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After FAT#02 interview -能作淳平- 「ニュータイプ建築家が見てる未来」

After FAT#02 interview では、FAT#02の会場となった「富士見台トンネル」の設計・運営を行う建築家 能作淳平さんのもとを訪ね、FAT#02の感想やご自身の活動について語っていただきました!これからの空間づくりはどういった方向にシフトしていくべきなのか、そして、FATはどこに向かっていくべきなのか...!今、ニュータイプの建築家として注目されている能作さんからのメッセージ、必見です!

ー以下、インタビュー記事。

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01.「個人的でありながら共につくる」

―――― FAT#02「これからのものづくりのために、どう修業する?」では、この場所(富士見台トンネル)をお貸ししていただくだけでなく、議論にも参加してくださいました。今回のテーマや当日の感想について思ったことがあればお聞きしたいです。

能作
最初に企画をいただいた段階で、今本当に必要な議論だと共感した気持ちは終わった今も感じています。働く内容というよりはその一歩手前の議論をしっかりしようという感じで、出るべくして出たテーマかなと思いました。とりあえず仕事をはじめてどんな戦術でどう勝つのかという議論に入るのではなく、その前で立ち止まってそもそもどうしてこのような仕事をしなきゃいけないんだっていう倫理観みたいなものを考える感じですよね。それって、ようやく今そうやって落ち着いて周りを見渡せる時代になったのかなと思いました。

当日は、お客さんの中に学生もいたけど、社会に出た人たちが働くとはどういうことなのかって議論できていたのはすごく良いなと思いました。学生って社会的なルールはそこまで考えずに活動できる時期だから理想について語るって結構やると思うんですけど、実際に働きだすと社会のルールを覚えたりだとか、効率よく働くにはどうするかとか、そういう技術論にみたいな方が多くなって、あんまり倫理観とか理想論ってできないという感じがしています。でもあの場はみんなが、どうあるべきかとかについて純粋に話してる感じがしました。あとは、よくある建築の抽象的な議論ではなくて、理想を語ってるんだけどどこか具体的というか、プラクティカルなのが良かったですね。

内容のことで言うと、登壇者の野村さん(野村涼平 : Node Collective KYOTO 共同主宰)がテーマにしていた「サステナビリティ」というのは僕も共感しているところなんだけど、なんとなくそれをあの場にいた多くの人から感じましたね。極端に言うと無理しなくても勝手に続くようなシステム にしなければいけない切迫感を持っているのは若い世代に共通の感覚だなと。ひとりで頑張ればいいっていうことに限界を感じていて、とにかくもう個人の時代じゃないんだなというのを感じました。それが自分を犠牲にしてもみんながハッピーならそれでいいみたいなボランタリーで仲良しこよしなつまんない議論ではなくて、みんなでつくるんだけどその中にクリエイティビティを見出そうという前提で議論してたのが良いなと思いました。個人で全部かっさらう気はさらさらないっていうのが今のリアリティだなと。

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―――― 少し上の世代の議論の場だと個人が全部かっさらうみたいな、それをそれぞれみんなが思っているみたいな空気感というのはあったのでしょうか?

能作
確かにそんな雰囲気はありましたね。最近はみんなあんまり出さないようにしてると思うけど、僕たちがまだ学生の頃、それこそちょっと上の先輩たちが議論してる場は戦う雰囲気が強かったんです。それってでも僕たちみたいな聞いてる学生はついていけなくなる感じなんですよね。でもあの時代の建築家は人数も多くて、競争が起きるのは自然の摂理だったのかな、と思います。世代論になると面白くないんだけど、なんとなく僕のまわりを見てても、競争の中で一番を目指すよりも人と異なれっていう価値観を確立している人が多いと思う。

僕らの世代も人口としては減り始めの頃なんだけど、今回集まってた人たちの多くは同世代の人口がもっと減ってる世代ですよね。そうすると、日本っていうめちゃくちゃでかいシステムをこの人数で維持するためにはチームワーク作っていかないとまずいよねっていう危機感が自然と生まれてるのかなって気はしましたね。もちろん僕らもそっちに片足突っ込んでるから、個人的でありながら共につくるっていうことをどうやったらできるんだろうってことを考えています。富士見台トンネルのテーマもそういったとこからきてますね。


02.「これからの建築」

 
―――― 当日の議論の中で富士見台トンネルはプレクライアントやファンみたいな人たちと関わる場として考えているといった話があったと思うのですが、そういった建築だったり、建築家の動きはこれまでなかなか見られなった新しいタイプだと思います。それを踏まえて、これからの建築はどう変わっていくと思いますか?

