LEONE #53 〜どうかレオネとお呼びください〜 一章 第13話
1章:The Good, The Bad and The Ugly
第13話 ルチアーノ親衛隊ホワイトスカル vs カウボーイ
レンスキー・モレッティは老練な執事だから、感情を表に出すような愚かな行動はするべきではなった。しかし彼の心は、刻々と焼けていくところだった。
今彼のそばには、ボッシー・ルチアーノが立っていた。ルチアーノが街を火の海にする直前に、レンスキーはここに到着することができ、辛うじて「一時間待ってみよう」と説得できた。彼はそれが彼の主人の指示であることを、何回も強調した。もしレンスキー自身の意見だけでルチアーノを防ごうとしたら、ルチアーノは待つどころか、まずレンスキーから燃やしてしまったかも知れない。
「レンスキー・モレッティ」
レンスキー・モレッティは沈鬱な顔で頭を上げた。
「はい、Mr.ルチアーノ」
「あと何分だ?」
彼は自分の腕時計を見た。時計の針はあれからほぼ一周回った状態だった。
「8分です」
その答えに対してルチアーノは特に何も言わなかったし、レンスキーもまた敢えて気にしなかった。
代わりにレンスキー・モレッティは前に視線を向けた。彼らの鼻先に対峙している、数百人の賞金稼ぎたちを見た。
レンスキーが到着した時にはこの群れは、町の至る所で身を潜めていた。だが、約20分前から突然一人、また一人と通りに姿を現し始めた。
全面戦争をするつもりなのかと少し緊張が走ったがそういうわけではなかった。彼らは変わらず手に武器を持っていたが、襲ってくることはなかった。
彼らはただ群がって道を塞ぎ、隊列を組んで、沈黙を守りながらこっちを睨んでいるだけだった。自分たちを、レンスキー・モレッティ、ボッシー・ルチアーノ、そして『ホワイトスカール』を。
レンスキーは少し後ろを振り返った。約五十名ほどの男たちが目に入った。その男たちは皆威圧的な外見と健康的な体格をしており、何よりも真っ黒な『アーマードスーツ』で武装していた。
それがルチアーノの親衛隊だった。全宇宙の悪名高き『ホワイトスカール』であった。
ゾッとするな。
レンスキーは他人に聞こえない声で正直な感想を呟いた。
この構図で悲惨な結果を予想するのはさほど難しくなかった。もちろん数百人の賞金稼ぎは誰もが侮れない相手だが、『ホワイトスカル』はその“誰も”の範疇に入る集団ではなかった。
おそらく8分後にあの賞金稼ぎたちは一人残らず炭の塊か血の塊に転落してしまうだろう。真っ白なドクロが刻まれた黒い『アーマードスーツ』はこの惑星の悪夢として残るだろう。ルチアーノと『ホワイトスカル』は再び全宇宙に悪名をはせるだろう。そしてその主人の計画には再び小さな支障をきたすだろう。
レンスキーは首を振った。ここは何としても防がなければならなかった。
彼はやっとのことで声を絞りだした。
「…………Mr.ルチ……」
「ボッシー・ルチアーノ」
レンスキーは驚いた目で前を見た。
怖がりもせずボッシー・ルチアーノの名前を呼ぶ男、長々と一時間近く続いてきたこの沈黙を破った男は、突然現れたカウボーイだった。一目見ただけでただ者ではないということがわかった。
全身は満身創痍だったが、目には殺気があり、低い声には力があった。
何よりも彼が現れた途端、海が割れるように数百人の賞金稼ぎが一斉に退き道を開けた。
レンスキーの目はすぐにルチアーノの方を見た。ルチアーノは口元を歪ませ首をひねった。
「お前は誰だ?」
「『ペイV首席保安官』カルビン・マックラファーティ」
簡潔な返答と共にカウボーイはリボルバーを抜いた。ルチアーノの口元がさらに歪んだ。
「首席保安官? おちょくってるのか?」
「女を探していると聞いた」
カルビンの口調は強引で強圧的だった。ルチアーノが唸りながら拳を上げたのも、ある意味当然のことだった。
だがそんなルチアーノをレンスキーが制止した。
「そう。女を探しています。十五歳くらいでメイド服を着た黒い髪の少女です」
レンスキーはもしかしたら血まみれの惨劇を見なくて済む方法があるかもしれないと思い、切なる希望を込めて尋ねた。
「すでに彼女を連れて来たら2億GD支払うと保証しました。見つかったのですか?」
「見つけた。今は取り逃がしたが。だがもうすぐまた捕まえてくる。約束しよう」
そんな言葉、今は意味がない。
レンスキーはギュッと目をつむった。ルチアーノを止める方法はただ一つ。セロン・レオネを今すぐ彼の目の前に連れてくること。今後の約束など意味がなかった。
あと数分後にはルチアーノは血を見るはずだ。このままでは恐らくあのカウボーイが最初の生贄になる可能性が高かった。
だが、カルビンはそこで止まらなかった。口も、足も。
「そこでお前も一緒に捕まえてやろう」
カルビンは歩み出てきた。彼の後ろに群がっている数百人の賞金稼ぎたちも一斉に自分たちの武器を手に取った。ルチアーノは一瞬呆気にとられたが、すぐに爆笑した。
「捕まえるだと!俺を?この『ホワイトスカル』を!」
「当然懸賞金はその女のとお前のは別で貰おう」
「レンスキー!」
