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際限がないから面白い
広告が好きだ。
高校生になって電車通学が始まってから電車内や駅構内にある広告を見るのが毎日の楽しみになった。好きな芸能人を見つけたり、好きなデザインを見つけたり、好きな言葉を見つけたり、広告の中から小さな幸せを拾い集めることがとにかく大好きだった。
"なんで好きなの?"
この前バイトの面接で聞かれた時、私は上手く答えられなかった。高校生の頃から好きなんです、広告にあるワンフレーズに元気をもらえるんです。口から出てくる言葉は誰にでも言えそうな、ありきたりな言葉ばかり。
消化不良だったから、家に帰ってもう一度回答を考え直してみた。
私が広告が好きな理由は、人々の日常に寄り添っているからです。ドラマや映画と違ってあくまで広告は商業目的だからこそ、私たちが普段使っているものの中にある、身近なドラマを感じられるところが魅力的だと思います…。
上手く言えない。違う、私の伝えたいことはこんなことじゃないのに。
本当はただ好きなだけなのだ。でも好きと言う言葉は私の感情を表すにはあまりに広域すぎる。どうして好きなのか、どれくらい好きなのか、どこが好きなのか。好きという2文字の裏にある事柄は誰一人として同じではないはずなのに、この感情を表す言葉がたった2文字であることがもどかしい。
だけど表現できる言葉が見つからない。自分の感情を特別なものにしたくて比喩を使ってみたりカッコいい言葉を使ってみたり、形のない感情に形をつける作業を必死で取り組んでみるけれど、紡ぎだされた言葉は決して100%にはならない。
今の時代は人と人との関係が希薄だと言われる。line上では本当の思いなんて伝わらないと言われる。確かにそうなのかもしれない、だけど顔を見て話したとしても結局相手が本当に考えていることなんてきっとわからない。たとえ本音を話していたとしても、俗な言葉の裏にある無数の感情はきっと伝えきることができない。自分の感情を正確に捉えられるのは世界でただ1人、自分だけだ。
とても寂しいと思う。けれど、もし自分の感情を100%表す言葉があったとしたら、私は文章なんて書かない。絵も描かない。何かを表現しようとしたりなんてしない。
100%にならない、際限がないから面白いのだ。私は自分の中にだけ確かに存在する感情を表すために悩んで選んでもがくことに表現することの楽しさがあるのだと思う。心の中に積もっている意見や感情を思い出して、整理して、適切な言葉を探して、でもそれを表しきれる言葉なんてどこにもなくて。それでも考えて頑張って作り上げた文章は紛れもなく自分だけのものだ。それは100%ではないかもしれないけれどきっと誰かの心に届くはず。
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