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[読書感想文] 街とその不確かな壁


壁!図書館!「きみ」と「ぼく」!

なんか村上春樹ワールドの集大成みたいな設定だ。羊をめぐる冒険から読み始めた村上ファンとして、これが読みたかったんだよ!最近の(2002年の海辺のカフカ、2009年の1Q84が自分の中ではまだ「最近」扱いなのはヤバいが)村上作品はなんかあまり好きではなかったのだった。

と言いつつも、最近村上春樹作品を読んでいなかったこともあって、しっかりとした起承転結のストーリーを知らず知らず期待してしまっていた自分がいて、ようやく656ページを読み終えたときも「あれ?」となってしまいはしたけども!
そういえばハルキってこんな感じだったかも知れないな、と思い直して事なきを得た。

「ええ、今ここにいるわたしは、本当のわたしじゃない。その身代わりに過ぎないの。ただの移ろう影のようなもの」

とか会話している男女、まさか「ぼく」が高3で彼女が高2だとは。どう見ても20代中盤とか、まあ成人後の熟達した会話だ。でもまあ、ハルキだし!

でもやっぱり「年老いた黒猫を一匹飼っている」とか高3は言わないと思うよ!

ともかく、この二人が想像して創造した壁のある街という世界の話と、現実の世界が入れ替わりに語られるっぽい。

「ぼく」の交際

そして「きみ」と知り合ってから1年後に連絡が取れなくなり、「ぼく」はそのまま東京の大学に行く。

最初の数年は抜け殻のように過ごしたが、あるときこのままではいけない、と思い直し、真面目に生きる。
そして「人並みに何人かの女性たちと交際した」でも「彼女たちとの間に本当の意味での信頼関係を築き上げることはできなかった。」

なんか、ハルキの「ぼく」はちょっと油断するとすーぐ人並みに女性と付き合うからチッてなる。たまにはずっと一人で過ごせよ。

そのまま45になるまで一人で過ごし、突然言葉通りの穴に落ちた。そして目覚めるとあの世界にいた。

そこで「きみ」に似ている人のサポートを受けながら夢読みとして仕事をしていたが、別れた自分の影が気になり続けて、最終的に影を街から逃がそうとした… が、失敗したのかなんなのか現実世界に戻ってきてしまい、なんやかんやで地方の図書館館長として務めることに。

アイロンきたー!

毎週日曜日に私はシャツにまとめてアイロンをかけた。

p413

子易さんという、スカートを履いたじいさんという謎キャラが元館長で、なんでも知っている強キャラ感を醸しだす。

しかし子易さんは実はすでに亡くなっている。でも幽体なのかわからないが、特定の人たちには見え、会話もできる。でもいつもいるわけではない。そして主人公が影を持っていないことを知っていた。うーんなんだかわからん。

結局「ぼく」は街に戻るのか、「きみ」に会えるのか?どうなるのか展開が全く予想できないまま読んでいたら、図書館常連である、イエローサブマリン少年がある日突然、あの街の地図を描いて主人公に渡してきた。急展開でなかなか熱いが結局謎。しかもその後数日姿を見せなかった。

そしてそのまま失踪してしまった。優しい兄たちや家族が必死に探すが、見つからない。あの街に行ってしまったのではという話。

そして結局「ぼく」は街に戻れないまま、子易さんの墓参り帰りにいつも寄っていたコーヒーショップの店主といい感じになる。
彼女が結局「きみ」に関係があるのか…?

タイトル回収

と思ったら突然「不確かな壁」を抜けて向こう側に行き、川を遡り若返っていく「ぼく」。「きみ」を見つけて一緒になる。そして「きみ」は二人が影だったと伝える。

そして場面はまた「街」に戻り、何事もなかったかのように「ぼく」が夢読みのしごとをしているところにイエローサブマリン少年が出現し、合体してきちんと夢が読めるようになる。少年は寝てる時に夢の中に登場して小さい四角い部屋で二人で話す。まるで子易さんみたいに。

つまり、現実世界にいると思っていた「ぼく」は、あのとき無事脱出できた「ぼく」の影で、「ぼく」本体はずっと「街」の中にいたのか。

そしてイエローサブマリン少年が夢読みになり、「ぼく」は元の世界に戻って影と再び合体する…かもしれないね!というところで話が終わる。

エンド

なる…ほど!そこで終わるか。まあ、村上作品に「そして二人は永遠に幸せに暮らしましたとさ」は似合わないけど。
最初に書いたように起承転結を自然と求めていたが、残りページ数でこれはもうないなと気づきつつも一縷の望みにかけているという、正しくないハルキ読みをしてしまっていた。
村上作品を読む時はね、誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ…とつい呟いてしまう。ともかく展開を予想したりワクワクしたりせず、淡々と読んでいくのが正しいハルキニウム摂取方法だと思っている。

しかし…「ぼく」はともかく「きみ」がよくわからなかった。「きみ」は16歳のときにもう街に行ってしまったとか、影だから消えたとかそういうことだったのかな。
というか、「ぼく」の影はなんか一足先に変な世界にいって「きみ」と出会ってハッピーエンドしてなかったか?「ぼく」の脱出をもうサポートできないのでは… 落下した「ぼく」を受け止めてくれずに世界が終わるというのも全然ありうるなぁ。

あとがき

珍しく本人によるあとがきがある。(本人によらないあとがきがあるのかどうか知らないが)

そこで、この「街とその不確かな壁」というタイトルそのままの作品が実は1980年、あの「羊をめぐる冒険」よりも先に書かれていたことを知った。それを40年後にようやく納得の行く形でセルフリメイクできたということらしい。そうかー、もう71歳か…

そういうのもあって、カフカとかから余り好きじゃなかった雰囲気ではなく、初期の頃の雰囲気を感じられたのかも知れない。ってか、そういえば騎士団長殺し読んでないな… 読むか…

浅い感想

話は結局よくわからなかったが、これまでのハルキ作品で大どんでん返しのストーリーとかドキドキワクワクみたいなのは一切なかった(まあでも、「きみ」が二人は影だったんだっていうのが割とどんでん返しかもしれない。)、というか正直どれもストーリーなんか覚えていない。ハルキ節を味わえればそれでいいのだ。

そしてそれを十分味わえたので圧倒的満足。なにより10年ぶりくらいに村上春樹新作を読むという体験をしたというだけでも人生の区切り感が強い。まるで本に付箋を挟むみたいに。

初期の雰囲気はあるが、全くやれやれと言わない主人公。たぶん一度も言わなかった。でもアイロンかけたりスパゲティは茹でていたので安心。

ぼくはまるで交通量を測るみたいに直喩を数えた

そしてなによりまるで、みたいに、ように… 直喩がめちゃくちゃ多い!以前からこうだったっけ…?気になりすぎたので、途中から見かけるたびにメモを取っていたが、終わりが見えない途方もない作業になった。
まるであの街を取り囲む壁のように。

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