ルチアーノの叫び声が響いた。
「言ってみろ! まだ俺が8分を待たなきゃいけないのか?」
「…………はいと言いたいのはやまやまですが…………もう大丈夫です」
相手がこう出てきた以上、いくらレンスキーでもルチアーノを止めることはできなかった。
彼は額を押さえ、深いため息をつきながら後ろにさがった。
ルチアーノはズンズンと前に出てきた。
カルビンもまた歩みを止めなかった。
こうしてあっという間にふたりは目と鼻の先で向かい合って止まった。カルビンの後ろには数百人の賞金稼ぎが列をなして立っており、ルチアーノの後ろには五十名のホワイトスカルが徒党を組んで待機していた。
ルチアーノは凶悪な笑みを浮かべた。
「缶詰にしてやろう」
その声と同時にカルビンがベストを開いた
「それはこっちのセリフだ。マヌケが」
そしてどこかから少女の叫び声が聞こえた。
「キャァァァァァッ!」
最後に、ビル・クライドの怒鳴り声がその後を続いた。
「この、クソが!」
…………
…………
ルチアーノとカルビン、『ホワイトスカル』と賞金稼ぎたちはしばらくその姿勢を崩さず互いを凝視した。
そして正確には30秒後に約束したかのように同じ方向に顔を向けた。
ルチアーノとカルビンは同時に互いに違う名前を口走った。
「セロン・レオネ?」
「ビル・クライド?」
ちょうどその時、今この街で最も危険なふたりの男に名前を呼ばれたふたり組は、怯える雉のように床に伏せていた。
より正確には二つの派閥が対峙したメインストリートの片側、空港の目の前にある二階建ての建物の屋上で並んで伏せたままだった。
うつぶせになったまま、ビル・クライドはできる限り声をひそめて怒りをぶちまけた。
「このアホが! あそこで悲鳴をあげるなんて何を考えてるんですか。もうここさえ下りれば空港まであと少しなのに!」
同じくうつぶせになったまま、セロンまた歯をギリギリと噛みしめながら言い返した。
「高所恐怖症だって最初から言っただろ! こんなの聞いてない!」
「『少し』だと言ったですよね!『少し』だと!」
「だから今まで我慢してきたじゃないか!」
セロンは瞬間的に拳を振り上げビル・クライドの鼻先を殴った。クライドがうめき声をあげながら鼻先を押さえている間、セロンは今まで溜まった鬱憤を余すことなく発散した。
「このクソが! 高所恐怖症の人間を連れて屋上から屋上を飛び移って移動するんだと? しかも人をカバンみたいに背負って! 頭おかしいんじゃないのか!」
クライドも勢いよく立ち上がった。
「ほかに抜け道が見当たらないのにどうしろっていうんだ! 実際あとちょっとだったじゃないか! お前が最後にその悲鳴さえ叫ばなけりゃ、今頃は空港だった!」
セロンの顔が赤くなった。
「お、お前? エラそうな口ぶりだったのにここからまた大口でたたくのか? この機会だから聞くけど、お前一体いくつなのにそんなに偉そうな口癖が付いたのかよ! あん?! 」
「もういい歳だ! なんか文句あんのか!」
いつの間にかセロンも立ち上がってクライドを指差していた。ふたりは互いに、汚い言葉で罵りあいを始めた。
もちろん彼らが忘れているだけで、街を埋め尽くす賞金稼ぎとルチアーノの『ホワイトスカル』は健在だった。彼らは屋上で繰り広げられる激しい言い争いを唖然とした表情で眺めていた。
「あいつらいったい何してるんだ?」
先にボソッと呟いたのはルチアーノだった。そしてその声に辛うじて気付いたのはカルビンだった。カルビンは低い声で呟いた。
「飛んで火にいる夏の虫だな」
ルチアーノもまた彼の声に反応した。彼は再び険しい目で目の前のカルビンを見下ろした。
「よくも人の獲物を……」
「Mr.ルチアーノ!」
振り上げていたルチアーノの拳が虚空で止まった。彼はゆっくりと振り返りレンスキー・モレッティーを睨んだ。
「なんだ?」
「その男に今手を出してはいけません」
「なぜ?」
「その目が節穴でなければ、その男のベストの内側に吊るしているのが何かご覧ください」
ルチアーノは目を細めてカルビンの方に視線を向けた。
なるほど、カルビンのベストに何かがぶら下がっているのが見えた。炭酸飲料の缶くらいの大きさで、得体のしれない金属製。そこに真っ青な光が点滅している物体だった。
ルチアーノはしばらくの間その物体について悩んだ。しかしすぐにレンスキーがその悩みを解決してくれた。
「あれはパルス爆弾です。被害範囲がどれくらいかわかりませんが……あれが爆発すると『アーマードスーツ』が数百キロのゴミの塊になってしまいます」
著者プロフィール チャン(CHYANG)。1990年、韓国、ソウル生まれ。大学在学中にこの作品を執筆。韓国ネット小説界で話題になる。
「公演、展示、フォーラムなど…忙しい人生を送りながら、暇を見つけて書いたのが『LEONE 〜どうか、レオネとお呼びください〜』です。私好みの想像の世界がこの中に込められています。読んでいただける皆様にも、どうか楽しい旅の時間にできたら嬉しいです。ありがとうございます」
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