能作
誤解を恐れずに言えば、建築業界って正直そこまで社会から切望されているジャンルではなくなったような気がするんです。空き家とかが問題になってるのもまさにそういうことで、設計手法もかなり高度化して、デザインの観点でいっても個性的な作家や建築作品もたくさんあって。でもなぜか使い方だけ全然知らない。建築についての議論はこれだけ盛んにしてきたのに、使い方の議論は全くしてこなかった。そこは自分たちの仕事じゃありませんという感じで。ハードにしかクリエイションがないと思われてるし、自分たちが思ってしまっているっていうことが今の業界の最大の弱点かなって感じます。でも、そう感じてる人はそんなにいないのかなってずっと思ってたんですけど、先日の会だとそこは皆さんに共感してもらえてるのかなって思いました。登壇者だった三文字さん(三文字昌也 : 合同会社流動商店 共同代表)とかも都市計画というあれだけハードなものに関わってるにもかかわらず「飲み屋やってます!」みたいな(笑)

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 ―――― 能作さん自身の活動ではどのようなことを考えているのでしょうか?

能作
大袈裟かもしれないですが、近代をいかにちゃんと乗り越えるかっていうことかなと思います。ただそれはこれまで建築がやってきたようなポストモダニズムとかコンピューテーショナルデザインのように抽象的な「表現として近代」を乗り越えるってこととは違うんです。近代は技術革新が起こって何かをプロデュースしていくってことがそれまでの比じゃないくらいどんどん効率化されて凄い時代だったんだと思うんです。でも今そのシステムが少し使いづらくなってしまった。要はOSが古くなったみたいなことだと思うんですけど、産業にしたって行政にしたっていろんなところでシステムが限界を迎えてますよね。だから近代を乗り越えるということを議論する中で、建築についても、どういうシステムをつくってどう使うかといったガバナンスの話をしっかりした方がいいと考えています。

たとえば富士見台トンネルをつくって運営しているときには「統治的解法・市場的解法・工作的解法」という3つに分類して考えています。これは食のサービスを人に渡す方法を分類してみた時にでてきた3つの解法なんですが、これを建築にもあてはめています。

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まず「統治的解法」というのは、給食とか炊き出しとか、大量に均質なものを与えるという方法です。クオリティはそこそこだし、例えばアレルギーの有無や好みとかの個別対応は難しいけど網羅的に配給できる。今の行政のあり方もこれにあたります。

それに対して「市場的解法」というのは、もう少しおいしくしたいとか、地域性を出したいといったようにバリエーションを増やしたい場合に経済原理を持ち込む方法です。たとえばコンビニとかがこれですね。これによって給食ではできなかった微妙な違いを持つバリエーションを提供することが可能になりました。一方でこれの問題点は貨幣価値に頼りすぎたことで貧富の差が生まれてしまうことと、コモディティ化が起こって売れる商品しか置かなくなるからマイノリティに対応できないということです。

最後に「工作的解法」と言っているのは、自分たちでつくること。簡単に言うとバーベキュー場みたいな状態のこと。バーベキューできる環境はあるんだけど、火起こしとか焼くとか、最後のひと作業は自分たちでやってくださいという感じ。これによってコストが下がるっていうことと売れるものしかなくなるってことを回避できる。実家から送られてきた野菜も使えるし、お店で食べたら凄い高い松坂牛だってちょっと安くなるし、アレルギーとかは個別対応できる。

富士見台トンネルでやっているのはまさにこの「工作的解法」なんです。普通は運営者とサービス提供者が一緒だと思うんですけど、ここはキッチンを用意して僕が運営するんだけど、僕は調理しないという状態になっています。設計事務所に併設された直営のカフェの方がブランディングはしやすいんだけど、ラストワンマイルを残すことの方が大事なんです。僕がいて、サービス提供者がいて、お客さんがいるっていう3者いる関係をつくっておくとなんとなくサービスを受ける側と与える側ってならないんです。お客さんだって会員になればいつでもサービス提供者になれるし、逆もあります。いろんな人が出店できて、お店が日替わりの方が楽しい上に実は運営として新しい形態なので、これからこの運営方法はもっと増えるのではないかと思っています。

 -工作的解法によってその空間に参加する人たちの主体性が高まることでサービスの質が向上するということですよね。それって結局その場所の空間性にも帰結することかと思うのですが、富士見台トンネルでは今の話がどのように空間にも結びついているのでしょうか?

