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FAT #01 海外インターンを経て、どう働いていく?

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第1回「Future Architects Talk」では、海外の建築設計事務所でインターンを経験してきた5 人が、それぞれの経験を踏まえて、『これからどのように働いていきたいか』をテーマに議論しました。

以下、当日の議論の一部抜粋。

01. 「建築っていう手段を通して何ができるか」

水野 : 
この座談会をやろうと思ったのは、そもそも海外インターンというものが自分たちにとって何だったのかということも含めて、これからのことを考えたいと思ったのがきっかけです。
結局、自分たちが海外で思ったのは、働くということ自体が国や場所によって全く違う。そこから暮らしとか建築とか、全部繋がっている。自分たちが暮らしていた日本っていうのもそのうちのひとつでしかなくて、みんなの経験を共有することで相対的に考えられるんじゃないか、そして今、それぞれの経験を踏まえた上で何をしたいのかを話し合うことに価値があるんじゃないかと思っています。
そうしたことを会場の皆さんと一緒に話していけたらいいなと思います。

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池上 : 
そもそも僕の海外インターンは途上国・先進国を跨いで何かしなきゃいけないんじゃないかという漠然とした思いから始まったんですけれど、今ははっきりとそういった働き方が重要だと感じています。日本に軸足を置くんだけど、それだけではなく海外のプロジェクトに関わりたいという気持ちが強いです。また、僕はこれから建築設計という分野で仕事をしていくと思うんですけど、その時クライアントから来たものをただ受けているというプロセスだけだとどこかでこの世代は仕事を取れなくなるんじゃないかと思っていて、僕の場合はもう少し設計以外の活動というものを絡めた上でやっていきたいのかなと思っています。
僕の場合はインターン先が小さい事務所だったからか、来た仕事をそのままこなすというようなことが多かったのだけれど、大きい事務所はむしろ先に提案をするというような、やりたいことをやれる仕事のつくり方を持っているのかな?

上月 :
MAD Architects は特殊なんだけど、行政との近しい関係があって、ほとんど条件のない中でマスタープランや模型を自由につくってくれというような依頼が多かった。そういうことがありえる国でした。設計の依頼に関するプロセスはあまり携わることができない場合も多かったけれど、オランダのインターンの時にもそういうようなことがありました。この1年間では 白紙の状態から何かを作り出すという経験がたくさん経験させていただけたと思います。

池上 : 
パブリッシュの仕方もどんな依頼がほしいかということを意識しているのかな?

上月 :
100人とか300人とかの規模だと社内に広報部のような部署もちゃんとあって、建築をバックグラウンドとしている人ではなく、パブリッシュのリテラシーの高い人たちというのも組織の中に組み込まれています。対外的に自分たちがどういうことをしているのか発信していくのを意識していると感じました。

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池上 : 
パラグアイとかはどうやって仕事をとってくるの?

土屋 :
パラグアイはアミーゴ文化なのでコネクションで仕事がやってくる。汚職とかもひどいのであまり皆が公的なものを信頼しておらず、個人的なつながりを大事にしていて、そういうところから仕事も生まれる。建築家もいろんな人たちとフラットな関係を築いてお互い面白いなってなったら依頼するというような形だとと思います。

池上 : 
そういうのって日本でも起きてるのかな?

土屋 :
日本でも小さな個人事務所のようなところでは同じように人とのつながりで仕事が来たりするのかなと思っていて、同じようなところはあると思うんですけど。建築家だから家を作るというようなことではなく、建築家と区切る必要はなくて、やっぱり自分の興味があることにどうしたら繋がっていけるのかなということを考えていこうと思っています。建築っていう手段を通して何ができるかなっていう形でやっていけばいろんな人とつながることになっていくんじゃないかな。

池上 : 
それはたしかにその通りだね。
自分がインターンしていた国に戻ってこの先働いていくということはありそうですか?

林 :
やっぱり言葉の問題っていうのはあると思うんですけど、ポルトガルもアミーゴ文化っていうことはあって、ラテン気質でみんな友達みたいな感覚があるのでやっていけるなっていう感覚はあるんです。補足なんですけど僕の行っていた事務所は10人しかいなくて、そのうちインターン4人、所員が3人、ボスが3人。ボスの一人がエンジニア。日本の小さい事務所でエンジニアがいるっていうのはあまりないよね。模型を作ってる時にこれは厳しいぞってエンジニアの人が言ってくれたりする様子があったりする。建築って、街づくりとかプロダクトとか分野にこだわらずにいろんなことと関わるような仕事をしていければこれまでにないような建築になるんじゃないかと思ったりしますね。

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02. 「海外か日本かっていう話じゃない」

池上 : 
みんなに聞きたいんですけど、来年の3月に卒業して、それぞれどういった進路を考えてますか?

