AI共作小説『パーキングにかこまれて』
近隣の古いビルが解体されると、跡地は必ず駐車場となり、「公営パーキング」という看板が掲げられた。いつのまにか周辺は濃淡をなすグレーのパッチワークが広がっている。こんなにパーキングっているのだろうか。道路を行き交う車の量とは対照的に、そこには車がひとつも駐車されていない。
ぼくが勤める保険会社の代理店はパーキングに囲まれた古いビルの2階にある。会社は社長とぼく2人だけ。1階にはビルのオーナーさんの事務所とビル関係者専用の駐車スペースがある。
オーナーさんは言う。
「昔このあたりはビルがたくさんあって栄えてたんだぜ」
ピンとこない。でも、たしかにビルの側面を見るとうっすら建物が隣接していたであろう跡がみえる。その部分はやや白く、まわりは日に焼け、うす汚れている。
パーキングはその場所特有の風物詩をぼくに提供してくれる。
夏は日光浴をするため、知らないおじさんが毎年出現した。おじさんは車で来るわけでもなく、リュックからシートを取り出し、パーキングに敷いて寝る。はじめて来たときおじさんはシートを敷いて寝転んだ瞬間、「あつっ」ていう表情をした。アスファルトが相当熱かったようだ。それからというもの、おじさんはバスタオルを持参してシートの上に掛け、上に寝転んだ。
冬になるとパーキングには雪が積もり、小学生が歩いて地上絵をつくる。ある日、会社に小学生が訪ねてきたので、窓から彼らの描いた地上絵を見せてあげた。自分らの描いた絵を確認して満足した彼らは、ぼくと社長に何度も礼を言いながら帰っていった。
ぼくも空っぽのパーキングに身を置いてみたことがある。パーキングから見上げる空に感謝したい。港のほうで飛行ショーがあり、それを駐車場の真ん中で見たことがあった。爆音をならしながら飛行機がきれいに5基そろって飛び、青空に描かれる5本の白い線が最高にかっこよかった。
そんなパーキングでも車が満車になっているときが年に一度ある。それはお祭りのときだ。その日は県外からも人が来るせいか、パーキングには、車が夕方にかけてたくさん駐車される。そしてあっという間に満車のランプが点灯する。見渡す限り、車だ。周辺の道路も渋滞だ。その日は車で出社すると、渋滞に巻き込まれて帰ることができない。だからお祭りの日、ぼくは会社に来ない。そしてその翌日出勤すると、車は一台残らず消えていた。
ある日、地震が起きた。大きな地震だった。ぼくたちは急いでパーキングに避難した。道路や駐車場のアスファルトにはヒビが入った。幸いビルは大丈夫だったが、会社の棚は倒れ、書類が散乱した。
地震がおさまって外に出てみると、パーキングにはたくさんの車があつまってきて駐車されていった。そして車からは人が出てきて、彼らは駅のほうへ向かっていった。そんな現象がその日はずっと続いて周辺のパーキングはあっという間に満車状態になった。
地震がおきてからけっこうな日数が経った。誰も車をとりにこない。パーキングは毎日が中古車フェアみたいだ。雨の日も、そして冬の日もずっと。大雪の日には、車が下半分くらい雪で埋っていた。
「みんなこの街を捨ててしまったのかもしれないね」
社長がぼくに言った。
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