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【セカンドブライド】第22話 カエルさんとの夜中の会話

誰かとケンカ別れになったその場所に、そのまま留まっていると思考が前に進まないものなのだと言うことを知った。暗い玄関で一人、しばらくグルグルしていた。

彼に泣きすがり「行かないで!」と言いたい気持ちになった訳でも、逆に「清清した!」と言う気持ちになった訳でもなかった。ただ、何だかとっても後味が悪かった。

気持ちが晴れないからと言って目の前の育児に代わりはいない。気を取り直して、子供達と三人でお風呂に入り、いつも以上にはしゃぎ、娘と息子の頭をシャンプーの泡ででソフトクリームにした。おそらく、子供達も何となく私とカエルさんの雲行きが怪しいのは気づいていたと思う。でもここ最近、カエルさんが帰った後は、次の日のお夕飯の仕込みでバタバタしていたママが、仕込みから解放され伸び伸びとしているからかいつもより笑顔だった。

子供達には私しかいない。だから、今回のことは間違いではない。私が解決出来る方法はこれしか無かったんだ。もう、「なる様になれ。」と思った。

お風呂から上がったら、メールが入っていた。

「件名:カエルのお願い🐸
子供達が寝たらちょっと話せるかな?連絡してねー!」

そのメールを見た時に、思わず少し笑った。そうなのだ。彼は、こういう時びっくりするほどめげなかった。

いつも、子供達と一緒に布団に入って3人で本を読んだりお喋りしたりした。そして、2人が寝つくまでは私も一緒に添い寝した。私の方が先に寝てしまい、気づいたら朝だと言うことも度々あった。気をつけないと眠ってしまう。その夜は暗い中で、目を開けたまま子供達が眠りにつくのを待った。

「子供達、寝たよー。」とメールした。そして、カエルさんが掛け直して来るであろう電話を待った。

5分ほどすると、メールが入った。確認すると、予想に反して「ドアの前に居るよ。開けてー。」と書いてあった。

急いでドアを開けると、カエルさんが立っていた。
「シュークリーム買って来た。一緒に食べよう。」

「ありがとう。でも、帰らなかったの?ずっと居たの?」
「うん。コンビニの駐車場で待ってた。はい。これ。」

そう言って、カエルさんはシュークリームが入ったコンビニの袋と一緒にATMの横に置いてある緑色の銀行の封筒を差し出した。

「何これ?」
「上靴のお金。3000円あれば足りるでしょ?」
「お釣りが来るよ。でも、いいよ。お金は、大丈夫だよ。」
「いいよ。余ったら子供達にお菓子でも買ってあげて。オレ、考えたんだ。ここ一年さ、ぱるちゃんの子育てを見てきて、すごく良いなって思った。上手く言えないけど、今までオレが見て来たのと違うんだ。オレ、ぱるちゃんを助けたい。ぱるちゃんと、もっとちゃんと付き合いたい。オレ、子供達の父親になれるよ。信じてついて来てよ。」

「ありがとう。」と言った。純粋に嬉しかった。

そう。私は、その頃、身を焦がす様な恋愛をしたいとは思っていなかった。一方で、家族、子供達の父親となって支えてくれる存在を欲していた。厳しい父と母性の強い母に育てられた私が子供達に与えられなかった「父性」と言うもの。三人で暮らして行くのを気楽だと思う気持ちに、相反して父親が居ないことを不完全だとコンプレックスに感じる心。いつも揺れていた様に思う。ただ、この時の私には、カエルさんの父性が本物かどうかを見極める目は備わっていなかった。

手を伸ばしカエルさんにハグされる。身を委ねながら、隣の部屋の子供達のことばかりが気になった。

「これ以上はまた、別の日にね。」と言った。
「分かった。会社、有給とってね。」と頭の上でカエルさんの声が聞こえた。




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