【短編小説】魔法使いになりたかっただけ その3【連載】

「魔法少女プリティ」。

 私が子供の頃に放映されていたアニメだ。
 ストーリーは単純明快。主人公の少女が魔法を手に入れて、友達と一緒に毎日を過ごす……そんな魔法少女ものにありがちな典型的な内容だった。親にあまりテレビを見る許可をもらえなかった私は、ほとんど見ていなかったし、学校でもあまり話題にはならなかったと記憶している。

 では何故私がこの「魔法少女プリティ」を覚えていたのだろうか?

 それは……多分、玲子がとても好きだったからだ。


 彼女が語る夢物語には、必ずこのアニメが引き合いに出される。魔法のステッキを振ればあら不思議、次々と素敵な魔法が繰り出される。学校までは魔法のホウキでひとっ飛び、宿題だって一瞬で終わらせることができるし、友達が困っていてもすぐ助けることができる。彼女はそんなところを気に入っていたのだろう。そして、そんな魔法の世界を更に発展させた世界に憧れていたに違いない。

 そんなことを思いながら私は、しげしげとその魔法のステッキを眺めていた。ところどころ汚れていたり、塗装が剥げたりしている。ひっくり返してみてみると黒いマジックで大きく「れいこ」と書いてあった。

 そういえば玲子、子供の頃はこのステッキをいつも持ち歩いていた。情景を思い出し、ふと懐かしむ。
 私はステッキをダンボールに戻すと、もう一つの内容物のノートを一冊手にとった。


 どこにでもあるような一般的なキャンパスノート。表紙には大きく「1」と書いてある。他のノートにもそれぞれ数字がふられていることから見ると、これは順番に続いているものなのだろう。ノート自体に気になるところといえば、百枚綴じであるというところだが、何かそんなに書きたいことでもあったのだろうか。

 1ページ目を開いてみる。そこには、

「20XX年3月11日」

 と見出しに書いてあった。

 私はピンときた。多分、これは彼女の日記だ。この日付から察するに彼女が上京して来た時から書き始めたに違いない。パラパラとめくってみると、百枚あるノートのページにはびっしりと文字が書かれていた。多分他のノートにもこんな風にびっしりと日記が書かれているのだろう。

 もしかしたらこの日記を読めば、あの子がどうして行方不明になったのかわかるかもしれない。

 そう確信した私は、まず「1」と書いてあるノートだけでも読んでみることにした。
 ゆっくりとノートを開き、彼女の残した文章を読み始める。


『20XX年3月11日。今日から念願の東京での生活が始まるので、これからは日記を書いていこうと思う。私の心のなかをここに書いていくことで、少しでも自分の気持ちが掌握できるのではと思ったからだ。
 私が今まで住んでいたところは本当に何もなかった。二時間に一本しか来ない電車。一クラス十人程度しかおらず、全校生徒が六十人の学校。手作業でやる畑仕事。不便なこと、このうえなかった。

 でもこの東京は違う。何もかもが輝いている。

 初めて見た東京駅は美しかった。かつての趣を機能的に残した外観。あたりに広がるビル群。すべてが輝いていた。まるで魔法だ。
 私が求めていたものがここにはあるのだろうか。楽しみで仕方がない』



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?