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珈琲の隣に一篇の物語を

『珈琲文庫』というサービスをご存知でしょうか。
コーヒースリーブを外すと、裏側に私小説が綴られている…という、『飲む文庫本』を販売している珈琲店です。

コーヒースリーブに掲載される私小説は不定期で公募があり、この度メモ魔塾共通科・ストーリーメイク部から3名のメンバーが応募に至りました。

3名とも、この『珈琲文庫』に寄稿するにあたり新作を書き下ろしたとのことで、生まれたての作品に対する想いを対談形式で語っていただきました。

対談の参加者は、現在販売中の珈琲文庫で作家デビューしたふっくん、Amazon kindleストアで著書『母性症候群』販売中の作家まみさん、noteで短編作品を発表し、ショートショート『人生の書き直し』が人気記事となっているおかまりさんと、本記事の著者・なおの4名。

ふっくん:今回、難しくなったと思うんですよね。(応募の)テーマが。難産でしたね。何とか(書けた)って感じでした。

なお:今回の執筆テーマは「夜」でしたが、皆さんそれぞれテーマに沿った作品を思いつくきっかけは何でしたか?

おかまり:私は今回、元々書きたい作品があって。そのテーマが夜に関連するものだったから、たまたま執筆テーマに合ったものだったという感じです。
特進科で所属しているクラスで深夜~明け方までミーティングが及ぶ事があり、その時間帯は夜か?朝か?で、いつも論争が巻き起こるっていうのと(笑)、最近プログラミングを始めて、知り合ったエンジニアの人が夜型だと話してたことからイメージが広がりました。

まみ:実は私、「夜の喫茶店×珈琲」で一度書いたんですけど、私小説じゃなくて妄想だと気づいて(笑)、考え直しました。
私って、たまに「特別な夜」があるというか。決意するような夜があるんですよね。
自分が開放されて、分岐点というか「こっちに進むぞ」と決意するような夜があるな、昔からと思って。それを書いたんですよね。

最初の夜が、高校卒業して一人暮らしを始めて、初めて夜の街をプラプラしたら、ひとつ大人になったような解放感があったんですよね。それが札幌の夜で。
次が、社会人5~6年目に友達とハワイに行った時に突然一人でワイキキの周遊バスに乗りたくなって(笑)。みんなにすごく心配されたけど、何だか「自由に生きられるって素晴らしい」っていう解放感を与えてくれた。
そうやって、大人になるにつれてできることが増えていくことを「夜に、羽ばたく」と喩えて表現してみました。

なお:「夜」って、一日の時間の流れでは「終わり」や「区切り」を表しているイメージで、まみさんの作品は「夜」を人生の区切りとして喩えているように感じました。
まみ:どちらかというと、この作品は夜の暗闇の中でさなぎが孵化して蝶になるというイメージで書きましたが、蝶になって羽ばたく瞬間は「朝」が来ているのかも。
ふっくんとおかまりさんの作品にちゃんとコーヒーが登場してて、えらいなと思った(笑)。

ふっくん:たまたまです!
おかまり:たまたまなんですよ(笑)。
ふっくんがコーヒーを作品に入れたのって、朝の象徴だからですか?
ふっくん:そうですね。あえて入れたというよりかは、流れの中で出てきたという感じです。
まみ:自然なのが一番だよね。
おかまり:私は、一言で「早起き」を表現する職業を考えた時に、コーヒー屋さんが一番しっくり来るな、と思って入れました。

まみ:おかまりさんの作品は、短い中にもトレンドを抑えてるな、というのがあって。プログラマーの彼女と、コーヒー屋さんの彼。男性の方が癒し系になる、みたいな。女性の方がバリバリの「動」になるっていうカップリングって、今のみんなの「萌え」だな、と。
おかまり:組み合わせについては、色々悩みました。男女逆のパターンでも考えてみましたが、一番初めに浮かんだこのカップリングが一番良いなと思いましたね。

なお:ちなみにコーヒーショップの彼は、おかまりさんのタイプですか?
おかまり:あー、そうかもしれない。私小説とはちょっと外れますけど、憧れというか、「こういうの、いいな」っていう。普段は私がコーヒーを淹れる側なんで、誰かに淹れてほしいのかも。

