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歴史で辿るいけばないろいろ/②「なげいれ花 自由な気風」

2019年、白白庵では華道家・山田尚俊(大和花道/家元)を講師に迎え、半年間特別講座「歴史で辿るいけばな色々」を開催しました。
同講座ではいけばなの歴史を振り返って学びつつ、各回のテーマに沿っていけ込み、講座限定のオリジナル花器とお花をお持ち帰りいただきました。
当記事では山田尚俊監修の下、その講座内容をアーカイブとしてご紹介致します。
※第二回は田村一個展「LOTUS ON THE TABLE」に合わせて開催。画像は講座の様子から掲載。

第一回目は、日本独特の「八百万信仰」、「依代」と仏教の「供花」の融合による、立て祀る花「立花」という様式のいけばな、花道の誕生まで辿りました。様式が整い、一定のきまり、型が成熟すると、そこから抜け出したくなる、崩したくなるのは必然のようで、立花と対照的な日常的な花が発展しました。
それが第二回のテーマ「なげいれ花」です。

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○立花

様式として大成した「立花」は供花という仏様へ供える花としての役割を失いパフォーマンスをメインとしたエンターテイメントに変化していったと考えられます。これらの花は仏様ではなく、武家など権力者の邸宅へいけられるようになりました。また大津絵の題材になるほどに大衆にも広まりましたが、やはり娯楽文化として扱われていたようです。

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○立花から派生した様式

古くから日本では「真行草」という格付け価値概念が諸芸道にあてはめられてきました。いけばなも例外ではなく真・行・草の3つのスタイルに分類されます。
真は仏前供花など厳かな場に立てる花。
行は書院の座敷飾りや花会を彩るように飾り立てる花。
草は花材や花器に拘らず自由にいける花です。

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○草の花からなげいれ花へ

草の花は立っていない花、なげたる花という意味で、「なげいれ花」とも呼ばれます。
当初は立花を略して崩した感じのざっくりとしたものでした。
そこに掛け花入や吊り花入という道具が舞台となることで創意工夫が生まれます。あるいは桶にいけるなどうつわの選択肢も拡がることで「草の花」に収まらない自由な「なげいれ花」へと変容しました。

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○茶の湯との出会い

千利休による侘茶との出会いによってなげいれ花は急展開を見せます。
利休自身が創り出した草庵茶室に合う花として、なげいれ花が取り込まれ、茶花へと姿を変えたのです。
すでに形式化しつつあった立花の担い手、名人たちも自分自身の感性を存分に発揮できる「なげいれ花」の可能性に惹き込まれていきました。

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○なげいれ花のその後

草庵茶室を手本に数寄屋造りが普及していくと、茶花を基本にした床にいける花も広まります。元禄時代になると、これらが町の富裕層に支持され新しい文化として隆盛を極めます。
この頃には花の扱いなど初歩的なことから指南する「花伝書」もいくつか発行され、花道の普及と大衆化が進みます。

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しかし享保の改革以降、なげいれ花は元禄期の自由な気風を失います。生き残りのために形式化と倫理道徳の取り込みを試みて本懐さえも失ったとも言えます。
自由は実に楽しいものですが、決まり事がないゆえに他者へ作品を形成する要素を伝えることが困難です。
たとえば奔放に広がるススキに菊で均衡をとる「破調の美」のようなものは、微妙なバランスで成立しているため言葉に置き換えにくいのです。
説明や解説ができないと伝えられない教えられない、となり普及に限界が出て衰退への道を歩みます。
なげいれ花の衰退は享保の改革による社会的気風だけが原因ではなく、その在り方に構造的な問題があったとも言えます。

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○まとめ

このように様式や形式への一種の反動、対義的に発展し、自由ゆえに衰退した「なげいれ花」ですが、供花という目的がないがために、「花を愛おしむ、愛でる」といういけばなで大切にしたい純粋な姿勢を見出すことができます。
本日は実技として「なげいれ花」をいけて頂きますが、花をどれだけ愛せるか、花と深くやりとりができるか、そんな思いを大切にしてみてください。
そして、花とのつきあいに悩んだ時はきっと田村さんの花器が助けてくれるはずです。
花とうつわに自分の感性を引き出す道標、ヒントがあります。

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○実技

自由な花をいけるためにまずは、物理的に自由になる準備をします。
この花器は「もの」「作品」としての存在感が強いので、花器を頼りにいけ始めると花器の力にのまれてしまいます。蔓状の枝で土台を作り、花器との意思疎通をはかります。

【使用花材】
サンキライと野ばら(蔓状、土台用)
ヒマワリ(印象が強く、馴染みもあり目を惹く効果)
オンシジウム(やわらかで華やか。制約がある中でも変化を出しやすい)
サンダーソニア(チャーミングかつ特徴的でアクセントにしやすい)
グロリオサ(茎の動きが楽しめるため、作品空間を拡げられる)

(2019年8月 山田尚俊作成の講座資料より書き起こし)

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花器 田村一「horns」講座限定Ver.について
「『horns』は点ではなく面の変化を考えて作りました。轆轤を挽いたときにつく、螺旋の凹凸が『面』になってさらに回転していく。角や巻貝の成長のようなイメージ。
投げ入れにはなかなか大変な器かもと思ったのですが、その分、決まったときはいいはずと思ったのですが…チャレンジングな器です。」(田村一)


山田 尚俊 YAMADA Shoshun
華道家

高校時代、展覧会で大和花道家元下田尚利のいけばなに魅せられて、弟子入りする。
高校卒業後、テクノ・ホルティ園芸専門学校フラワーデザイン科に進学、花と関わる仕事を模索するが、いけばなの仕事以外は考えられず、一般社団法人大和花道会に就職、華道家として活動を始める。
2010年 大和花道会会長就任を契機に活躍の場を拡げ、家元助手として培った技術に裏打ちされた作品は高い評価を得ている。
いけばな協会理事、公益財団法人日本いけばな芸術協会理事として華道界発展に努める。
facebook/shoshun.yamada,instagram/shoshun_yamada

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