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日常に潜む女性差別に抗うために私がしている小さな選択

90年代のアルジェリアと現代の日本

 学生時代に留学していたヨーロッパの国で、アルジェリア移民の学生と仲良くなったことがあります。日本のアニメや「カワイイ」文化が大好きな弾けるように元気な女の子でした。私をバイクの助手席に乗せて街を走り回ってくれたり、タンクトップとショーパン姿で彼氏と遊んだりと、かなり自由に青春を謳歌していました。

 映画「パピチャ 未来へのランウェイ」は90年代のアルジェリアが舞台。自由奔放だった友達の姿からは全く想像できないほど、厳しい女性への抑圧が描かれていました。イスラム主義の過激派集団からヒジャブを強要され、イスラム教の戒律に従わないとリアルに命を狙われてしまう。過激派集団ではない普通の男性でさえ「女は外で仕事をせず、ヒジャブを被って家で男の言うことを聞いて暮らせ」と諭してきます。

 対して現代の日本ではどうでしょうか?たしかにヒジャブを被っていないからと言って、命を狙われることはありません。家庭の外で働くことも、教育を受けることも、結婚前に彼氏を作ることも歓迎され、ぱっと見は女性差別のない国のように見えます。でもジェンダーギャップ指数は先進国では最下位レベル。政治の世界は中高年男性ばかり。女性の雇用は不安定になりやすく、共働きが増えても男性の家事の時間は世界一短いまま。痴漢や性暴力にあっても周りの人も司法も味方をしてくれなかったり、SNSでフェミニズムの投稿をすると執拗な攻撃を受けることがあります。90年代アルジェリアに比べると自由そうに見えますが、「女は男に従うべき。従わないなら黙らせたい。」という根本のところは日本もアルジェリアも同じなのではないでしょうか。

抑圧にどう声を上げていくか?

 映画の主人公であるデザイナー志望の大学生ネジュマは、激しい抑圧に立ち向かうためにファッションショーを命がけで開催します。「ファッションショーが命がけ」と言うのはピンと来ない人もいると思うのですが、ぜひ映画で見ていただきたいです。そんなネジュマの選択を見た後に我が身を振り返ると、「自分らしく生きるための選択」は道半ばとしか言いようがありません。たしかに「#検察庁法改正案に抗議します」でアカウントが知られるようになったものの、実名も顔も出せず、広告関係の仕事をしていてもフェミニズム広告を作れるような立場にはありません。もしかしたらこのエッセイを読んでいる方のなかにも、様々な事情で表立って行動することのできない方がいらっしゃるかもしれません。そんな私たちが、日本の空気を変えていくために個人として何ができるのでしょうか?

仲間を作り空気を温める

 映画の中では日々激しさを増していく抑圧の下で、女性たちがつながり協力し合う様子が描かれています。主人公ネジュマの姉は、妹のデザイナーとしての才能を評価し、自尊心を持って生きていくことを教えてくれたインフルエンサーでした。ネジュマ自身も同級生たちをファッションショーのモデルとして巻き込みながら、彼女たちの自由な自己表現をうながしていきます。

 じつは私にはじめてフェミニズムの考え方を紐解いてくれた人も、有名な先生でもセレブでもマスメディアでもなく、外国で出会った同世代の友達でした。たとえ有名人でなくても、私たちは身近な人にフェミニズムを伝えることができるのではないでしょうか。

 最近ささやかながら行なっている「#今日のぶっこみ」というプチ活動があります。いまの日本では、よほど関心がないとフェミニズムや政治について知る機会もないのが現実。そこで日常の会話を通して、フェミニズム的な考え方に気づいてもらうことはできないかという試みています。たとえば友達が恋人がいないことを自虐していたら、それに同調せず「本当にそうかな?」と投げかけてみます。また、もし誰かにセクハラ的なことを言われたら、勇気を出して「え?」の一言だけでも言い返してみます。小さなことではありますが、日常に潜む差別に小さく竿を立ててみる。そしてフェミニズムをポジティブに話すのは当たり前だという空気を、自分の周りから温めていっています。

国を去る必要はない。闘う必要があるだけ。

 毎日のように報道される性犯罪や性差別のニュースを見るたびに、いっそこの国を出ていきたいと思うことがあります。映画の中でもネジュマの恋人や友達はアルジェリアを出て行こうとします。でも彼女はこのように言うのです。「国を去る必要はない。闘う必要があるだけ。」かっこいい・・・でも正直、今の私はそこまでかっこよく言い切ることはできません。それでも、もしずっと日本にいる人生になるなら、せめて希望を持って生きていきたいから。ほんの少しだけ勇気を出して、身近な人にフェミニズムを伝えていきたいです。なにより私たちは今のところ、フェミニズムを語っても命を狙われることはない国に生きているのですから。近い将来、日本とアルジェリアの私たちが、何にも抑圧されず脅かされず、自分らしく生きていける社会になりますように。

PS:もしご興味がある方は「#今日のぶっこみ」でTwitter検索してみてください。友達にフェミニズムの話をしたいけどハードルが高いなと思っている方は、はじめの一歩としてフェミ的なエンタメ作品を話題にするという方法もおすすめです。まずは映画「パピチャ」をSNSでシェアしてみるのもいいかもしれません。

【著者】笛美(会社員)
30代のフェミニスト会社員。2019年から広告制作の仕事のかたわら、職場では言えないフェミニズムの話をSNSで発信し始める。2020年5月にTwitterに投稿した「 #検察庁法改正案に抗議します 」が1000万ツイートを超える広がりを見せ、国会で法案が廃案に。現在はフェミニズムや政治について日常会話の中で話題にしていく「 #今日のぶっこみ 」という小さなアクションを実行中。
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映画『パピチャ 未来へのランウェイ』【10/30(金)全国ロードショー】


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