ふっくん:僕は、クリスマスイブに作品を提出してるんですよ。(今回の作品がクリスマス関連なのは)たまたまなんですけど。
僕が書く時って、裏切りの要素があってオチをつけたいっていうのが最初にあるんで。じゃあどうやってひっくり返せるかってずっと考えてて、僕の中で夜から朝に逆転するっていう経験は、看護師をしていた時の夜勤だったんです。冬って日が昇るのが遅いじゃないですか。夜勤明けの朝6時だと、まだ夜景が綺麗だったなってことを思い出して。
「夜」「仕事」「夜勤」っていうワードと、上手くひっくり返せないかっていうのでこういう話になった。

なお:少し脱線しますが、ふっくんは普段から断片的なキーワードから着想を得て作品を書いていくんですか?
ふっくん:そうですね。
なお:今回の公募のように決まったテーマがない時は、どうやってテーマを探してくるんですか?
ふっくん:自由に書いてた時期は、ニュースやTwitter、街中で見かけた言葉を書き留めてました。「要素」っていうタイトルのExcelファイルを作って、そこにリストを書き込んでいく。その中のワードを組み合わせていって、思いついたら書くというやり方でした。
それか、先に結末が浮かんで、逆算して書いていくこともあります。

まみ:この作品で面白いのはね、結末まで読んでからもう一度読むと、「長く続けられる仕事ではないとわかっているものの、私から早期リタイアを申告するつもりは全くなかった。」の一文に愛を感じるんだよね!
おかまり:そう!ふっくんの作品はもう一回読みたくなるんですよね。
なお:必ず叙述トリック入れてきますよね!
おかまり:よくこの短い作品にそれを突っ込むな、って…!
まみ:素晴らしい!

おかまり:でも、みんなこの短い文字数でそれぞれの個性が出ますね。
なお:やっぱり作家さんってそうなるんですね。
おかまり:短いからこそ、いかにそこに詰め込むかを考えるんでしょうね。
ふっくん:より抽出されたコアの部分が出ますね。このメンバーでもそれぞれ担当ありますよね。
おかまり:ふっくんは必ずオチを入れるし、まみさんは情景を、私は感情が見えるように必ず書いてますね。
なお:うまく揃ってる!
ふっくん:きっと、みんな「得意」で「好き」なんでしょうね。

おかまり:まみさんもこの短い中に、浮かび上がるような情景を描いてるのがすごい。
なお:今回の作品は、札幌の夜の情景と空気や、匂いまで感じるような文章ですよね。
おかまり:あと、「funky」と「Jazzy」っていう対比の表現がいいですよね。
ふっくん:格好良かった!「funky」と「Jazzy」が同時にくるのって、日本じゃ感じられないですもんね。(※作中の場面はハワイとなっている)
まみ:ワイキキって、昼の陽気さもあるけど、夜はしっとりと落ち着いた余裕のある雰囲気になっていて。それを表す言葉を探しました。今みんなに褒められて嬉しい!
ふっくん:確かに、自分の作品の作り方って意識しないけど、400字の中で2場面用意するって凄いですね。自分じゃ絶対ムリ!(笑)
おかまり:1場面でも苦労したのにね(笑)。

まみ:いやいや、皆さん素晴らしいです。ちゃんと自分の「好き」を削ってコアにしている所が、上手いな!って感じます。
なお:それぞれ作家としてのスタイルが確立されていて凄いですね。
ふっくん:言われてみて気づきました。
おかまり:皆さんの作品と比べてみてわかった。自分がこんなに確立してると思わなかったです。
なお:今回の応募作がどんな結果になろうと、皆さんが書いた作品を集めたら面白そうですね!
まみ:短編集作っちゃう⁉
おかまり:文庫作りますか!
まみ:星新一賞に応募した作品もあるし、特進科で書いたショートショート作品もあるしね。
ふっくん:以外とストックありますね(笑)。