水野 : 
進路はまだ決まっていなくて、 というのも元々はフィンランドで行っていた事務所に就職することを目標としてインターンしていて、インターンの中頃にもそういう話をくれてたりしたんですけど、インターンの終わりに改めて、就職するのも一つだけれどお前だけができることを探した方がいいんじゃないかと言う話をされたんです。元々ボス自身も複雑な経歴を持っていて軍人だったり、記者だったり、建築家だったり、何者かがうまくつかめない人なんです。こうしたこともあって建築家って何なんだろうという疑問が強くあるので、今回のこのFATのような場を通して、それが何なのかを見つけらるような進路を考えようと思っています。

林 :
自分がやらないと何にもできないという環境に置かれないと何もできないので、留学もそうですし、就職もそうですけれど、自分の環境を変え刺激を与えながら、最終的には自分の地元である奈良県でまちづくりに関わりたいと思っています。奈良県っていうのはリサーチ不足でまちづくりがうまくいっていなくて、本当は今すぐにでも関わっていきたいと思ったりしてます。 ただスキルがやっぱり足りないなっていうのもあるんでひとまず東京(の設計事務所)に来ようと思っています。

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上月 :
僕も今まだ決まってないんですが、これからずっと日本でやっていきたいとは考えてないです。今、隈研吾研究室で学んでるんですが、彼が大事にしている素材感とか技術みたいなものを身近で見ていると、日本人なのにそういう武器を持たずに外に出るというのがとてももったいないような気がして、直近の数年間は日本で少し修行をするという形で考えています。

土屋 :
特にパラグアイに帰ろうとか、そういうことは考えてないです。だけど、1年間という単位で見るとやっぱり観光者目線というか、外から見ている目線というのはやっぱりずっとあったんじゃないかと思ってます。日本でやることと海外でやってた事っていうものの間にやっぱり境界線みたいなものをどうしても引いちゃってるんじゃないか、だからうまく繋がらないんじゃないかって思うことがどうしてもある。パラグアイはパラグアイ、日本は日本みたいな感じでつなげようとしてないんじゃないかと感じることもあります。
結局、海外か日本かっていう話じゃないと思うんですよね。自分の中でそれをどう解釈して繋げられるようになるかっていうことなんじゃないかな。海外に行ったことのある人は日本に戻ってきて海外で経験したことをどうつなげているのか、どう捉えてるかっていうことを会場のみなさんにも聞いてみたいです。

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03. 「アイデンティティと場所性」

池上 : 
では、会場にいらっしゃる方の意見も聞いていきましょう。

会場1 :
自分は三年間ロンドンで働いたあと日本に戻り、設計事務所をたちあげました。独立後も年に1回程度で渡英し、一緒に仕事をしたりしています。はじめの頃は、自分が生まれ育った国とそれ以外の国とをうまくつなげる役割になれたらいいなというのがひとつのアイデアとしてあり、関り続ける中で、自分の文化を他の国の人に説明するチャンスもあれば、他の国の文化を自分の国の人達に広げられるチャンスもあって、自分自身を認識するためにもすごく大事なことだという気づきがありました。独立を考えたときに、どこをベースに活動していくかっていうことって、結局どこに骨を埋めるかっていうことだと思ったんですよね。そうしたときに、 やっぱり日本の人たちと話をしながらものを作ったりとか、最終的に自分が死ぬまで携わった物と近い関係にいて、何かしらプロジェクトを続けていくような経験をすることが建築家にとって大事なのかなってことを思い、日本で仕事をしております。日本かどうかってことよりも、何かしらの違いというものを認識しながら仕事をしていくってこと自体が大切なのかなと。やりたいことをやっていくっていうことがその枠に縛られる必要はないかなという気はしています。

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会場2 :
僕は台湾で生まれ、先日ロンドンの大学を卒業して日本に来ました。ロンドンにいる時から感じていたことですが、一箇所にいるよりも様々な場所に身を置くこと自体が楽しみですね。イギリスにいたときはずっとロンドンに建築事務所を持つ日本人建築家の下で働いていたんですけど、外国人であり文化が異なる事を認めた上で海外に拠点を持つ建築家として働くってどういうことなんだろうと思ったことが台湾でもイギリスでもなく日本で仕事をすることにしたきっかけでしたね。そうした背景を持つからこそ見える都市に対するクリアな視点だとか、ロンドンという多文化都市において外国人のアイデンティティを持って活動するってどういう形があるのかとか、どれだけロンドンにいてもイギリス人にはなれない中で生きていくことの面白さについて考えてきました。そんなことを考える中で、ロンドンという場所から東京という場所へ移るタイミングなのではないかと感じたんですよね。東京は少しだけ馴染みがあるように思えるんですが、自分が外国人であるということには変わりはなくて、小さいながらも国際的に働くということにワクワクするんですよね。だから僕は東京に来ました。ここから何を得られるのかはこれから考えていくことになると思います。なぜ自分は海外で働くのか、ロンドンや東京、そして台湾。自分はどのようにこれらの都市に貢献することができるのかという問いと暫くは一緒に居ようと思います。


【日時】
2019/11/3
【場所】
発酵するカフェ麹中
【主催】
PAS-t

【登壇者】

水野泰輔 : 横浜国立大学 Y-GSA
Casagrande Laboratry[Finland/Helsinki]

池上彰 : 横浜国立大学 Y-GSA
DOS Architects[UK/London], TERRAIN Architects[Tokyo, Uganda/Kampala]

上月匠 : 東京大学 隈研吾研究室
UNStudio[the Netherlands/Amsterdam], MAD Architects[China/Beijing]

土屋瑛衣子 : 東京工業大学 塚本由晴研究室
Gabinete de Arquitectura, Javier Corvalan + Laboratorio de Arquitectura[Paraguay/Asuncion]

林健太郎 : 京都工芸繊維大学 松隈木村研究室
fala atelier ida[Portugal/Porto]

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