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【セカンドブライド】第1話 カエルさんとの出逢い

小さい頃、「将来の夢は?」と聞かれたら、「お嫁さん!」と答えていた。でも、何度もお嫁さんになりたかった訳ではない。永遠の愛を誓うと思っていた。王子様とお姫様が末永くいつまでも幸せに暮らす様に、幸せに添い遂げると思っていた。

これから綴るのは、時が経てば笑い話と言う類の話。夢破れた失敗談で、振り返ってみると、人生をかけたコメディかも知れない。でも、しっかり苦しい時もあったから、悩む誰かに届くと良いな。

どんなに苦しい想いをしても、失敗しても、何度でも立ち直れる。逞しく美しく生きていける。そう信じている。いや、そう信じなきゃ生きていけない!

結婚や離婚に悩む同志へのエールになります様に。

Episode begins.

二番目の夫との出逢いは、ランニングクラブだった。

私は出来たばかりのランニングクラブに子連れで参加する様になった。
生活に少し疲れた時だったのかも知れない。少しだけ、仕事や子育てを離れられる自分の時間が欲しかったのかも知れない。
それは北関東のある都市にフルマラソンの大会が開催される様になったことをきっかけとして出来たクラブで、メンバーはほぼ周辺の人だった。

ある初夏の日、私の住むところの近くに良いランニングコースがあると言う話になり、5人ほどで集まって少し離れた桜の名所の公園まで片道3キロほどの道のりを走ることになった。

その道は、小さな川沿いの舗装路で、車も通れない道だと聞いていた。
そこで私はお散歩がてら息子を自転車に乗せて参加することにした。
そしてその旨を皆に了承してもらおうとクラブの掲示板に書き込んだ。

練習日当日、息子の自転車を車のトランクに載せて、集合場所まで行った。
集合場所の駐車場について、息子の自転車を下ろしていると、公園の花壇のところに脚を開いて腰かけていた知らないおじさんが、手を振りながら近づいて来た。背はそんなに大きくなくて、細身だった。そして、ランナーだと言う割には色が白かった。

彼は近づいてくると、「こんにちは。ぱるさんと息子さんですよね?」と言った。私も「こんにちは。カエルさんですか?」と聞いた。彼はそうだと答え、息子に向かって「今日は、自転車頑張ろうな」と言った。そして、手に持っていた袋を破いて、私の息子の自転車のかごに凍った一口サイズのゼリーの袋をザラザラと入れてくれた。

「優しそうなおじさんだな」それが第一印象だった。

そのランニングチームでは、みな、ニックネームで呼び合うことになっていた。とは言っても40代の人がほとんどだったので、例えば、大輔さんが「だいちゃん」だったり、森田さんが「たもさん」だったり、みな、実際のニックネームから本名が推測出来た。

でも、彼はクラブの掲示板で「カエル」と名乗っていた。
最初の挨拶でも他の人は苗字を言ってからニックネームを言うのに、彼だけは「カエルです🐸」と挨拶した。

子供を連れて来てるから、身元が怪しい人と過ごすのは不安だ。
だから、走り始めてから聞いてみた。

「本当の名前は何て言うんですか?」
「哲(サトル)」
「苗字は?」
「鈴木。母ちゃんが渡哲也が好きだから、一文字もらってサトルになった。」スズキサトル、いたって普通の名前だった。

「え?じゃ何でカエルさんなの?カエルが好きなんですか?」
「ニックネームで呼び合うって言われたからカエルにしたけど、カエルは好きじゃない。」と言う。実際、彼はカエルに触れることが出来なかった。
どうやら深い意味は無くて何となくと言うことらしかった。

夏の日差しは強かったけれど、桜並木には木陰が出来ていて、そよ風も吹いていて気持ちが良かった。

子供の自転車に合わせて走るから、私はメンバーに遅れ気味だった。
みな、気にして代わる代わる息子の自転車の後ろ側に付いている持ち手を押して進めてくれた。男性が押すと速く進むから息子も楽しそうだった。

本当はサトルだけど、カエルと名乗る彼はずっと私と息子のペースに合わせて走ってくれていた。

私は彼のことを、良い人だけど、でも、ちょっと変わった人なのかも知れないと感じていた。


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