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木に宿る精霊に出会う — 陰陽五行と美術作品

執筆:美術家・山梨大学大学院 教授 井坂 健一郎


人間の根源的な行為としての「彫刻」

陰陽五行「木火土金水」のうちの「木」に宿る精霊を探り当ててきた彫刻家・戸谷成雄(とや しげお)。
彼は、「何もないところに、たしかに在ると感ずる意識こそ人間にものをつくらせたのではないか」と言います。

太古より人間は身の回りの事象に対して、「そこにあること」と同時に「その中に潜むもの」にも美を感じていたのではないでしょうか。
例えば木々に宿る精霊を感じたのであれば、それに出会うために木を「彫る」「刻む」という行為が生まれたのだと私は思います。
その「彫る」「刻む」という身体行為こそが「彫刻」の原点なのです。

精霊のように「見えないものを見える世界に存在させるにはどうすればよいか」を考えてきた戸谷は、根源的な人間の存在意識=美意識として、それを彫刻作品として成立させてきたと言えます。

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「神事」としての造形行為

戸谷の代表的なシリーズである「森」は、まさに木に宿る精霊を彼自身が感じ取り、ひたすらそれに出会うためにチェーンソーを使って彫り刻んでいったものです。
多くの彫刻家は(あるいは画家も)、最初に完成のイメージを持ち、それに向かって試行錯誤しますが、戸谷の場合は木に宿るものが見え、それをこの世に最適な形で現れていただくというスタンスなのではないでしょうか。

綺麗に設計されたものを表出させるのではなく、見えたもの(感じ取ったもの)が現れるまで削ぎ落とす(祓う)。一連のこの行為は「神事」とも言えましょう。

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地上の精霊を宇宙へ運ぶ

作品「《境界》から V」は、彫刻が台座の上にあるという定義を覆したものです。
この作品は、美術館の床面と水平に設置されていますが、水平とはあくまでも美術館という建物の中だけであり、地球は丸いわけですので、作品の先端部分は宇宙を指し示していると言えます。
つまり、戸谷は精霊をこの世界に呼び戻しつつ、遥か遠い宇宙へと送り出してもいるのです。

戸谷にとっての「彫る」「刻む」という造形行為は、木あるいは地球を「祓い」「清める」ことを意味した造形作法のようにも見えます。

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【井坂 健一郎(いさか けんいちろう)プロフィール】

1966年 愛知県生まれ。美術家・国立大学法人 山梨大学大学院 教授。
東京藝術大学(油画)、筑波大学大学院修士課程(洋画)及び博士課程(芸術学)に学び、現職。2010年に公益信託 大木記念美術作家助成基金を受ける。
山梨県立美術館、伊勢丹新宿店アートギャラリー、銀座三越ギャラリー、秋山画廊、ギャルリー志門などでの個展をはじめ、国内外の企画展への出品も多数ある。病院・医院、レストラン、オフィスなどでのアートプロジェクトも手掛けている。
2010年より当時の七沢研究所に関わり、祝殿およびロゴストンセンターの建築デザインをはじめ、Nigi、ハフリ、別天水などのプロダクトデザインも手がけた。その他、和器出版の書籍の装幀も数冊担当している。

【井坂健一郎 オフィシャル・ウェブサイト】 http://isakart.com/

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