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オープンマインド・ヒューマンネットワーク論 その10

執筆:ラボラトリオ研究員 杉山 彰

知識は、永遠に与え続けることができるもの。

ここに一つ、興味深い話がある。それは山本利雄氏が自身の著書、『いのち<今、を生きる>』の中で述べていることである。

労働は確かに見かけ上の富をもたらすが、それは、決して無から有をつくるものではなく、労働そのものが富を生産するものではない。労働は物質の形態を変えるだけである。

熱力学の法則(第一法則・エネルギー保存則、第二法則・エントロピーの法則)は、ここにも厳然として存在する。つまり、宇宙における物質とエネルギーの総和は一定であり、創生することもなければ、消滅することもなくただ形態が変わるだけである。しかも、その変化は必ずエントロピーの増大に向かう。ここでは、労働に価値がないと言っているのでは決してない。今日まで、ヒトは労働は富を生産するものと信じ、その経済概念を確立してきた。労働力が、食料を生産し、鉄をつくり、自動車をつくりだすと信じて疑わなかった。古典的資本主義も、ケインズの修正資本主義も、マルクス経済学も、シュンペーターの拘束なき資本主義も、すべて「労働が富を生産する」という価値観の上に成り立っている。商品の交換価値は、その商品を生産するのに使われた労働の量によって決定されるという考え方の上に、労働価値説が経済理論の基礎に据えられた。A・スミスやD・リカード以来の理論である。K・マルクスは、それを決定的なものとして集大成した。彼は、商品の価値の分析から出発した。

経営者が労働者を雇って生産するという資本主義的生産が成り立つ社会では、一人一人の労働者は、同質な社会的平均労働力とみなされた。したがって、商品の価値は、その商品をつくる労働時間によって決まる、という基本的な考え方が成立した。それは経済を理解する上でもっとも簡明な仮説であった。この理論は、ニュートン力学が絶対時間と絶対空間という仮説に立ったのと趣を同じくする。商品の価値は、その商品をつくる労働時間によって決まるという、この考え方は、あたかも労働時間によって物質が創造されるような錯覚に陥る可能性もあった。生産力の増強こそが物質的豊かさの担い手となった。見かけ上の富に焦点があてられ、増大するエントロピー(廃熱と廃物)は見忘れられがちであった。

話が少し難しくなったが、ここで明確にしておきたいのは、

(1)商品の価値はその商品をつくる労働時間によって決まるという錯覚。
(2)あたかも労働時間によって物質が創造されるとする錯覚。
(3)生産力の増強こそが物質的豊かさの担い手となり得るとする錯覚。

である。

 以上の3つの錯覚により、見かけ上の富に焦点があてられ、増大するエントロピー(廃熱と廃物)が見忘れられてしまったのである。ちなみに、現代の経済学、社会学におけるエントロピーとは、環境汚染・絶対的貧困・世界不況の増大である。

話が回りくどくなったが、知識は覚えるもの、獲得するものとしている現代社会においては、知識においても、エントロピーの法則は厳然として存在している。知識は確かに見かけ上の富をもたらすが、それは、決して無から有をつくるものではなく、知識そのものが富を生産するものでもない。知識は物質の形態を変えるだけである。しかも、その変化は必ずエントロピーの増大に向かう。不信と疑惑と奢りの増大に向かう。しかし、知識は人間の誰もが、同じだけの量を、生まれたときから授かっているものであり、永遠に無くなることがない無限の資源であるとするならば、絶対的な無限の資源は総和が一定ではないから、エネルギー保存の法則も、エントロピーの法則もあてはまらない。

そして、無限の資源を利用するためのルールは簡単である。与え続けることであると決めればいいのである。今、地球に生きている人間は約77億人である。その77億人の全員が一人も欠けることなくネットワークを築き、尊敬し合うことが唯一のルールとするオープンマインドを築き、DNAが47億年かけて蓄積した知識を、速く、正しく、大量に使えるようにする。その手段を考えることが、最重要課題なのである。オープンマインド・ヒューマンネットワークの成果が、現代社会における環境汚染・絶対的貧困・世界不況の増大というエントロピーの増大ではない、負のエントロピーである、ネゲントロピーを増大させることなのである。

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【杉山 彰(すぎやま あきら)プロフィール】

◎立命館大学 産業社会学部卒
 1974年、(株)タイムにコピーライターとして入社。
 以後(株)タイムに10年間勤務した後、杉山彰事務所を主宰。
 1990年、株式会社 JCN研究所を設立
 1993年、株式会社CSK関連会社 
 日本レジホンシステムズ(ナレッジモデリング株式会社の前身)と
 マーケティング顧問契約を締結
 ※この時期に、七沢先生との知遇を得て、現在に至る。
 1995年、松下電器産業(株)開発本部・映像音響情報研究所の
 コンセプトメーカーとして顧問契約(技術支援業務契約)を締結。
 2010年、株式会社 JCN研究所を休眠、現在に至る。

◎〈作成論文&レポート〉
 ・「マトリックス・マネージメント」
 ・「オープンマインド・ヒューマン・ネットワーキング」
 ・「コンピュータの中の日本語」
 ・「新・遺伝的アルゴリズム論」
 ・「知識社会におけるヒューマンネットワーキング経営の在り方」
 ・「人間と夢」 等

◎〈開発システム〉
 ・コンピュータにおける日本語処理機能としての
  カナ漢字置換装置・JCN〈愛(ai)〉
 ・置換アルゴリズムの応用システム「TAO/TIME認証システム」
 ・TAO時計装置

◎〈出願特許〉
 ・「カナ漢字自動置換システム」
 ・「新・遺伝的アルゴリズムによる、漢字混じり文章生成装置」
 ・「アナログ計時とディジタル計時と絶対時間を同時共時に
   計測表示できるTAO時計装置」
 ・「音符システムを活用した、新・中間言語アルゴリズム」
 ・「時間軸をキーデータとする、システム辞書の生成方法」
 ・「利用履歴データをID化した、新・ファイル管理システム」等

◎〈取得特許〉
 「TAO時計装置」(米国特許)、
 「TAO・TIME認証システム」(国際特許) 等

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