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塩こんぶの妙技

 本日の講義は午後に一コマのみ。てなわけで午前中は自転車に乗り、近所のスーパーへ食料の買い出しに。曲線美の見事な、赤いルシウス。買い出しのため2~3週間に一度の頻度で乗っているのに、全身に黄色いヴェールを纏っている。近くの杉林のせいだ。デニムのお尻が黄色くなるのが恥ずかしいので、サドルをティッシュで拭くものの思うように取れず、鼻がむずむずしてくる。

 新潟にしては珍しい青空。いざ出発。砂丘の上に建てられた大学。その敷地内にある学生寮だから、どこへ行くにも坂のまち。行きは下りでよいよい、帰りは荷物も相まってつらい。スーパーに到着し、そんなこんなでお会計。ほんとに要らないの?と店員さんに心配そうな目をされるも、レジ袋にはびた一文も出さぬ。

 買い出しの本当のクライマックスは食材を選ぶ時ではなく、テトリスのように食材を詰める瞬間かもしれない。いかに手持ちの袋に収めるか、という。自転車ユーザーの死活問題でもある。9個で90円の餃子パック二つを重ねてリュックの底に無理やり押し込むと、餃子を守るビニールが破れて呼吸を始める餃子。ちょっと後悔。

 ルシウスをぜぇはぁ押しながら坂をいくつか上り、監獄と名高い自宅に到着。殺風景な冷蔵庫に食材を詰め込む。にぎやかさを取り戻した冷蔵庫を見る充実感。そしてしばしの間、食糧危機から解放される安堵感も。納豆パック3つが隊列を成している。一人暮らしにも結構慣れてきたと感じる瞬間。

 3段に仕切られた冷蔵庫の一番下に6枚切の食パンを並べると、あるはずのないものがそこに。食べきったと思っていた食パンがくたっ、となって一枚残ってるではないか。放送NGなビジュアルを想像し恐る恐る手に取ると、まだいけそう…!目視では菌糸類も確認されないことだし。片面が汗をかいているのは不気味だが、賞味期限を過ぎて久しいのに腐っていないことの方が怪奇。そして昼ごはんにサバイヴした食パンを食べようと思いたつ。ベースにマヨを塗り広げ、ピザ用チーズを敷き詰め、これまたアウトなウインナーをローマ数字のⅡのようにのせる。そこでふと、アイディアが湧く。塩昆布(残念なことに塩こん部長ではありません)を添えてみよう。これは自分史上前代未聞の組み合わせ。北国が生んだ濃い口モンスターはこれを単品で食べるのも大好きだし、TKGに混ぜると味になんと奥行きの生まれることか。とにかく普段から塩昆布に対する信頼感があったので、起伏の激しいキャンバスに散らしてみる。黒い縦線が異様な光景である。ドキドキ。仕上げにマヨビームをお見舞いし、トースターで5分。

 チン! 

 見たかんじは意外にも食欲をそそる。いただきます。うんうん、やはりマヨは安定にして勝者、チーズも安定。ウインナーやっぱおいしいな。と思ったらおや、このうましょっぱいアクセントは……

 む、けくっ!

 この擬態語で果たして伝わるだろうか。柔らかく食べやすい食材の中に突如として現れた、喉に引っ掛かるそれ。熱を加えられ水分を失った塩昆布である。自分よ、味は深いが知恵が浅い。加熱後に塩昆布を添えるのでもよかったじゃないかと、一呼吸置けば気づきそうなことにあちゃーとなってから気づくことがある。それもかなりの頻度で。塩昆布は食パンの具材になること、加熱のに必要はないこと。小さな発見が二つあったから、まあ良しとするか。

 それよりも問題なのは、生活感が満載なことである。

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