見出し画像

【2024年4月】先月聴いた中でお気に入りのアルバム

 こんにちは。やっていきましょう。少し遅くなってしまいましたが。

宇多田ヒカル『SCIENCE FICTION』(2024)

 宇多田ヒカルのキャリア初ベストです。ベストアルバムをこういうのであげることってあんまりないんですが、ベストアルバムという規格では収まりきれない迫力と密度の作品でした。新録と新しいミックスを施した楽曲も含まれた中で思ったのは、初期にあったR&Bの精神性といいますかダンサンブルな雰囲気がキャリアを通してずっと流れ続けていたということです。自分が認識していた以上にこんなに踊れるアーティストだったのかと思わされました。選曲にも全く文句なしで、逆にベストアルバムと認識できないほど彼女のスケール感に圧倒されました。名実共にモンスター級の作品でした。

グソクムズ『ハロー!グッドモーニング!』(2024)

 これまでの音楽性からガラッと雰囲気を変えたロックサウンド満載の一枚で驚きました。今までのフォークやシティポップなどで培った文脈の上にさらにロックな味付けを施して新しいサウンド表現を見せていました。スタイリッシュで洗練されていながらもワイルドな表情を見せるロックギターがとても心地よかったです。曲間を繋げるインスト楽曲を挿入したりと随所に新しい試みが仕込まれているのが伺えます。しかし音楽性が完全に変わってしまったということはなくて、メロディーラインやサウンド配置による空間表現などではこれまでの面影を覗かせる瞬間もたくさんあり、しっかり今までの表現が生かされてるなと感じました。大胆な変化を伴っているにも関わらず、意欲作・挑戦作という雰囲気を感じさせない完成度の高さです。

橋本絵莉子『街よ街よ』(2024)

 音楽に対する純粋さを全面に押し出した楽しいアルバムでした。何も難しく考えずに無垢な詩を心地よいメロディーに乗せている、そんな印象を受けました。何気ない日常の風景から夢のような壮大なスケールの話まで、決して特別ではないからこその共感性がこのアルバムの魅力的な一つの要素だと思います。楽曲の音作りもシンプルながらも決してこだわりがないわけではなく、歌詞やメロディーのイメージを崩さないように寄り添った構成にしているのかなと思いました。途中でライブのインスト音源が差し込まれているのは面白かったですね。

Tomotsugu Nakamura『Moon Under Current』(2024)

 空間表現が秀逸なアンビエントアルバムでした。アルバム全体を通して余白の持たせ方が美しく、出現するサウンドそれぞれに余裕と余韻を与えていました。そのゆとりから生まれる静けさと静謐さが悠大な空間設計を施していて、音一つ一つの長い響き方も相まってとても大きな広がり方を体験できる作品でした。サウンドの配置も自然を思わせる有機的な息づかいも感じられ心地よかったです。前もなんかのアルバムで言ったことですが、この引き算から生まれる粗密の美しさと言いますか、まるで枯山水のような上品さと落ち着き、そのたたずまいから表現されるわびさび。そんな日本人特有の芸術感性を感じさせるアルバムでした。

SHISHAMO『SHISHAMO 8』(2024)

 様々な温度感の恋愛を描き出すSHISHAMOらしいアルバムでした。これまでもSHISHAMOの得意分野でしたが、作品を重ねるごとにその深みは増していって今回は特に「重さ」のようなものを強く感じました。恋愛における光と陰を多角的にとらえ生々しさと苦さを巧妙に描き出し、それでもその愛情を慈しみ楽しむ肯定的なメッセージに帰結していく流れがよかったです。アルバム全体が一つのグラデーションのように感情のアップダウン、楽曲のテンポなどが流れるようにきれいな順番にまとめられているなと思いました。バンドとしての音色もよりバリエーションが増え、さらに磨きがかかっている印象も受けました。特に個人的にはアコギの音色がとてもきれいで繊細だなと思いました。

ん・フェニ『N's PAST REORD』(2023)

 多種多様な音楽性が次々と繰り出されるクリエイティブな作品でした。シューゲイザーのような広がりと揺らぎがあると思えば、思いっきりシャウトするパンクも飛び出してきて全てが変化球のようなバラエティーに富んだ一枚でした。アルバム作品というよりは今までの作品をまとめたような一枚なのですが、終盤以外は一曲歌うごとに短いインスト曲が挟まれるのでそういうコンセプトアルバムみたいな楽しみ方もありました。そのインストもvaporwaveのような独特の質感で、一曲ごとに区切り目を明確に分断するのが却って新鮮で曲ごとに分けていながらもアルバムとしては統一感のある仕上がりになっていたのではないかなと思います。

MON/KU『MOMOKO blooms in 1.26D』(2023)

 全てのサウンドが超自然的で、この世から外れたような不安定さと底知れぬ魅力が光る作品でした。歌詞も何を言ってるのか聞き取りづらく、曲のタイトルも記号的で理解できていない部分がまだ多いです。それでも純粋な音のセンスと大胆で未来的な加工とサウンドアプローチがかっこよくそれだけで充分に魅力的な作品に仕上がっていました。洋画のサウンドトラックのようにスタイリッシュで厚みのある音像にグッと惹かれてそのままこの激しい音像が渦巻く世界に飲み込まれます。1曲の中に様々な音楽的要素が詰め込まれているので、一度にたくさんの洋楽を聴いたような情報量があります。高密度で分類不能な音楽に翻弄されるアルバムでした。

武田理沙『Metéôros』(2019)

 巨大な音楽の塊が大迫力で押し寄せてくる作品でした。どの楽曲も展開が激しくどこが曲のつなぎ目なのかわからなくなる程で、先の読めない演奏にタコ殴りにされるような感覚でした。ジャズ的な要素が際立つ緻密に計算された演奏と音の配置がされていたので、めちゃくちゃなようでしっかりと音楽としての道筋は確保されている印象でした。それでいて歌のメロディーラインは親しみやすく聴きやすいものになっているので、もうどういうロジックでこの作品を完成させたか見当がつきません。めちゃくちゃなようでもしっかりと設計図が建てられた上でのものなのだなと感じとれます。曲数のわりにそこそこボリュームのある収録時間でしたが、この迫力に圧倒されている間に聴き終わってしまう全曲大作の嵐のようなアルバムでした。

以上。先月聴いたアルバムのリストです。↓

 最近難解な内容のアルバムが好きになる傾向にある気がします。それと同時にそれの良さを説明する国語力の無さも痛感します。今月で言うと『Metéôros』とか『MOMOKO blooms in 1.26D』とか。ここら辺もすごい広義で言えばプログレの枠に入るんでしょうか。昔はこういうもの聴かなかったのに。ここ数年で好みが変わったというよりは好みのものが増えた感じです。今一度自分の音楽観と言いますか好きなものを整理する時間は大切なのかもしれませんね。そんな感じです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?