちろん片方の手は懐にあるパルス爆弾をギュッと握りしめていた。

レンスキーが先に口を開いた。

「さっきから言っていますが、我々はあの屋上の女さえ手に入れば満足します。ここであなたたちと流血劇をする理由はないのです」

「残念だな、こちらには理由がある。それも三つも」

カルビンは嘲笑った。彼にはレンスキー・モレッティーの言葉は意味を成さなかった。

「ひとつ、お前たちは我々の獲物であるにも関わらず、我らに依頼を託し騙した。ふたつ、我々に依頼をしておきながらも我らを信じなかった。みっつ、この野郎、ボッシー・ルチアーノには莫大な懸賞金がかけられている。我々がお前たちと戦わない理由があるか?」

「理由ならあります」

あまりにも断定的なレンスキーの口ぶりに、カルビンでさえも一瞬言葉を失うほどだった。カルビンは固唾をのみ、やっとのことで答えた。

「…………言ってみろ」

「あなたの仲間にとってはプライドよりも命が大事だからです」

今度はカルビンの顔が瞬時に固まった。

すでにその表情を隠す余裕すらなかった。レンスキーは内心胸を撫で下ろした。

当たりなのか。

カルビンが持っているパルス爆弾の威力に関して、レンスキーは確信はなかったがある程度の心証は持っていた。

彼から見てカルビンは命を惜しむような人間ではなかった。彼がそんな部類なら、最初からこんな無謀なことは試みなかったはずだ。だからもし本当にあのパルス爆弾がルチアーノと『ホワイトスカル』全体の『アーマードスーツ』を無力化させるほどなら、カルビンはすでにその爆弾を爆発させるべきだった。

だがカルビンはそうしなかった。それはまさにカルビンがその爆弾の威力に確信を持てていないということを意味していた。

恐らくルチアーノ一人くらいならなんとかなる。だが『ホワイトスカル』が十人、いや、五人でもその爆弾の威力から逃れた場合、この街は賞金稼ぎたちの血で染まるはずだ。

そしてそれは彼の望むところではなかった。

「Mr.マクレパティ―」

レンスキーはその隙を逃さず攻めた。

「皆に大義名分を与えます。だからここではあの女を捕まえるのに力を貸してください」

「大義名分?」

「そうです」

その時レンスキーはチラッとルチアーノの機嫌を伺った。ルチアーノは依然として沈黙を守り、目の前のカルビンを狙っていた。

レンスキーは頷いた。

ルチアーノは獣ではあるが、少なくとも一度任せるといった限りそれを破らない程度のプライドは持ち合わせていた。

彼は再び口を開いた。

「我々から依頼を受けたという理由で、そしてこちらの不信感によって傷ついたプライドを、私の謝罪とあなたたちの命の対価としてください」

口が達者だな

カルビンは内心歯ぎしりをしながらも、表では何も言わずにレンスキーの言葉に耳を傾けた。レンスキーはもう一度ルチアーノをチラッと見たあと、口を開いた。

「それとあなた方が諦めなければならないボッシー・ルチアーノの懸賞金については……」

しばらく沈黙したあと、彼は話を続けた。

「あの女の懸賞金2億GDの五倍の金額を支払うことで、その代わりにしてください 」

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著者プロフィール チャン(CHYANG)。1990年、韓国、ソウル生まれ。大学在学中にこの作品を執筆。韓国ネット小説界で話題になる。
「公演、展示、フォーラムなど…忙しい人生を送りながら、暇を見つけて書いたのが『LEONE 〜どうか、レオネとお呼びください〜』です。私好みの想像の世界がこの中に込められています。読んでいただける皆様にも、どうか楽しい旅の時間にできたら嬉しいです。ありがとうございます」

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