なお
:ちなみに、そもそも『珈琲文庫』に応募するきっかけは何だったんですか?
ふっくん:ストーリーメイク部の前身だった『物語作成プロジェクト』メンバーで応募したのがきっかけです。おかまりさんに教えてもらって。
おかまり:一昨年の星新一賞に応募した後、他に応募できるものがないかと探していたらたまたま見つけました。
なお:一昨年、昨年と続けて応募されてるんですね。毎年応募があるんですか?
おかまり:不定期みたいです。Instagramで「そろそろ募集します」みたいな感じで応募が始まる。
なお:Instagramで見ると、ショップも不定期になってるんですね。どなたか実際に行ってみた方はいますか?
ふっくん:僕は1回行きました。それで、自分の作品が掲載された珈琲をいただきました。
おかまり:素敵!それ、自分でお店の人に「僕が書きました」って言うのかな?
ふっくん:言いました(笑)。ちょっと恥ずかしかったですけどね。

なお:私、ふっくんの作品が入ってる珈琲文庫の『短編集』をオンラインショップで購入したんですけど、ふっくんの珈琲だけまだ開けられないんです。
ふっくん:僕もこれは開けられないですね。
おかまり:もうこれは観賞用というか、永久保存版だね。
最近、他にも珈琲に小説を組み合わせている「ものがたり珈琲」というのを買ったんです。珈琲に添える物語って、いいですよね。
まみ:「珈琲と小説のペアリングという新体験」だって。
ふっくん:「ペアリング」って、良い言葉ですね。
おかまり:味が2種類あって。苦い物語には苦めの珈琲が組み合わせになってました。

まみ:確かに、物語と五感って繋がってると思うところがあって。その時味わった味覚や聴いた音と、読んで浮かんだ情景が紐づくみたいな。
ふっくん:それって、読んでる時にってことですか?
まみ:そう。物語をインプットした時に感じた味や音が一緒にインプットされて、後からそれがトリガーになってその時の感情が出てきたりする。実は小説でも映画でも、物語そのものはあんまり記憶してなくて、エッセンスが圧縮されて五感に紐づいたものが頭の中にストックされてる感じ。
ふっくん:なるほど!それがまみさんの作品にも表れてるんですね。僕は逆にストーリーばっかり追っちゃって、オチを探ってるんですよね。
なお:それが作風に表れてますね!(笑)
ふっくん:そう、自分もそうなってるんだと思った(笑)。どんどん展開していかないと、そういう作品は面白くないんですよね。ストーリーが進む中で、受け手が考えるような要素がないと面白くないというか。前半からの繋がりが後半で見えたりすると「おおっ」って思うんですよね。
なお:確かに、構成がしっかりしてる作品って何度も読みたくなりますもんね。
おかまり:ふっくんの作品は、ページ戻りたくなる!毎回。
ふっくん:やっぱりそういうのが好きなんでしょうね。もっと上手くなりたいです。

おかまり:私は、オチがあるものはあんまり印象に残らなくて。地味な設定の中でいかに感情を揺さぶるかっていう話が好きなんですよね。だから壮大なスケールの映画ってあんまり観ないんですよ。
なお:確かに、おかまりさんの作品って普段の何気ない感情が甦ってくるような物語ですよね。
まみ:今って壮大な物語と日常的な物語に二極化しているように思う。その中で、おかまりさんのように日常的な物語だけど読み続けたくなるようなものを作るってすごいことだなと思います。

おかまり:また書きたいですね。いずれまた応募があると思うので。
ふっくん:こういう企画がある方が書けますよね。締め切りがあると…(笑)
おかまり:そう!テーマと締め切り(笑)。
なお:ストーリーメイク部内でも色々企画していきたいですね。
ふっくん:どうなるんだろう?各々の個性が…(笑)
おかまり:みんな違うから、好き放題やるかも!ふっくんがオチをつけたがって、私はオチいらないって言うとか(笑)。
まみ:みんなで脈絡をつけようとしてるのに、「萌え」しか書かない人がいるとかね(笑)。
おかまり:ふっくんの作った伏線回収しない、みたいな(笑)。
まみ:すごいカオスになりそう(笑)。

この後は、様々な新しい企画のアイディアで盛り上がり、座談会は終了となりました。
個性豊かなストーリーメイク部のメンバー一同、今後も色々な作品や企画を発信していきますので、どうぞお楽しみに!

↓まみさんの著作はこちらから


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