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映画「PERFECT DAYS」~喪失と再生の物語~パートⅡ

    東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、
         静かに淡々とした日々を生きていた。
    同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働いた。
      その毎日は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、
             同じ日は1日としてなく、
           男は毎日を新しい日として生きていた。
    その生き方は美しくすらあった。男は木々を愛していた。
           木々がつくる木漏れ日に目を細めた。
    そんな男の日々に思いがけない出来事がおきる。
           それが男の過去を小さく揺らした。

PERFECT DAYS 公式サイト

 観たのは2回目でした。映画館を出てから、駅に向かう途中で「生きる悲しみ」という言葉が、ふと心に浮かびました。

 過去に読んだ「生きるかなしみ」(山田太一・編)という本の影響なのでしょうか? 平山(役所広司)も含め、この映画の登場人物が、それぞれの悲しみを内に秘め、それでも生きなければいけない「悲哀」に、目を向けたせいなのかもしれません。

 悲哀といえば、居酒屋のママ(石川さゆり)が唄った「朝日のあたる家」に心を動かされました。「孤独」や「絶望」、そして「悲しみ」を帯びたメロディーと歌詞に胸が熱くなったのです。気になったフレーズがありました。

           誰か言っとくれ 妹に
           こんなになったら
           おしまいだってね
           私が着いたのは 
           ニューオリンズの
           朝日楼という名の 
           女郎屋だった

アメリカ民謡〔訳詞〕浅川マキ

 平山は映画の後半で妹に再会しますが、歌詞のような絶望感はないと思います。ヴィム・ヴェンダース監督がインタビューで語っているように、今の「境遇」に流れ着いたわけではなく、自分で選択したからです。

「生きる悲しみ」という視点から、この映画を解釈したつもりでしたが、平山は「悲しみ」を抱くのでなく、逆に手放している気がするのです。拘らないのです。今を大切に生きているのです。

 姪のニコに彼は言います。「今度は今度。今は今」と。平山の生き方を象徴する言葉だと思います。未来にも、過去にもとらわれない、今この瞬間を生きているのです。そして、楽しんでいるのです。

木漏れ日(komorebi):風に揺れる木の葉によって生み出される光と影の揺らめきを表す日本語。それはその瞬間に一度だけ存在します。

映画のエンドロールで表示された「木漏れ日」の意味

 ヴィム・ヴェンダース監督が「木漏れ日」を通して伝えたかったのは、「生の儚さ」と「一瞬一瞬を大切に生きる」という人生観だったのかもしれません。

上映が18時だったので、空いた時間に映画の中にも出てくる「恵比寿公園トイレ」に行って来ました。平山さんはいませんでした。もしも会ったら、声を掛けたと思います。

    私「平山さん、今度さゆりママのお店で一杯飲みませんか?」
   平山「えっ、今度? 今度は今度。今は今」

おあとがよろしいようで🙇‍♀️

はなびらに新春の風はたのしく、

草原の花の乙女の顔もたのしく、

過ぎ去ったことを思うのはたのしくない。

過去をすて、今日この日だけすごせ、たのしく。

(オマル・ハイヤーム・ルバイヤートの名言から『ルバイヤート』)

「この世界は、本当はたくさんの世界だ。繋がっているように見えても、
 繋がっていない世界がある」予告編のセリフから

                                恵比寿公園トイレ(男性用)
                              恵比寿公園トイレ(男性用  内側)


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