能作:
そうですね。とにかくインタラクティブな空間でなければこの工作的解法はできないだろうと思っています。富士見台トンネルのインタラクションって何かと言うとこの大きくて動かせないテーブルなんですよね。統治的解法でやろうと思ったら、このテーブルは置いてはいけなくて、移動可能な家具を配置したフレキシブルで誰にでも使えるし、どんな用途にも当てはめられる空間が求められます。だからこそ空間を規定してしまうルールのようなものを与えることが工作的解法へのヒントなのかなと思っています。僕ら建築を学んでる人たちって学生の時とか図面にテーブルとイスいくつか配置してカフェって書いとくみたいなことするじゃないですか。あれって非常に統治的な概念で、ハードは作っておくので中のソフトは何でもいいからみなさんで決めてくださいということですよね。だから多目的スペースというのは統治的解法との結びつきが非常に強い。そういう意味ですごく大きなテーブルが邪魔してくるこの空間はそれとは全然違うものだと考えています。

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03.「ムーブメントにするべき」

 
―――― このFATとい活動は今後どのような社会的な位置づけになれると思いますか?

能作
ひとつ思うのは、工夫が必要だと思うんですが、ムーブメントにするべきだなとは思いました。ムーブメントってすごく曖昧で雰囲気みたいなものでもあると思うんですけど、例えばムーブメントや概念に国際会議の名前がついてたりとか議論してたサロンの名前が付いてたりとかするじゃないですか、なんかそういうものだといいなって思っています。なんかあそこで時代が変わったよねって言われるものになるべき。それは今までの議論の種類と少し違うからそう思うんですよね。そのためには水平方向垂直方向の二つの軸が必要なんだと思います。

水平方向というのは、例えばアートだったり広告だったりすると思うんですけど、建築の横に並んでるジャンルを超えた議論にしていくべきということです。今回の会のテーマを見ていても建築の技術論ではなく、もう少し引いた視点の働き方というジャンルを越えて社会的に必然性のあるものだったと思うんですよ。他のビジネスの最先端は、進んでいるものもあれば進んでいないものもあるし、進まなくていいものもある。そういったものを比較していくことによって今の建築産業ってどういう立ち位置にいるのかをまず認識しないと次の時代の建築産業が何かなんてわからないですよね。

垂直方向というのは時間軸のことなんですけど、バブル期、戦後復興期、90年代の都心回帰している時代、00年代のITバブルの時代、3.11の震災後、時代ごとに建築をつくっていた人たちのリアリティって全然違うと思うんです。その違いも認識できるような会になると良いですよね。今はまだ同世代の同じリアリティを持った人たちが話しているという感じで、外から見ると若者の集いみたいに見えるので、その枠を越えるとより伝わるなと思います。

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今回の登壇者の皆さんはそういう雰囲気ではなかったですけど、経験してない人間なので言えないっていう感じだと良くないですよね。経験という尺度だと年上の人の方が基本的には言えることは多いんですけど、若さという尺度だと若い世代の人たちしか感じ取れないリアリティもあるはずなんです。そのリアリティに対してちゃんと自信を持って言える場である必要がありますね。自分たちのリアリティを突き詰めていく中で、これって他の世代の人たちも使えるよね、というような内容を意識していくとFATはムーブメントになるなって思います。なのでその横軸縦軸で整理しながらテーマ選びをして、今後も活動を続けていければ面白いのかな。続けるというのは「頑張って続けてください」ではなくて、「サスティナブルに続けられるシステムが必要ですね」という意味ですね(笑)。


能作淳平
1983年富山県生まれ。2006年武蔵工業大学(現・東京都市大学)建築学科卒業。長谷川豪建築設計事務所勤務を経て、2010年ノウサクジュンペイアーキテクツ設立。2019年富士見台トンネル設立。現在、東京理科大学、東京都市大学 非常勤講師。
主な受賞歴に、SDレビュー2013 鹿島賞受賞(高岡のゲストハウス)、2015年 東京建築士会住宅建築賞(ハウス・イン・ニュータウン)、2016年 第15回ヴェネチアビエンナーレ国際建築展 審査員特別賞受賞、SDレビュー2016入選(富江図書館さんごさん)など。

JUNPEI NOUSAKU ARCHITECTS
http://junpeinousaku.com/info/

【能作さんの他の記事はこちら!】

TECTURE MAG
Study Series 能作淳平「働き方を郊外から考える」
https://mag.tecture.jp/feature/20200413-interview-with-junpei-nousaku-01/

ソトコト
『富士見台トンネル』
https://sotokoto-online.jp/1056

―――― 追記
今回も、たくさんの方々のご協力大変感謝しております!能作さんには、我々の活動に興味をもっていただいた上に、富士見台トンネルをお貸しいただき、さらにはインタビューにまでご協力いただきました。本当にありがとうございました!

【FAT#02】
FAT#02の記事はこちらから!
https://note.com/past_fat_2019/n/n1296fe0d5587

【日時】
2020/3/4(水)

【場所】
富士見台トンネル

【インタビュアー】
水野泰輔 :
PAS-t 共同代表, m-sa パートナーアーキテクト

池上彰 :
PAS-t 共同代表, TERRAIN architects 所員
https://terrain-arch.com/



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