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小豆餅80's - 最高の駄菓子屋さのや

子供の幸福度を上げる要素として、昭和最後の数年であるこの時代にはまだ駄菓子屋の存在が大きかった。週に何回も近所の駄菓子屋に行っては100円で買えるだけの駄菓子を買って、友達と食べている光景がまだまだあった。平成にはこの存在は消えてしまうので、本当に最後だったのだ。悲しい。

小豆餅には最高と誇れる駄菓子屋があった。「さのや」だ。

さのやは双子のおばあちゃんによって経営されている。70代くらいの寡黙で、笑顔は絶対に見せない人たちだった。この双子の佐野さんは、とにかく子供に媚びたりしなかった。口角を上げることすらしない。ストイックで鉄の女たちだった。

さのやに入ると、あの匂いがして、販売スペースの奥におばあちゃんたちの茶の間があり、その間はカーテンで仕切られていた。子供がガラガラとドアを開けて入ると、食事やテレビ鑑賞、家事を止めて、カーテンをそろりと開けて、佐野さんのお姉さんか妹さんか、どちらかが応対にあたる。男などは寄せ付けない人生を送ってきたのかもしれない。どことなくカッコ良い女の人たちだった。

この鉄の双子おばあちゃんに経営されるさのやで、少しほんわかするエピソードがある。うちで飼っていた黒猫のミスティがいるのだが、ある日さのやの中にいるのを見かけた。おばあちゃんたちに餌をもらっているようで、なんなら飼われているような感じもあった。そして更に衝撃を受けたのが、さのやにいる間は、ミスティは「コアラちゃん」と呼ばれ、完全に別のアイデンティティを持っていた。浮気猫といえば悪く聞こえるが、鉄の女たちのカーテンまでフワリと開けてしまう、そんなミスティの魔法には子供ながらに感心するしかなかった。

いまでも帰省すると、さのやの周りを歩きたくなる。この世にいなくなってしまった双子のおばあちゃんやミスティを少しでも感じられる気がするからだ。

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