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なぜゴルフ場の跡地に発電所を建設するのか?

世界中で「脱炭素」の動きが加速している今、大きな注目と期待が集まっている再生可能エネルギー。本シリーズ「エネルギーの未来について語ろう」では、そんな再生可能エネルギーに秘められた可能性や魅力について、パシフィコ・エナジーで働く「中の人」や関係者がそれぞれの想いを語ります。

これまで2回に渡って登場した太陽光発電事業開発部門長の密本曜大。第3回目となる今回は、密本が仕事をする上で大切にしていること、そして発電所開発にかける想いなどについてお届けします。

太陽光発電所開発ならではのコミュニケーション術 

私は現在、パシフィコ・エナジーの太陽光発電事業開発部門の部門長を務めています。発電事業開発を現場サイドの立場から推進していくことが私の主な役割です。

発電所を建設する土地の仕入れや事業規模や発電量の検討、具体的な仕様や設計の確認、運用後の収益や10年先、20年先を見据えてどれくらいのリターンが見込めそうかを予測するなど、発電所開発における要所に目を配りながら案件をしっかりと形にしていくことが私に課せられた大きなミッションです。

また、パシフィコ・エナジーにおけるコミュニケーションの“チャンネル”的な役どころを担う場面も多く、エンジニア部門や投資部門と連携してプロジェクトを進めたり、地方自治体との協議や地元住民の方々との合意形成、海外投資家とのやりとりなども行ないます。

発電所開発にはさまざまな「人」が携わりますが、私の仕事は特に人に嫌われては成り立たない仕事。自身の「人間力」が試されるようなシチュエーションも仕事の中では多々あります。

たとえば、発電所を建設する土地の地域住民の方々とコミュニケーションを取る際には、その地域ごとの特色や地元の事情、土地柄といったものにも注意深く目を向けなければなりません。発電所建設にあまり好印象を抱いていない地元住民に対しては、太陽光発電のメリットを冷静に一つひとつ説明し、相手方の考えや要望にもしっかり耳を傾けながら、根底にある不安や懸念を解きほぐしていく。ときに感情的な言葉をぶつけられることもあります。それでも対話を諦めず、冷静に、腰を据えてコミュニケーションを取ることが大切です。

地元住民への説明会の様子

過去にとあるプロジェクトで、プロジェクトが具体的に動き出してもう後戻りができないタイミングで、行政側から発電所建設に難色を示すような動きがありました。事前に行政側との合意形成は行なっていたため、ちゃぶ台をひっくり返されてしまった感もありましたが、その際にはとにかく可能な限りのネットワークを総動員して、行政のトップに「なんとか1分だけでもお話する時間を」と頭を下げて陳情を行い、考えを改めて貰ったこともありました。

たとえ行政レベルの判断であっても、発電所建設に反対する理由が合理的なものではなく、感情的なものであることはよくあります。そういった場合、こちらも感情的になってしまっては説得や交渉はできません。重要なのはあくまでも冷静に、太陽光発電を行なうことで得られるメリットを説得力を持たせながら一つずつ提示していくこと。冷静かつ謙虚な姿勢を示しつつも、主張すべきことはしっかりと主張する。そのようなコミュニケーションにおける“攻め”と“守り”のバランス感は常に意識しています。

なぜゴルフ場の跡地に発電所を建設するのか?

発電所を建設するにあたって、私たちが特にこだわっているのが土地の選定です。パシフィコ・エナジーはこれまで、主に全国にある“ゴルフ場”を転用する形で太陽光発電所を建設してきました。山を切り崩して新たに発電所を建てるのではなく、できるだけ既存のゴルフ場を再利用する。それが私たちの基本方針です。

日本ではバブル期に、たくさんのゴルフ場が全国各地に建設された歴史があります。ゴルフ場の数は世界でも三番目の多さで、ゴルフ人口に対して供給過多の状況にもなっているのです。また、経営難からすでに閉鎖されてしまったゴルフ場も多く、長い年月放置されたゴルフ場は荒れ果ててしまい、使い道もなく持て余されてしまったり、獣害被害が発生したり地域の防災リスクを高めてしまったりもします。

そのような半ば打ち棄てられたゴルフ場、あるいは、諸事情から経営難に直面しているゴルフ場を太陽光発電所として有効活用できれば、再エネ導入による環境貢献にもなりますし、ゴルフ場数の最適化にもつながるのでゴルフ業界にとっても大きなメリットとなります。また、建設期間中の雇用創出、事業から生まれる地方自治体への税効果により、地域経済にもメリットが生まれる側面もあります。加えて、これまで大量の肥料や農薬を使用して管理してきたゴルフ場を、農薬を使わない太陽光発電所に転用することで、生態系も本来の姿に回帰するといった具合に、ゴルフ場を太陽光発電所に転用するメリットは非常に多いのです。

