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テンポ調整は大事ね。

生理前が辛い。
ドゥーン。ドゥドゥーーーーン。な感じた。

うつ伏せになって、頭のてっぺんまで毛布にくるまっている。毛布の隙間から、窓からさす朝の光を感じる。清々しいほどの青空が外に広がっているのを全力で伝えてくるその光が、私の心をさらにさらにさらに暗くする。

生理前になるといつもこうだ。生理の十日前になると、もうずっと絶望感しかない。これを世間ではPMDDと呼ぶらしい。最近知った。

布団から出たくない。出られない。
甘えだ。怠惰だ。人間失格だ。
頭の中で声がする。

あかんあかんあかん、
ダメダメダメダメ、
起きろ起きろ起きろ、
クズクズクズクズ・・・

めちゃくちゃ音響の良い大ホールで、交響楽団がてんでばらばらに音を奏でているみたい。4拍子もあれば8拍子も16拍子もあって、不協和音もたくさんだ。寝ていても、目を閉じていても、シンバルと大太鼓が迫ってくる。息をするのもしんどい。てゆか申し訳ない、息をするのが。

大きな箱の中に入れられた小さな豆粒みたいな気分になって布団の中で丸まっている。忙しさを言い訳にしてピルを飲むのをやめてしまった数ヶ月前の自分を呪った。バカヤロウめ。

こんな状態が数日続いて、さすがにやばいやばいと自分に鞭打って、とりあえず起き上がってみた。布団から出る。寒い。外は悔しいほど天気が良くて、窓を開けると、風が強いのもあって、波が浜に打ち寄せる音が近くに聞こえてきた。

そうだ、海を見に行こう。こういう時、田舎に住んでいてよかったなと心底思う。日々の暮らしに追われに追われてしまうと(と言っても、大抵は自分自身のことなんだけど)、こんな場所に住んでいることさえも忘れちゃう。

起きたままの格好で家を出た。歯も磨いてないし、髪もボサボサ。最近、散髪して髪を染めたから前よりは貞子感がないのは救いだ。20年もののジャージのポケットには、缶コーヒー代の110円をチャラつかせている。

案の定、風が強い。浜手前の神社の御神木が、樹齢数百年の巨体をわっさわっさと揺らしている。根元はトトロの住処の入り口みたいになっていて、あそこにうずくまりたいなーとぼんやり思った。

家から3分で海についた。海はキラキラしていた。広かった。青かった。遠くに漁船が見えた。帰っていく方角的に知り合いの船かもしれない。海面は、強い風に押されてストローで吹いたみたく変な波の形をしていた。

浜手前の自販機でブルーマウンテンの缶コーヒーを買った。少し前までは100円だったのに10円値上がりしている。前は100円玉一つでよかったのに、今は100円と10円玉も一緒にポケットに入れないといけないから、歩くたびにチャリチャリ音がするのが地味にストレスだ。海に行くときは財布もスマホも持ちたくない。なんとなく、手ぶらでいたいのだ。

自販機の裏は少し高くなっていて、ベンチと日陰が用意されている。そこに座ろうと思ったけど、158%の確率で知り合いが通るので、やめておいた。ドゥドゥーーン状態では愛想笑いもできかねる。ので、そのまま浜に降りた。浜に降りてしまえば、防波堤があるから、波打ち際まで行かなければ道からは見えない。冬の海に来る人なんてそうそういない。私と海と空だけの世界。ありがたい。

防波堤の下に腰を下ろしてブルーマウンテンを開ける。ドーーーーンと波が打ち寄せる。見上げると、名前は忘れたけど、トンビみたいな鷹みたいな猛禽類が茶色い大きな翼を広げて飛んでいる。彼らのおかげでこの町にはほとんどカラスがいない。その点も、この町のいいところの一つだ。甘ったるいミルクコーヒーが今はなんだか落ち着く。

どれくらいそうしていただろう。気がつくと、私は落ちていた木の棒を拾って、いろんな絵を描いていた。波、太陽、キラキラ、鳥、マル、シカク・・・砂絵は風にさらされて、描いたそばから消えていく。サラサラ〜。

描いては消し、消えて、描いたもの上からまた描いた。たくさん絵を描いたし、言葉も書いた。詩もあれば、ただの願望もあった。「あ」とか「か」とかただの文字もあった。それはバラバラで、ガチャガチャで、私の頭の中に響いていた交響曲みたいだった。風が吹いて、全部、サラサラ〜と流れていった。

顔を上げると、目の前には素知らぬ顔で海。やつは何も変わらないのだ。だからみんな好きなのだ。だんだんと頭に響くテンポがアレグロからアンダンテになった。交響曲よりもアンビエントミュージックが私は好きだ。

か〜えろっと。

自然と波長を合わせること。
私の人生にはやっぱり必要なことなのだ。

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