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恭庵書房のオススメ書籍 2021/3

亀山貴一『豊かな浜の暮らしを未来へつなぐ 蛤浜再生プロジェクト』

震災で家族を失った著者が、限界集落の再生に目覚め、安定した教師の仕事を辞め、苦労を重ねながら多くの人を勇気付けた蛤浜再生プロジェクトの記録。課題先進地という言葉があるが、亀山さんが直面し解決してきた問題は、これから多くの人がぶちあたる壁でもある。
牡鹿半島に初めて行った時に出会った方で、ウルトラシャルソンの企画でも大変お世話になった。その度に話を聞いてきたが、全貌までは知らず、10年の記録に心震えた。東日本大震災から10年の節目に、全ての人に読んでほしい本。

小松理虔『新復興論』

東日本大震災10年の節目にたまたま手に取った本。いわきで活動をしてきた著者が「現場だけでなくビジョン」「当事者だけでなく周縁と未来」の大切さを説いているのは重い。政治の姿勢の犠牲となり、復興の名の下に文化や歴史が破壊される。これはどこにでも起こりうる(起こっている)こと。
地域の決断は、「今この私」と「外部・未来・ふまじめ」(いわゆる「ヨソモノ・ワカモノ・バカモノ」)を何度も何度も往復した末にあるべきだ。自分の活動(鋸南・PTA)にこの視点を活かしていきたい。

観光は、より遠くにいる人たちを切り捨てない。ふまじめな人、物見遊山の人、勘違いしている人や、もしかしたら偏見を持っている人すらも切り捨てることはない。賛成/反対、食べる/食べない、帰る/帰らない、県内/県外、支持/不支持、様々に二極化される福島だからこそ、外部を切り捨てない観光という概念は、今、もう一度再起動されるべきだと私は感じている。(p.10)
本書は、「復興」という言葉に対してかなり批判的な目線を向けている。なぜなら、復興は誰もその成果目標を掲げるわけでもなく、しかしなんとなく何かに取り組んでいる感に浸ることができるマジックワードだからだ。誰もが復興を叫ぶ。けれども、誰もその意味を問うことはない。そのゴリ押しに巻き込まれてワリを食うのは、いつも生活者である。一見、復興で何かが活性化されたように見えることもあるけれども、あれから七年経って検証してみると、地域の衰退を助けただけではないかということも見えてきた。(p.146)
地域に眠る文化や歴史を掘り起こすこと。それはすなわち「死者の声を聞く」ことだ。すなわち文化や歴史は、過去の地域づくりの痕跡そのものである。過去の人たちが、いわきをどのような地域にしたかったのか、どのような地域を私たちに残そうとしたのか、その意志の表れなのだ。震災後、私たちは「どのような地域を未来に残したいか」ばかりを考えてきてしまった。しかし、それだけでは文化や歴史は断絶してしまう。(p.358)
私たちのこの七年の選択は、つねに「今、この私たちが苦痛だから」という視点で決められてきた。私たちの苦しみはあなたにはわからない。当事者ではない人間は口を出すな。こんなものと向き合っていきたくない。もちろん、そうした声にはつぶさに耳を傾けていく必要がある。そしてそのうえで、「被災した人」だけでなく、「これから住むことになるかもしれない人」の視点を考えながら、復興のあり方を考えることはできなかっただろうか。(p.381)

ご当地シャルソン協会 編著 『ひたすら走る復興支援: ウルトラシャルソン 東日本大震災 津波被災地沿岸を走った890kmの軌跡』

東日本大震災の後、縁あって東北に通うようになった。自分なりにできることを考え、未曾有の災害の現場を走って感じて伝えることを思いついた。岩手県の釜石から、宮城・福島・茨城の各県を通って千葉県の犬吠埼まで。その距離890km。
走りながら考え、縁をつなぎ、次の目標地点を決める。2014年8月から断続的に足掛け4年。集計して初めて、のべ334人のランナー、のべ414人の講宴会参加者がいたことを知った。
参加者や地元の方のコメント満載。Kindle Unlimitedで無料です。

小松由佳『人間の土地へ』

日本人女性として初めてK2に登頂した著者が、旅でシリアに行き着き、そこで豊かな文化と異なる考え方に出会った。日本とは全く異なる状況・考え方を知るにうってつけの本であり、彼女と家族の私的な話は読者を惹きつける。状況の急激な変化に直面させられた人間の真理を追う。目を瞑りたくなる描写も端々にあるが、せめて本の中では直面しておきたい。

夕食に招かれたときなどは、食事が出るまでに五時間かかったこともある。このときは自宅にうかがってから調理が始まり、さらに足りない食材を買いに一緒に市場に行った。要は、この土地では、お茶を飲んだり食事をとることそのものより、その過程の共有が大切なのだ。そこに効率さや速さは求められない。むしろお茶や食事を手早く済ませて立ち去るのは大変失礼な行為とされる。共にゆったりと流れる時間に身を置き、今を味わうこと。それか彼らにとっての豊かな時間であり、客人への最高のもてなしとされる。(p.46)
日本人は、多様な文化を受け入れることに比較的寛容である一方で、他者が文化的、宗教的なこだわりを持っていることを、理解しにくい傾向があると感じる。〝郷に入れば郷に従え〟という言葉も私たちの価値観にすぎない。世界には、郷に入っても郷に従わないことを良しとする人々もいるのだ。(pp.242-3)
たとえ理解し合えなくてもお互いを認め合う〝緩やかな共存〟が鍵となる。(p.244)

秋田麻早子『絵を見る技術 名画の構造を読み解く』

見てるけど、観察していない。ほとんどの人が、そういう状態のようだ。実際、視線を追うと、素人は絵のほんの一部だけしか鑑賞していないらしい。
絵画を見る時のガイドとなる一定のルールがわかりやすく書かれている。たくさんの絵を見て素養を身につけるのがベストだろうが、センスにもよるだろうし、ある程度の年齢の人はその方法論を学ぶのもいいだろう。読み始めは、こじつけの理論じゃないかなとも思ったのだが、絵の前で何をしていいか分からないなら、楽しむためのヒントを知ることでずいぶん楽しめるようになるなと確信した。

佐谷恭『ユーラシア大陸横断 乾杯の旅』

僕のことを「乾杯業」と呼ぶ人がいる。自分しかできないことを求めて富士通を辞め、友人の会社を手伝い、キャリアをどう築くべきか悩んでいた頃。「仕事が充実している」という同級生が羨ましく、しかし僕は旅することを選んだ。各地で出会う人たちと、飲み比べをすることになった。この旅で感じた、楽しさとコミュニケーションと旅と平和。「乾杯業」と呼ばれる人生のきっかけはこの旅にあったと思う。



千葉県領域に存在する前方後円墳の数は、驚きの700基超。千葉県は全国一、前方後円墳が多い 都道府県研究会『地図で楽しむすごい千葉』

Posted by 恭庵書房 -Kyo'n'An Books on Friday, March 5, 2021


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パクチー(P)コワーキング(C)ランニング(R)を愛する、PCR+ な旅人です。 鋸南(千葉県安房郡)と東京(主に世田谷と有楽町)を行き来しています。