ゴルフ場に加えて、私たちが現在、可能性を感じているのが“農地”です。日本では現在、農業従事者の高齢化や後継者不足といった問題、またコロナ禍やウクライナ危機の流れから、農業資材の高騰による経営悪化といった問題も深刻化しています。これによって担い手がいない農地を持て余している地主や、農地が長期間に渡って放置されてしまう“耕作放棄地”も増加し、健全な農業経営が困難な農家も急増しています。そのような問題を解決する一手として、今「営農型太陽光発電」という取り組みに注目が集まっています。

実際に「営農型太陽光発電」を行なっている現場の様子

営農型太陽光発電とは、農地で営む農業と並行して太陽光発電も運営する取り組みのこと。農地の再利用という観点はもちろん、経済的に困窮する農家の収益向上にもつながるなど、さまざまなメリットが期待されています。

気をつけたいのは、ソーラーパネルを設置するスペースと農作物を育てるスペースが、同じエリアの中でお互いに土地を奪い合ってしまうような事態です。そうなってしまっては本末転倒なので、農家の方々が農業を継続しながら太陽光発電にも無理なく取り組める、そのような営農型太陽光発電の理想的なあり方をパシフィコ・エナジーは現在模索しています。

農業と共存できる太陽光発電所がパシフィコ・エナジーの理想です

明日何が起こるかわからない、そんな世の中だからこそ未来を見据える

太陽光発電に対して悪いイメージを持っていたり、発電所建設に反対意見を持っていたりする人に対して冷静な姿勢でコミュニケーションを行うことが重要。先ほどそのように述べました。それに加えて私は「私たちが暮らす社会の未来のことを考えましょう」と、そんなロジックでお話をすることもあります。

もちろん「何を青臭いことを……」とあまり響かない人もいらっしゃいますが、その一方で「確かに子ども世代、孫世代のことを考えるなら太陽光発電に取り組む価値はあるかもね」と共感と賛同を示してくれる人もいらっしゃいます。

仕事や家庭のこと、その他日常のさまざまな雑事に追われている現代人にとって、日頃から50年先、100年先の未来に思いをはせて具体的アクションを起こすのはなかなか難しいことなのかもしれません。しかし、新型コロナウイルスの流行や、最近だとロシアによるウクライナ侵攻が起きてしまったように、思いもよらなかった危機が明日にでも起きてしまう可能性は常にあり、環境やエネルギーの領域でも、そのような危機が起きてしまうことは十分に考えられます。

何が起きるかわからない現代において、多くの人が未来を見据えた危機意識を持つと同時に、そのような危機に陥らないために自らが当事者として何ができるか考えること。それが今、より重要になっているのではないでしょうか。

夢前太陽光発電所で開催されたふれあい交流会の様子

本当に小さなアクションからのスタートでもいいのだと思います。前回の記事でお話ししたように、環境問題に真剣に取り組んでいる企業の製品を購入するなど、そんな些細なことでもいい。そのような小さな積み重ねをコツコツと続けることが、私たちの日常を少し豊かにしてくれたり、日々の生活の充実感にもつながってくる気がします。

とはいえ、そのようなアクションを起こすには、感度を高くして「どの企業がどのような環境対策を行っているのか?」など、日頃から意識的に情報を集める姿勢も求められます。そこにハードルの高さを感じる人もいるかもしれません。

そのようなハードルの高さを払拭するためにも、もう少し環境や政治の話題について家族や友達とカジュアルに話せるような空気感が醸成されれば、日本も変わっていくのではないかと私は考えています。Z世代と呼ばれるような最近の若い人たちは環境意識も高いと聞きますし、もしかしたらすでに若い世代の間には、そのような空気感ができつつあるのかもしれません。

そして、環境問題などについて気軽に会話ができるような空気感を世の中に広げていくためには、我々のような再エネ事業者もまた、多くの人に共感してもらえるような企業アクションや情報発信を心がけていかねばならないでしょう。

私たちの今後の事業活動を通して、パシフィコ・エナジーの想いや姿勢を世の中に提示していくと同時に、このnoteという場を通じても、再エネや太陽光発電の魅力や可能性をより多くの人に届け、私たちの想いに共感してくれる人が少しでも増えたら大変うれしく思います。

3回に渡ってお届けしてきた私のお話は今回でいったん終わりますが、ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。


「エネルギーの未来について語ろう」密本曜大 連載第1回と第2回はこちらからご覧いただけます。


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