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お金と時間の問題を、もう一度考えてみよう その4

執筆:ラボラトリオ研究員 杉山 彰

<お金>は誰でも発行できるのか?

経済用語で言えば、<お金>、すなわち貨幣の定義は、

①:価値尺度(価値計算単位機能)
②:価値移転(価値交換手段機能)
③:価値保蔵(価値保蔵手段機能)

の3つの機能を有するモノと定義されています。

<お金>は、誰でも自由に発行できるのだろうか。極論を言えばできるようです。但しその<お金>で交換を申し込まれた人が拒否しない約束が、ルールが確立されているか、いないかは別問題です。

公文俊平氏は「ローカル通貨研究報告書(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター)」の中で、岩井克人氏の「貨幣論」から引用して、以下ように述べています。

貨幣が貨幣として流通しているのは、それが貨幣として流通しているからでしかない。

人々は、貨幣を貨幣として使うことを目的として貨幣共同体の構成員になる。だが、この貨幣共同体のばあいは、その成立にはなんの契約も必要とせず、その構成員の行動を制限するなんの定款も存在しない。その貨幣を貨幣として使うことは、まったくひとりひとりの自由にまかせられているのである。

これをお金とすることにしよう!と宣言すれば、どんなカタチのモノでも、<お金>に成り得るのです。

しかし、その<お金>が流通するか、しないかは別問題です。また、永井俊哉氏は、永井俊哉ドットコムにおいて「貨幣は、発行者の資産と期待収益を担保とした証券である」と論じています。この説に従えば『時間は、時間の発行者の資産と、その期待価値を担保とした証券である』と置き換えることが可能なわけです。「時間」をお金として、あなたの時間と私の時間を交換しよう、という<お金>も、成立させようと思えば成立します。

<お金>を「タイム」と呼称します。「タイム」には、以下の3つのように定義されます。

①:価値尺度(価値計算単位機能)があります。年月日時分秒の計算単位があります。
②:価値移転(価値交換手段機能)があります。私の部屋を1時間掃除してくれば、あなたの勉強を1時間見てあげる。交換手段も、いろいろとありそうです。
③:価値保蔵(価値保蔵手段機能)があります。今日の24時間が、来年の今日の24時間と変わることはない。保蔵手段もありそうです。 

時間は何にでも変換できるのか?

マルクスは『資本論』を通じて、「経営者が労働者を雇って生産するという資本主義的生産が成り立つ社会では、一人一人の労働者は、同質な社会的平均労働力とみなすことができる。したがって商品の価値は、その商品をつくる労働時間によって決まる」という考え方を成立させました。

図3

産業革命以来、工業社会の終わりの頃までは、誰もこの理論を疑わなかったのでした。しかし、情報化社会、知識社会にはいると、この理論は錯覚じゃないのか、と少しずつ疑いをもたれるようになったのです。労働は確かに見かけ上の富をもたらすが、それは、決して無から有をつくるものではなく、労働そのものが富を生産するものでもなく、労働は物質の形態を変えるだけではないだろうか、という考え方です。

その証拠に、今日、情報化社会においては、時間給、日給、月給という報酬制度がそぐわなくなってきています。Aさんの1時間と、Bさんの1時間とでは、たとえば何かの企画書を仕上げる作成業務の速さと品質が異なるようになってしまったのです。AさんとBさんの知識の差異が、1時間という普遍的な労働時間において、企画書の作成品質が時間の差に左右されずに知識の差に左右されるようになったのです。つまりマルクスがいうような「一人一人の労働者は、同質な社会的平均労働力とみなす」ことができなくなってきたのでした。

何が言いたいか?労働力が肉体労働ではなく、知識労働へと変化した瞬間に、熱力学の第二法則は適用されなくなったのでした。理由は、肉体労働には限界がある。100メートルを5秒で走ることは不可能であり、1トンのバーベルを持ち上げることは不可能なことです。肉体労働は閉じた系での力学であると見なすことができます。しかし知識労働は、その限界が見えません。知識の総量はこれぐらいで、計算すればこれぐらいになります、という話は聞いたことがない。知識労働は開いた系での力学と見なすことができます。従って前者は、エントロピーの法則が適用される、従来の常識があてはまる事柄なのですが、後者は、エントロピーの法則が適用されない、従来の常識があてはまりにくい事柄なのです。

<お金>も同じです。<お金>も兌換紙幣の時代、金(銀)本位制の時代では紙幣の発行総量は金や銀の所有量と、ほぼ1対1の関係にあり、閉じた系での力学と見なすことができたのでした。しかし、やがて不換紙幣の時代、信用本意制の時代になり、貨幣がシンボリック化(国の債権<国債>や企業の債権<株式>等々)した瞬間に、紙幣の発行総量は1対nの関係になり、我が国において国家予算の35%強を国債で賄うという現実をみるまでもなく、開いた系での力学になったのです。従って後者は、エントロピーの法則が適用されないのです。従来の常識で考えられない<お金>の力学が働く経済システムと対峙しなければならなくなったのです。時間も同じです。時間は、最小単位は10のマイナス44乗秒、とプランク時間が決まっていますが、果てしなく増え続けます。エントロピーの法則が適用されないのです。ここに至ってはじめて、私たち人間社会は、「<お金>と<時間>と<知識>」をエントロピーの法則が適用されない、同じパラメータ(変数)で同一化するための定義を手にしたと言えるのです。(つづく)

その5につづく

その3にもどる

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【杉山 彰(すぎやま あきら)プロフィール】

◎立命館大学 産業社会学部卒
 1974年、(株)タイムにコピーライターとして入社。
 以後(株)タイムに10年間勤務した後、杉山彰事務所を主宰。
 1990年、株式会社 JCN研究所を設立
 1993年、株式会社CSK関連会社 
 日本レジホンシステムズ(ナレッジモデリング株式会社の前身)と
 マーケティング顧問契約を締結
 ※この時期に、七沢先生との知遇を得て、現在に至る。
 1995年、松下電器産業(株)開発本部・映像音響情報研究所の
 コンセプトメーカーとして顧問契約(技術支援業務契約)を締結。
 2010年、株式会社 JCN研究所を休眠、現在に至る。

◎〈作成論文&レポート〉
 ・「マトリックス・マネージメント」
 ・「オープンマインド・ヒューマン・ネットワーキング」
 ・「コンピュータの中の日本語」
 ・「新・遺伝的アルゴリズム論」
 ・「知識社会におけるヒューマンネットワーキング経営の在り方」
 ・「人間と夢」 等

◎〈開発システム〉
 ・コンピュータにおける日本語処理機能としての
  カナ漢字置換装置・JCN〈愛(ai)〉
 ・置換アルゴリズムの応用システム「TAO/TIME認証システム」
 ・TAO時計装置

◎〈出願特許〉
 ・「カナ漢字自動置換システム」
 ・「新・遺伝的アルゴリズムによる、漢字混じり文章生成装置」
 ・「アナログ計時とディジタル計時と絶対時間を同時共時に
   計測表示できるTAO時計装置」
 ・「音符システムを活用した、新・中間言語アルゴリズム」
 ・「時間軸をキーデータとする、システム辞書の生成方法」
 ・「利用履歴データをID化した、新・ファイル管理システム」等

◎〈取得特許〉
 「TAO時計装置」(米国特許)、
 「TAO・TIME認証システム」(国際特許) 等

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