見出し画像

【セカンドブライド】第4話 カエルさんからの初めての告白

コンビニの駐車場について車を降りるとカエルさんも車から降りて来た。

コンビニの中からは、温かそうな光が漏れていたけれど、対照的に、駐車場は暗くて寒かった。彼は寒そうに首をすくめる様にして「寒いから、ちょっと車の中で話そう。」と言った。

車に乗り込むと、コーヒーの香りがした。車のドリンクホルダーにレギュラーサイズのホットコーヒーが2つ買って置いてあった。

車に乗って彼がエンジンをかけると、ラジオがかかった。おじいちゃんの車に乗った時みたいで懐かしい気持ちになった。パーソナリティの女性の声は落ち着いていて、心地良かったけれど誰なのかは分からなかった。

「ラジオ聴くんだね。」と言うと、
カエルさんは、「ラジオが好きなんだよね。仕事での移動中もずっとラジオ聴いてる。」と言った。

そして、「コーヒー飲めるよね?買ったばっかだから飲んで良いよ」と言った。
 
少し沈黙があった後で、「ぱるちゃんはさ、笑顔が素敵だよね。初めて会った時からすごく素敵だと思っていたよ。」と言った。

唐突な誉め言葉は、少し嬉しくて、少し気持ちが悪かった。

「初めて会った日から、良い子だなーって思ってた。会えるといつも嬉しくて何だかポーっとしちゃってさ。」

「メールの返信が来ると嬉しくて、何だか寝ていられなくて、朝の6時くらいからもうトラック乗って仕事してたよ。」と言った。
 
何と答えて良いか分からなかった。だから、「ありがとう。」と言った。
 
「でさ、オレ、ぱるちゃんのこと好きなんだって気づいた。だからさ、付き合って欲しい。でさ、ちょっと待たせちゃうけどさ、4年待って欲しい。結婚したい。」

それを聞いた時に「あれ?」と思った。でも、カエルさんが畳みかける様に続けた。
「オレ、ちゃんとぱるちゃんのお父さんとお母さんにも挨拶に行くよ。」
その言葉を聞いた時、衝撃で血液がゾワっとした。頭の芯が痺れた気がした。

ここに来る前に、何となく打ち明け話の様な大切な話をされるのではないかとは思っていた。でも、私との関係を先に進めたいと言われるなんて思わなかった。性急だし、いろいろ意味が分からなかった。
 
「え?何で、今付き合って、その後で4年待つの?」と聞いた。
「え?だって、子供達が高校卒業するから。」と彼が言った。
「大学は?」
「オレ大学行ってないし。」
「子供達、大学行かなくて良いって言ったの?」
「分かんない。」
「聞かなきゃだめでしょ。」
「でも、大学生ってもう大人でしょ。」
「じゃあ何で今、付き合うの?」
「え?だって好きだから。」
当たり前のことを聞かれて驚いたかの様に彼が答えた。
「結婚している人と付き合う訳ないでしょう?それに、結婚している人が家の親に挨拶するとか、頭おかしいとしか思えない!」
 
自分のイライラが何に対するものか分からなかった。でも、イライラした。
とにかく混乱した。でも、何に混乱しているのかもその時は分からなかった。

固まっていた彼が、何かを言おうとした。だから、遮る様に急いで言った。
 
「私待たないよ。付き合わないし、4年も待たない。」
 
彼に対してイライラした理由は、子供の進路を真剣に考えていないことだったかも知れない。
倫理観が欠如にしていることだったのかも知れない。
私を待たせると言うその態度だったのかも知れない。
 
彼は、おたおたして、狼狽していた。そして、何かを言いかけた。
だから、急いで遮ぎる様にもう一度言った。

「結婚してる人を好きにはならない。」
 
車を降りて、自分の車に乗り込んだ。そして、イライラしながらエンジンをかけた。本当はブーンと飛ばしたかったけれど、こんなことで事故を起こすのは馬鹿らしいと思いなおし安全運転で家に帰った。

もう、二度と彼と会わなくて良いと思った。
 
朝起きたらメールが入っていた。
「喜んでもらえると思ったんだ。ごめんなさい。」
 
息子を保育園に送ろうと駐車場に下りたら、車のサイドミラーにコンビニのスイーツが3つ袋に入った状態で掛けらえていた。

コンビニの近所ではあったけれど、家の場所は彼に教えていなかった。
だから、もしかして、探したのかな?と思った。
 
昨日、ショックで固まった彼の顔を思い出した。本当に「喜ばせよう」とした顔だったと思った。

何だか急に彼が可哀想になった。でも、それでも既婚者と付き合うことは考えたく無かったし、4年も待つ気も無かった。
 
すごく混乱した。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?