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寝つけない子どもだったし、今もそれは変わってない。

私は、子どものころから眠るのが下手だった。

両親は赤ちゃんの私を寝かしつけるのに苦労したそうだ。夜は毎日、腕に抱えてユサユサ揺らし続ける。寝たかな? と思って床に置くと泣く。「背中スイッチ」というやつが、私にもついていたようだ。

父は、眠らない私を車に乗せてドライブした。祖父母が家に来たときは、祖母が私をおんぶして夜の住宅街を散歩させている間に、両親が寝て体力を回復させていたという。どうにもこうにも寝てくれないときは、樋屋奇応丸を頼りにしたらしい。おかげで私はスーっと寝入って、様様だったよう。

自分自身で”それ”を自覚したのは5歳のとき。幼稚園のお泊り会。周りのみんながグースー寝息をたてたり、ドタンバタンと寝返りを打っている中、私はジッと天井を見つめるだけだった。先生が見回りにやってくる足音が聞こえて「寝ていなくて叱られる」と思った私は、必死に目をつぶって寝ているフリをした。

(しかし、その姿はあまりに滑稽だった。 先生の撮影した写真に残っている。あっちこっちに飛び出す寝相の子どもたちの中、私は目をつぶって「気をつけ」をしていたのだ。1人だけポーズが違いすぎる。ビシーッと手足が揃ったまま寝る人間はおらんやろ。逆に目立つわ。先生は私が起きているのに気づいてたと思う。)

小学校に上がっても、寝つきが悪いのはそのまま。布団に入って2時間は眠気が来なかった。川の字で寝る両親と自分とさっきまで布団の中で遊んでいた弟妹が、先に寝息を立て始める毎夜。私は眠くもないのに目をつぶったり、天井を見つめたりする。

たまに、だんだん自分の体が小さくなっていき、周りが大きくなって、遠近感がおかしくなる不思議な現象が起きて、それに身を任せていた。(不思議の国のアリス症候群と言うらしいと最近知った。)ギュウと目をつぶるとまぶたの裏におかしな模様がモワモワ広がるのが面白くて、それを観察しつづけた。秋冬は、毛布の毛をブチブチむしり続けて、その感触が気持ち良くてだんだんウトウトし始めるという技を使っていた。私の毛布は胸元だけキレイに禿げてた。

遠足や運動会などの行事の前日に眠れないのは初期設定。眠れないからと言って、翌日体がしんどいわけでもなく、日中に眠気があるわけでもなく、毎日元気に走り回っていたように思う。子どものありあまる体力ゆえか。寝不足に耐えやすい遺伝子でもあるのか。よく飲んでいたオロナミンCのおかげか?

昼寝もほとんどしなかった。昼寝をしたレアな日は年に片手で足りる回数。例えば、家族で公園に遊びに行き、アスレチックでさんざん体を動かしたのにもかかわらず、帰りの車内で弟妹母がグーグー寝息を立てる中、私はパッチリ目が冴えきったままだったし、その日の夜も寝つきは悪いままだった。興奮しっぱなしで、交感神経が優位な状態が続いていたのかもしれない。

大人になっても、背中スイッチをつけたまま生きている。ウトウトしてきたなと思って布団に横になった瞬間、目が冴える。昼寝もほぼほぼしない。就業時間に10分のシエスタが設けられていても、ただ目をつぶるだけで終えてしまう。10分という時間設定はおかしいと思う。

そんな私は、睡眠の資格を持っている。資格をとった理由は成り行き。寝つけない自分をなんとかしたくてとか、睡眠に対して興味があったというわけでもない。むしろ、寝つきが悪いことは それまであまり悩んできてないし、昼寝ができないのも「私はそういう性質だ」と当たり前に思うところがあって、やはり悩みの種にもなったことがない。私は睡眠欲が低いのだと思う。なぜ人間は毎日7時間くらい気絶していないといけないのだろう。

睡眠の知識がついてくるといろいろ実践したくなる。眠れない夜にするといいこと、1日のスケジュール、食事、寝具、部屋の環境、エトセトラ… 気をつけてやってみても、眠れないときは とことん眠れないものだ。むしろ、絶対寝てやるものかという脳側の意識(私という自我から見れば無意識)を感じる。いや、寝方を忘れてしまったのか?

眠ると脳に記憶が固定化される。だから、受験生は特に勉強したら寝ろと言われる。ということは、眠気がこないというのは、記憶を固定化したくないからなのか。その日、何か、忘れたいような出来事があったとでも? 心配事があるから眠れないのは、脳の働きからして防御反応のようなものなのか?「寝て忘れろ」という言葉は、実は逆かも。眠るな、さすれば忘れるであろう―――ってか?

なんてことをクルクル考えたところで、人間は眠るようにできてしまっているから、やっぱり寝た方がいい。そりゃそうだ。最近は、年のせいか、眠れなかった次の日の倦怠感をもろに感じるようになった。睡眠不足に耐えられる力が少しずつ減ってる印象。いつまでも若くないのだな。

高齢者となった両親が、かつての祖父母のように、分割睡眠をするようになりつつある。まとめて眠る力がなくなってきているのだ。体の仕組み的には、長くいっぺんに眠ることを必要としなくなるのは当たり前。昼寝等の睡眠時間をトータルすれば、きっと6時間は寝ているだろうと笑う両親は、入眠に時間がかからない。横になって5分で眠りに落ちるのだから、いいじゃないかと笑う私なのである。



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