とりあえず、すわろう。
今思うとわがままなお願いだった。
4月のはじめ、感染禍直前。「ここではないどこかへ」行きたい念にいつも焼き焦がれている私は、自家用車を所有する知人を誘った。日本海シーサイドラインをひた走る他、特に目的はなかった。
新潟にしては珍しく天気の良い日だった。日没近くになっても、いつものように雲が垂れ込めるどころかすかっと澄んでいた。
列島の際を縫うように走り、右手の佐渡島がどこまでも追いかけてくる。女性歌手の洋楽が車内で延々と流れていた。運転手のビジュアルからは想像もつかない嗜