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保存料、ゼロならいいの?

食品の原材料名のところを見て、添加物や着色料、保存料の記載があると何となく不安になりますよね。

逆に「無添加」、「無着色」、「保存料不使用」と書いてあると安心。
そしてこれらの文言は恰好の宣伝文句となっている現実。

気持ちは分かるのですが、何ごとも行き過ぎはよくありません。

「入っているから危険」ではなくて

「50%致死量」(Lethal Dose 50、通称LD50)とは、物質の毒性を示す値。

ある物質を動物や人間が摂取した場合、どのくらいの量を接種したらその半数が死に至るか、その量を「体重1㎏あたり」で示したのがLD50です。

接種する動物や人間の体重が重いほど一般に毒物の影響は薄まるので、体重1㎏あたりで表示します(一般的に体重が重い人ほど酒に強いのもこの影響)。

サリンやメタミドホス(有機リン系殺虫剤)の経口摂取LD50は30㎎/kg程度とされています(㎎はミリグラム=1000分の1グラム)。

※サリンは揮発性が高く、LD50値の比較だけで毒性の比較はできません。

それに対し保存料・ソルビン酸では10.5g/kg。単位がミリグラムではなくグラムである点に注意。

これは相当の量を採らないと影響が出ないことを意味します。

保存料使用のかまぼこなら一度に数百キロ食べないと影響が現れないレベル。
これだけ食べたら、多分ほかの要因で死ぬでしょう。

定量思考が重要なのですね。
「○○が入っているからヤバい」ではなく、「どのくらい入っていたら危険なのだろうか」と思えるかどうか、がカギ。

例えば都会に住む人間は一回の呼吸でダイオキシンの分子を数十万個取り込んでいます。
ですが私たちの身体の免疫・排出・代謝機能はそんなものモノともしません。
「どのくらいの量までなら安全と言えるのか」=定量思考が合理的判断のポイントです。

行き過ぎた保存料忌避で浮かび上がる他の問題

細菌による腐敗から食品を守る方法は他にも燻製や塩漬けなどがありますね。

それぞれに効果とリスクがあり、味覚の変化やコストの問題もあります。

味覚に影響を与えないという意味でもコストの面でも、保存料としてのソルビン酸使用は一つの選択肢として十分あり得るのではないかと思うのですが、どうでしょうか?

しかし保存料は無い方が良いという世論に押され、この20年でソルビン酸の使用量は半減。

その一方で近年顕著になってきたのが、賞味期間短縮による廃棄食品増大の問題。

保存料が使われないので、ある意味当然の帰結ではあります。

また保存料を減らしたため、保存に冷蔵が必要になり電力消費が増えました。

近畿大学有路昌彦准教授(現世界経済研究所教授)の計算によれば、ソルビン酸の使用量が5%減るごとに190億円の経済損失。
これは5000名の雇用に相当します。

安全を希求する意識はだれしも持つものですが、実際にはその為に犠牲になるものがあります。

世の中の問題のほとんどは黒か白かでは片付かない。

交通事故を恐れるあまり一歩も外に出ない生活を続け、運動不足から健康を害してしまう、とか‥

我々は常にこのような、リスクのトレードオフに直面し判断を迫られます。

自然のモノが良くて人工物は危険という感覚も、ある局面では正しいのかも知れませんが、それだけで立ち行かないのが実情です。

意外に少ない「自然のモノ」

果たして現代生活で口にするものの中で、「自然のモノ」なんてどれほどあるのでしょうか?

お刺身も焼き魚も、炊いたご飯もすでに加工されてますよね?

熱を加えただけで中では様々な化学反応が起こっており、その生成物の多数について現在でも発がん性その他の性質は不明のまま!

そこは経験的に大丈夫、ということで流通しています。

ソルビン酸はそもそも、夏の終わりに熟しはじめ、冬になって赤く熟しきっても腐らないナナカマドの実を調べたフランスでの研究で発見されました。

逆にそれって、めちゃめちゃ「自然のモノ」じゃないですか?


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