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逆張りのハンドクリーム


昔から相手の意図を汲み取って
あえて期待の逆を行きたくなる癖があった。


いろんな生徒を指名して、
誰も答えが出なかったとき。

はぁ、もう。
というため息とともに自分の名前が呼ばれる。


授業を先に進めたい。時間がもったいない。
本当は一人目か二人目で答えが出ると思ったのに。

そんな心の声が聞こえるとともに、


こいつなら正解するだろう。
さて、次の問題は…っと、

そんな思考まで透けて見える。


そんなときは、

いやぁ、わかんないっすね。

ニヤニヤしながら、いつもそう答えていた。


問題がわからないと思われる。
もっと言うと頭が悪いと思われる。


そんなことよりも相手の思い通りに
自分が動くことが嫌だった。

本当に子供だったと思う。



そんな幼い日々から、約10年の月日が経った。


全然今でもやってしまう。
人はこんなにも成長しないものなのか。



二年ほど前、
兄に連れられて初めてボルダリングをした。


兄の前では顔に出さなかったが、
結構楽しかった。

意味のない小さな逆張りだ。


その後、腕に力が完全に入らなくなり、
ペットボトルのキャップが開けられなかった。

兄は開けようとしてくれたが、
意地でも渡さなかった。

ここまでくると若干、逆張りが鬱陶しくなってくる。



それから、時間ができると
ちょこちょこボルダリングをするようになった。

一人で行く時もあるし、
友人を誘う時もある。


初めて壁を登る友人たちは、
みな一様に腕力をゼロにしてジムを去る。

僕がペットボトルを差し出して揶揄うと、
ニコニコで力入らないよーと素直に答えてくれる。


なんと純真なのか。
逆張りをする変なやつに是非見せてやりたい。



最後に、自分でも意味がわからない
逆張りの話をして、後味悪く締めたい。


壁を登ると、摩擦が起きて指先が傷む。


そこでハンドクリームを携帯し、
帰りに塗るようにしていたのだが

先日、ついに切れてしまった。


買い物をしつつ、ふらっと入ったお店に
ハンドクリームが置いてあったので

せっかくだし、どれか買おうと香りを確認していた。


5つほど種類があった中で
気になった3つを試し、

その中でもバニラのものが
好きな匂いだなーと思っていた。


ということで、
ご想像の通りだと思うが、

結局、試しもしていない
伊予柑の香りのクリームを買った。


ついに逆張りが自分に対しても発動したのだ。


この香りが好きだな。
これを買うんだろうな。

そう思った瞬間に購買意欲がゼロになった。


一番近くにあったクリームを買って
足早に店を出た。



全く後悔はしていない。


前も書いたと思うが
細かいことは気にしない性質なのだ。


ただ机の上で転がるクリームを見て
自分の逆張り癖を思い出したという話だ。


ちなみにクリームを塗ると、
みかんをむいた後のような匂いがする。

みかんを持ち歩く手間を考えると
ハンドクリームの方がはるかに楽だ。


しかも手もケアできる。素晴らしい買い物をした。



僕はたまに自分がわからなくなる。


素直に先生の期待に応えれば良いのに。

素直に好きな香りのクリームを買えば良いのに。


僕だってごく自然にそう思う。


それでも、思い通りに進むと
面白くないという感覚と

素直にこれをやりたいという自分の願望とが喧嘩し、


心の中で摩擦を起こして、
いつも小さなケガをしてしまうのだ。


きっとそれが逆張りなんだと思うし、
僕は一生このケガと付き合っていくんだろう。



逆張りを治すクリームは発売されないのかな。


まあ、きっと出ても買わないんだろうけど。

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