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映画「21世紀の資本」について考える

2013年、フランスの経済学者トマ・ピケティが出版した「21世紀の資本」は世界中で大きな反響を呼びました。アメリカでは「99%の富を1%の富裕層が独占している」として政府批判が高まり、日本でも各種マスコミで取り上げられるなど話題になりました。

書店で見ればわかると思いますが、この書籍かなりのボリュームでとても読みきれないという人がほとんどでしょうピケティもそれをわかってか、著者監修で映画化しました。

ドキュメンタリー映画ですが、途中に名作映画の引用やアニメーションがふんだんに盛り込まれていて飽きさせない作りになっています。それでいて、資本主義社会の歴史を一気通貫で理解できるほど濃密な内容になっています。

ただし、最低限の資本主義の知識はあった方が良いと思いますので、原作「21世紀の資本」の内容を簡単にまとめてみました。映画をまだ観てない人は予習用に、映画をもう観た人は復習用に参考頂けますと幸いですです。

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①なぜピケティは「富の分配」を研究することにしたのか?

大きな理由は、過去の有名な研究に誤ちがあることを発見したからです。ピケティは2つの有名な理論を批判しています。

・マルクス「資本論」批判
19世紀に出版されたマルクスの「資本論」は、資本主義社会が生み出す経済格差を歴史上初めて紹介しました。この本をきっかけに旧ソ連を始めとする社会主義国が誕生しました。しかし、この本には根拠となるデータが不足していました

クズネッツ曲線批判
アメリカの経済学者サイモン・クズネッツはデータに基づく研究を行いました。彼は第一次世界大戦後のアメリカの経済データを基に、クズネッツ曲線を提唱しました。クズネッツ曲線とは、資本主義経済は初期段階では格差は拡大するが、やがて中間層が増加して自然に縮小するという論理です。この理論の通り、実際に格差が縮小する現象は先進各国で見られました。しかし、この本が研究した期間は2度の大戦と世界恐慌が発生した時期(1914年〜1945年)に限定されていました。

②ピケティが行なった研究とは?

ピケティは上記の批判を行い、300年にも及ぶ富の集積の動きを研究しました。研究対象はアメリカに限らず途上国を含む世界各国です。

・最初に富を2つに分類した
ピケティはまず最初に富を2種類に分類して定義しました。
①資本:不動産や金融資産や特許など
②所得:労働することで得られる賃金

・資本と所得の成長率の差
過去のデータを研究した結果、2種類の富の成長率に差があることがわかりました。
①資本:年間で4〜5%伸びている
②所得:年間で1%程度伸びている

例えば、100万円の株を持っている人はそこから年間4〜5万円の利益を得られる一方、労働者は年間1万円しか収入が増えない。つまり、一生懸命に働いて給料1万円増やすのと100万円の資産から4万円を得るのは同等であることが分かります。当たり前ですが、これでは持つものはより多くのものを持ち、持たざる者は多くを持つことができないと分かりますよね。格差は広がるばかりです。

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③なぜ今までこの研究がされてこなかったのか?

この重要な事実が今までどうして分からなかったのでしょうか。理由の一つは、テーマ自体が「経済学者には歴史的すぎる」「歴史学者にとっては経済的すぎる」からである。どちらかしか研究していない彼らにとって分野の垣根を超えた研究は難しいものであったことがあります。そしてもう一つは、事実から目を背けておく方が都合良い人が多かったのでしょう。

④格差の縮小が生まれた理由

格差の縮小が生まれた時期があります。1914年〜1945年です。この時代は経済格差が縮小していきました。それはこの時代に起きた2度の戦争と世界恐慌が大きく影響しています。戦争によって金融資産は破壊され、資産家の多くにも重度の課税が強制されたことによって資産家の資産がグッと減少したのです。皮肉なことに戦争によって持つものと持たざる者の経済格差が縮小したと言えます。

⑤18世紀から広まる「所得」より「資産」という考え

バルザックの「ゴリオ爺さん」という小説があります。法律家志望のラスティニャックは働いて金持ちになることを目指そうとしますが、彼の友人で皮肉屋のヴォートランは彼にこう言います。

「金持ちになりたいなら、弁護士になっても無駄だ。良い暮らしをしたいなら金持ちの女を見つけて結婚することだ」

この小説は19世紀のフランスの小説家ですが、当時から所得(弁護士として働く)より資産(金持ちの妻の資産を手に入れる)であると言う考えが広まっていたことがよく分かりますね。

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⑥アメリカで高まる不平等

2011年9月、「ウォール街を占拠せよ」という格差是正を求める大規模な抗議運動が広まりました。これはウォール街の富裕層1%から残り99%がお金を取り戻そうという運動です。

・なぜウォール街で運動が始まったのか?
理由は、アメリカ政府が金融機関にお金を投資して救済に動いたからです。そもそも金融危機が発生した原因は、「金融の規制緩和」と「巨額のボーナス支払い」という人為的な間違いによるものなのです。それにも関わらず、国民の税金を金融機関の救済に充てるということは、富裕層の収入を国民が下支えすることを意味している。こんなことでは、国民の怒りは収まるはずもありません。

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アメリカを先頭にして経済格差が広まっていますが、日本にとっても対岸の火事という話ではありません。日本企業の業績はアベノミクスにより成長していると言われていますが、企業は儲かった資金を労働者の賃金アップにつなげようとしません。労働者の賃金がアップせずに、物価は上昇するのだから持つ者と持たざる者の格差は広まるばかりでしょう。

近頃、「ジョーカー」や「パラサイト半地下の家族」など格差をテーマにした映画が話題になっていますが、この「21世紀の資本」もそれらに続くヒットになる予感がします。人が資本を持っていると思ったら大間違い。資本がいかに人をコントロールしているのか、資本のためなら戦争だって起こします。資本主義社会に生きる我々にとって必ず観るべき作品だと思います。

ぜひ観てください!


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