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自信がない・批判や否定が怖い・馬鹿のふり……回避性パーソナリティ障害とは?

昨年11月に「境界性パーソナリティ障害(境界性人格障害)専門家みたいなのを辞めます」と宣言したのですが、宣言した後のほうがよりソレ関係のご相談やお問合せが増えてしまいました。

そうです、私が元・境界性パーソナリティ障害罹患者の漫画家カウンセラー、伊藤巴です。寛解かんかい(※症状が和らぐ/消えること)して今年で7年目になりました。時が経つの早すぎ。

※私が患っていた境界性パーソナリティ障害についての解説はこちら↓

亡き祖父が「世の中とはあまんじゃく(天邪鬼)なもんだで」と笑いながら言っていましたが、本当にその通りだな〜と思います。辞めると言ったら求められる——「閉店します」って言ったら急にたくさんお客さんが来る飲食店のようです。私がかつてやっていた飲食店もそうでした。

たぶん私が今「カウンセラー辞めます」って言い出したら、今までまごまごしていた人達が一気に申し込んできそうです。本当、そのお店やサービスが継続しているのは奇跡なので、いつまでも続くと思ったらいけませんよ。
あと「辞める」って言われる前に行きましょうね。

しかしながら、“そのこと”について私はずっと不思議に思っていました。

「カウンセリングが気になる」「今の生活や精神状態が苦しい」と言いながら、私の所にお問合せに来るものの、申し込まない人達。
なんとか理由をつけて、問題解決を先延ばししようとする人達。

「申し込み前にお問合せに来る人の95%が申し込みをしない」というのが、12年フリーランスで働いてきた私の個人的観測範囲の持論なんですけど、“なぜ目の前に問題があるのに、取り組むのを回避しようとするのか?”がずっと謎でした。

もちろん私にも先延ばし癖や回避癖はあるにはあります。しかし、目の前に明確な問題があると、突っ込んで行きたくなるんですよ。
「虎穴に入らずんば虎子こじを得ず」を地で行く、それが私。
だから虎穴に入りたくない心理、回避したい心理がほぼまったくわかりませんでした。

「でも虎穴にやたら入りたがる私が精神障害だったんだから、逆の回避したい人こそが健常者なのかもしれんな」と思っていたのです。

しかしつい先日、「回避性パーソナリティ障害」という名称に出会いました。

前置きが長くなりましたが、今日はそんな回避性パーソナリティ障害のお話です。


◆回避性パーソナリティ障害とはどんな精神障害か

パーソナリティ障害は、アメリカ精神医学会発行の精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders: DSM -5)において、10種類に示されています。

・反社会性パーソナリティ障害
・回避性パーソナリティ障害
・境界性パーソナリティ障害
・依存性パーソナリティ障害
・演技性パーソナリティ障害
・自己愛性パーソナリティ障害
・脅迫性パーソナリティ障害
・妄想性パーソナリティ障害
(※昔は「猜疑性(さいぎせい)パーソナリティ障害」という名称でした)
・シゾイドパーソナリティ障害
・統合失調型パーソナリティ障害

私はこの精神障害の分類をどんどん増やしていくのがめちゃくちゃ嫌いで、「結局全部、見つめ直す問題と治療方法の根本こんぽんは同じやろ」と考えていたのですが、このたび回避性パーソナリティ障害について詳しく知ることで、「そうも言ってられんな」と考え直しました。

いや確かに、根本は一緒なんですよ。
ただ回避性パーソナリティ障害は、その名称通り「逃げる」のです。

回避性パーソナリティ障害は、以下の特徴のうち4つ以上が認められることによって診断されます。
(注:これらの症状が成人期早期までに始まっている必要がある)

・自分が批判されたり、拒絶されたりすること、または他者に気に入られないことを恐れるため、対人的接触を伴う仕事関連の活動を避ける。

・自分が好かれることが確実ではない限り人と関わりたがらない。

・馬鹿にされたり、恥をかいたりすることを恐れるため、親密な関係を築くことをためらう。

・社会的状況で批判されたり、拒絶されたりすることへのとらわれがある。

・自分に能力が欠けていると感じているため、新しい社会的状況で引っ込み思案になる。

・社会的能力に欠ける、魅力がない、または他人に劣っているという自己像をもっている。

・恥をかく可能性があるために、リスクをとったり、新しい活動に参加したりしたがらない。

MSDマニュアル家庭版 - 回避性パーソナリティ障害
MSDマニュアルプロフェッショナル版 - 回避性パーソナリティ障害

また、日本パーソナリティ心理学会の論文「境界性・依存性・回避性パーソナリティ間のオーバーラップ とそれぞれの独自性(市川玲子・望月聡共著)」によると、回避性PD傾向尺度の因子分析に

自分に自信があるので,馬鹿な振る舞いも気にしないでできる。(逆転項目)

が入っているのが気になります。

つまり、他人から馬鹿にされることを極度に恐れるあまり、最初から馬鹿のふりをして自分のプライドを保とうとしている、ということではないでしょうか。(自分で言うのは平気だけど他人に言われるとムカつく、ってやつですね)

とはいえ、なるべく他人との接触を避けようとする人も、馬鹿のふりをしてプライドを保とうとする人も、別にどこにでもいます。
ちょっと上記の傾向があるからって「じゃあ回避性パーソナリティ障害です」となるのは早計でしょう。

精神疾患や精神障害の診断とは、基本「症状のパターンがどれだけ連続しているか(単なる一過性のものではないか)」そして「それによって社会生活がどれほど困難になっているか」で行われるものです。

私の場合は境界性パーソナリティ障害の症状によって引き起こされた「仕事がまともにできない」「このまま放っておくと本当に命を落としそう」等が、社会生活を困難にしている要素とみなされました。

では回避性パーソナリティ障害の「社会生活が困難」は何にあたるのか……実際に罹患していて体験談を話している人はいないのか、と探してみたところ、はちろうさんという方の記事に行き当たりました。

そうか、ひきこもり……。確かに究極の人間関係や社会からの回避ですし、「社会生活が困難になっている」に当たります。

このかたの場合は「自分にどのような特徴があるか」を客観的に受け止め(というか、そういう訓練をなさったようですが)、支援を受けようとされています。しかもこうして、就労継続支援B型事業所(manabyCREATORS)が運営するWebメディアに作品を投稿しておられますし。

しかし、そういうことができない……なんなら自分が回避性パーソナリティ障害と気づいてもいない人々は、もしかして境界性パーソナリティ障害より治療が困難なのでは……と思いました。

◆境界性より回避性のほうが治療が難しそう、と考えた理由

私が患っていた境界性パーソナリティ障害も、治療が困難な精神障害のひとつと言われています。

少しのことで他人を見下すので、精神科医やカウンセラーを見下したら二度と言うことを聞かなくなるのと、周りの人間関係をコントロールして引っ掻き回そうとするので、医師や看護師の人間関係が引っ掻き回されてしまい、病院側から治療を拒否されるといったことがあるからだそうです。

(私の場合、後者はなかったのですが、プライベートでの人間関係は色々引っ掻き回しました)

※見下しの話はこちらにも書いています↓

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