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ヨルシカ/爆弾魔(Re-Recording) が、小説のなかで流れたら

《死んだ眼》《爆弾》と、のっけから物騒な言葉を投げつける。ギタリストにタイミングをあわせるドラマー。ハイハットは細かく細かくきざんでいく。

《さよならだ人類》《みんな吹き飛んじまえ》と、さらに物騒な言葉がつづくけれど、「さよなら人類」の【たま】を思いだしてファニーな気持ちにもなれる。

ツインギターがひらひらと、和風にハモるメインフレーズ。疾走するリズムにシンプルな3コード。この曲をキラーチューンにするのだという気合いをかんじる。

その3コードめを変更してAメロに入ると、ベースが休んで余白をいかしたビート。乾いたギターが、3コードの頭だけを短く鳴らし、ハーモニクスやオブリガードで味つけをおこなう。

僕も混ぜてくれ、とやってきたベースとともにBメロへ。《今日もできませんでした》《今日もやれませんでした》という歌詞がぴったりの、むなしさが漂うコードとメロディ、ハーモニー。

Aメロで、みたい、みたいと韻を踏んでいた流れで、したい、したいと、心地よくメロディにのる。望みを挙げつらね、当然に語尾がこうなるのはブルーハーツの「」が証明ずみだ。

スネアとシンバルのわかりやすいキメでブレイクすると、単音のギターが橋渡しになり、2小節が丸々、8分音符でうめられる。

ハモりのきいたサビは、一発でキラーチューンの匂い。《ずるいよ》のくりかえしが胸にひびく。《さよならだ》《吹き飛んじまえ》で、またイントロのツインギターへ。

2番のAメロ、3コードのタイミングをキープするドラムとギター。ピアノは近すぎて不穏な和音を8分音符で並べていく。

「爆弾」という言葉でイメージされる、「時限爆弾」を表現したかのような音。大槻ケンヂの【特撮】に「爆弾ピエロ」という曲もあったけれど、あの三柴理の派手なピアノに通じるところもある。

美しい分散和音でピアノがきざみを止めると、またむなしさの漂うBメロへ。ブレイクはもうけず、それぞれの楽器が、足し算でつなぐサビへのタスキ。

さっきの《ずるいよ》が、こんどは《ひどいよ》になった。どちらも小学生のときの姉の口癖だった。わたしとの喧嘩になると、姉はどちらかの言葉、もしくは両方をわたしにぶつけてきた。いや、わたしに対してというよりも、側で聞いている母へのアピールだったのだろう。ともかくわたしとしては、姉にかえす言葉はなく、なにかを伝えたい気持ちはありながら、ただ沈黙してやりすごすしかなかった。

休符をいかした伴奏にのるギターソロ。低めの音でおとなしめに入ったあと、後半ではオクターブを上げ、速弾きも披露。最後のロングトーンが響くなか、せつなげなBメロが静かに歌いあげられる。

大サビへは《散れば咲け 散れば咲けよ百日紅》とのフレーズで接続。「盗作」というアルバムのテーマがあり、夏のイメージがあり、そして花のたぐいも強い印象を差しこんでくる。

ベースを抜いて空間をつくった伴奏のうえで、助走をとるサビメロ。スネアの連打で加速し、《この星を爆破したい》——何度めの言いまわしになるか、このファルセットをいかした歌いまわしが、《爆破して》《爆破したい》と言っていたことにいまさら気づく。

別れた男への攻撃的な言葉がつむがれてきた1曲も、最後には《君だけを覚えていたい》と、一瞬だけ本音がもれて幕がおりる。

《だから今》は、これからもくりかえされて、爆破はいつまでも、起こりそうもない。


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