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Official髭男dism/宿命 が、小説のなかで流れたら

雄大なビートのうえに、豪華絢爛なホーンセクション。リズム・マシンのタムの音色が、シンプルかつ効果的なフィルインで空間を埋める。むしろこのタムを聴かせるためにこそ、意図的に作られたスペースなのかもしれない。

フィンガースナップがビートを引き継ぎ、Aメロがはじまる。キレのよいピアノにのせて、歌声はのびやかに上って下る。

上昇していくベースに煽られるBメロ。ありきたりでも捨てがたい、強力なフックがあふれる。《夢じゃない 夢じゃない》と繰りかえす歌詞も、言葉の凡庸さに負けない力を持つ。歌の合間には、ホーンセクションがオブリガートを挿しこむ。ベースは裏方でありながら、スラップ奏法で高域にも色をつける。

盛りあがったサウンドを断ち切る《届け!》から、シンセベースが厚く支えるサビへ。2つ目のコードで転調しながらも、無駄に動かず、休符もないシンセベースのおかげで、存分に身を委ねることができる。Bメロと同じように、階段を上っていく旨みのあるコード進行。

ホーンセクションは引き続き派手に騒いでいる。《輝くから》と力を込めるヴォーカルに4分音符で合わせる楽器隊が、2回し目に向けて勢いをつけていく。《切れないバッテリー》と《魂の限り》で韻を踏むことも忘れない。ロングトーンを増やして緩やかなメロディーへ移行したヴォーカル――その声がスッと消え、民族音楽的なフロアタムがサビを締めくくる。

再びAメロへもどっての、バンドの合流地点。これでもかとの音程差をまたぐベースのスライドを合図に、休符の一瞬――スネアドラム、その直後にまたベース――と噛み合うリズム隊。

ベーシストにとって、1番のAメロは完全な休み時間になっていた。その時間をとり戻すかのように、さまざまな味つけを見せる2番のベースライン。3音でコード進行をしめした後、手を変え品を変えのフレーズが披露される。もちろんBメロでは、スラップ奏法による主張も忘れない。

《届け!》の合図なしに、4分音符のキメで2度目のサビへ。《背番号》という歌詞が耳に入ることで、1番の歌詞にあった《切れないバッテリー》が思い出される。「切れない電池」の意味だけでなく、野球のピッチャーとキャッチャーの関係があらわされていたようだ。その意味が事後的に重ねられる趣向だったのか、もともとその意味で使われていた《バッテリー》だったのに、僕が気づかなかっただけなのか――。

《照らし合っていく forever》という歌詞で「永遠」が歌われていながら、ぶつ切りに編集された声で間奏へ。イントロのリフレインをホーンセクションが呼び返し、すでに十分すぎるほどに聴きどころだらけの音のなかで、歪んだギターソロが動き回る。ピッチシフターも使われているようだ。

間奏明けは静かなピアノとヴォーカル――2回し目からはベースも加わり、今度は裏メロ的に、滑らかなフレーズを奏でていく。《燃やして 暴れ出す》という歌詞に導かれ、力強い高音を、響かせるべくして響かせるヴォーカル。直後に生まれた空白に、タムの高低差を生かした長めのフィルインが入る。

そしてまた《届け!》の合図――ここからは素直に振りかえりに終始するサビのようで、アウトロへのお膳立てとして、それぞれのプレイヤーが自らの演奏をなぞる。

再び顔を出す歪んだギター。ヴォーカルの出番は終わったと思いきや、ほんの3秒ほどの隙間にさらなる見せ場がくる――。

――《ただ宿命ってやつを》

ゴスペル風の重層的なコーラスが重ねられ、続くロングトーンは、この4分半でいちばんに力強い《立ち向かうだけなんだ》――。

その声は、フロアタムのフレーズが終わるまで、きっちりと伸ばし切られた。


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