見出し画像

母の短歌に泣きました

〜 2008年秋の記録 〜

今日は義母の3回忌。
家族や親戚が集まり
亡き母を偲びました。


無宗教だった母の意思を尊重した法事。

そこには
お坊さんの姿も
線香の香りもなく
法事の流れは全部
義父が考えました。


全員で黙祷し
般若心経をみんなで読経し
生前母が親しんだ社交ダンスの
音楽を流し
墓前に献花を。


そして今日来て下さった
親戚や家族全員に
父から一冊の本が贈られました。


それは
母が成人してから晩年に至るまで
約50年の間に詠み遺してあった
俳句や短歌を一冊にまとめたもの。


母が折に触れ 時に感じて
書き留めた歌は616首あり
それらを全部収めたのだそうです。


父は前書きに


「彼女への鎮魂のしるしとして
また、子どもや孫たちに読んでもらい
なにか心に触れるものを
感じてくれればとの思いから
このように一冊にまとめてみました」


と記しています。
そして自費出版されたこの本の表紙には
母が愛用していた着物と帯のデザインが
使われています。


口では多くを語らない父の
母への深い思いが
そういったことの一つ一つから
伝わってきます。


***


法事から帰宅し
ぱらぱらっと本を開いてみました。


なんとなく
「お母さんどんな俳句をつくっていたのかな」
くらいに軽く読み始めたのに


ページをめくるごとに
どんどん引き込まれ
読めば読むほど心の芯が
じわっと熱くなっていくのを感じました。


そこには父と出会い
妊娠したときに
そっとおなかをなでたり
初めて胎動を感じた日のこと


赤ちゃんと対面したときの
あの段々と愛おしさが湧いてくる喜び


父への思い
姑や義理の家族への悩み


子どもたちの成長
老いていく両親への思い


ずっと病弱だったことから
病に対する言いようのない不安
病院スタッフへの感謝


子どもの結婚
孫誕生の喜び


晩年ずっと介護し寄り添った
父への愛情と感謝

………

一人の女性の半生と
様々な思いが
等身大で綴られていました。


母の歴史が「思い」という
50年をかけた歌で
綴られていたのです。


そのなかには私や夫のことも
いくつか書かれています。


例えば母にとって
初めての我が子の結婚体験となった
息子(=私の夫)結婚の年の歌。


***

新郎となりたる吾が子ははじめての
袴にすっくと立ちてきまれり


遠距離と紹介されし息子の恋
今日結ばれて未来へ一歩

***


私たち夫婦に長男(初孫)が生まれてからの歌。


***


マーちゃんと呼び慣れし息子今日よりは
父さんとなりて吾が子を抱けり 


幼子の声あげて笑ういとしくて
イナイイナイバーを繰り返すなり


孫の声携帯電話に響ききて
私の胸はときめきにけり

***


病気の進行と衰えていく体力への不安や思い
介護する父への思いも…


***


咳き込みてこの世の終わりかと思うとき
夫のやさしき手が背をなでる
(母は肺を患っていました)


迫りくる死の影の前の老いの影
その前にたつ衰えの影


今日もまた目覚めて朝食をとることの
できる喜びかえがたきもの


母親の役目は何と問う我に
「生きていること」子は答えり

***

そして

私たちが結婚した年に作られたこの歌。

***


おかあさんと我呼ぶ人の増えたれば
嬉し恥ずかし可愛い人よ


***


お母さん、お母さん…

私は本当に何もできない
至らない嫁だったのに
こんなふうに思っていてくれたのですか?


お母さん
お母さんありがとう



母の本は

一人の女性としても
妻としても 母親としても


そして私が職業柄
病気を患う方と接する機会が多かった
立場としても


「身内だから」という理由だけでなく
深く共感し
心に強く響くものがありました。


母が愛し育ててきた夫を
そして父を
兄妹たちを
私たちの子どもを
かけがえのない毎日
せっかく生まれてきた私の人生を

なによりもなによりも大切に
歩んでいきたいと思います。

この記事が参加している募集

眠れない夜に

今日の短歌

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?