令和5年度 人・農地プラン案への意見



1.はじめに


儲かる農業という基本的な考えについては私は異存はないが、その内容については人それぞれ様々であり、そもそも他人の経営やその方針について他者が介入するというのは通常あってはならないことと考える。
儲けとか経営の範囲外で営む自給的農業者や、家庭菜園を楽しむ一般消費者を含め、地権者他多くの関係者の協力を得られる、そういう様々な人達の理解やメリットをも提供できる、生消一体となるようなプランでなければならない。
私は、実際に一部の担い手が規模拡大を推進することを否定する立場ではないことを前提として、
不可侵であるはずの経営方針について踏み込み、しかも一面的な考えにより作成されたプランを提示されているので、その内容について否定的意見をカウンターとして提示し、そこに触れざるを得ない。
それにより何かのヒントとなり、地域にとってバランスの取れた、より良いプラン作成の一助となることを期待したい。

2.現状・課題

規模拡大すれば儲かるみたいな浅薄な認識では、とてもではないが皆が協力して何かを成そう、という雰囲気を醸成することはできない。
自給的農業者はじめ様々な関係者からも広く集めた税収を用い、認定農業者や一部の中心経営体、規模拡大する担い手だけを支援し、儲けさせようという差別分断的思想を、地域全体で儲かるという欺瞞で取り繕ったプランで、地域をまとめることが出来ると思っているのかは不明だが、
このプランを公にすることは、
座談会に参加したり、このプラン作成に関わった方達の、地域の担い手として地域をまとめ代表する資質・能力への疑義を明らかにしてしまう。
規模拡大、経営拡大に意欲的でこのプランを有効活用しようとか、地域をより良くしていこうという意欲意向があるのであれば尚更、他者その他大勢への目配り気配りが大切であり、そのメッセージの弱いこのようなプランでは、かえってその意向の妨げとなる。

2−1.外部依存型工業的農業の帰結

一部の経営体が、経営を謳い儲けを追求し、コストを掛け規模拡大して大量安価に生産し遠方広範囲に供給する、外部依存型工業的農業は、
機械は大型化し当然海外を含む域外産、肥料農薬資材エネルギーも域外産、労働者も外国人を含む域外産、それらを調達する資金も域外、生産物の販売先も域外。
ヒト・モノ・カネ全てが域外となり、世界情勢が不安定化する時代にあって、想定の範囲外の経営リスクを抱えることになるだろう。
さらに言えば、効率化を追求し利益の最大化を至上命題とする工業的農業は、やがて安価な労働力や広大な土地等生産条件の良い場所を求め、海外移転等所在地も域外となり得る。
つまり外部依存型工業的農業を突き詰めると、その中心が空洞化する。
他の代表的第二次産業の例を見るまでもなく、地域農業を少ない人間で回せるようになることだけからでも、それは類推可能だろう。
そういう意味での空洞化もあるが、それはさらに心理学的、社会心理学的な空洞化(意訳すればアノミー)に繋がり、やがて様々な社会病理としても表出することになる。
そして農産物が安価に供給出来消費者も喜ぶから良いというのは、実に一面的な認識である。
長引くデフレやコストプッシュインフレ等による可処分所得の減少で経済活動がシュリンクしていき、結果的にそれに苦しめられているのが問題と言いつつそれに拍車をかけるなど、ナンセンスそのものだろう。
また、地域に生活の基盤を置かない外部の経営体を招いて担い手として支援することもその意味で同様だろう。
さらに、経営体当たりでは一見素晴らしいように見えたとしても、単位面積当たりの収益や収量が素晴らしいとは限らない、つまり地域単位では減収ということも十分有り得る。

2−2.公の在り方

つまり外部依存型工業的農業を推進することは、個別経営体にとってはプラスであったとしても、
地域や市にとって中長期的に社会的にも経済経営的にもプラスである、というのは幻想である、合成の誤謬であるという可能性が十分にある
それを公的に推進したり地域皆で協力して進めるというのは、ハーメルンの笛吹き男的?であり、公の在り方や、公平性の観点からも疑義を感じざるを得ない。
当然、地政学的なものや各組織の経営体力等様々な要素を踏まえた上での、作目や作型、農法等毎に地域条件に見合った適正な規模というものが存在するだろう。
そのうえでそれら様々なスタイルの農業が持続可能となるような施策を思考していかなければならないだろう。

2−3.2020農業基本計画

https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r1/r1_h/trend/part1/chap0/c0_1_03_2.html

ここで示された、地域を支える農業経営体の図中右側には、2015計画中には存在していなかった、「その他の多様な経営体」という表現が見られることからも、国においてもその必要性を認識したと読み取ることが出来る。

3.解決策

プランの基本思想において、地域社会、地域経営とか、高崎市の魅力度向上や市全体の経済経営とか運営課題、そのような視点が弱い若しくは欠ける。
そのような価値観を持って、それら様々な、多様性を持った経営スタイルを止揚し、皆が輝ける包摂的プランにすることが肝要ではないか。

3−1.皆がメリットを感じ得る表現

具体的には、
プランの実現により結果的に大規模効率化を志向する一部担い手の目的は達成される、逆に言えばというか論理的に考えれば、皆の協力を得られないとプランの実現は困難なのだから、
一部担い手だけの集積・規模拡大や儲けと捉えかねない表現は敢えて控え、どのような経営規模、経営スタイルにおいても、分散錯圃の解消や水利水廻りを含め、地域全体での作業性作業効率の改善を図る事等を前面にし、

3−2.気候変動対策

気候変動対策の一つとして、今般新しくなったハザードマップを読み解き、

その対策として、新たに流域治水の思想を取り入れた洪水緩和機能を付加するとか、
(圃場周囲や一定区域の道路等を0.5〜1m程度嵩上げし、いざという時にはその区域圃場を一時的な貯水池として機能させる(馬入箇所等農作業の危険度向上等も考慮が必要)とか、一部頻湛水区域は河川堰堤と同等の高さで囲い、同じくいざという時の一時的貯水池、信玄堤的なものとするとか)
https://www.google.com/url?q=https://www.mlit.go.jp/river/kasen/suisin/pdf/01_kangaekata.pdf&sa=U&ved=2ahUKEwiM0sHO78ODAxUbh68BHT8wC3YQFnoECAwQAg&usg=AOvVaw3HKAUnEDxBBjNLkgHeA0qE


3−3.地域で取組む新たな付加価値の提案

小水力発電、水車を導入し利益があれば水費に充当したり、直売所を併設し観光資源として活用を図るとか、

3−4.規模によらない付加価値の創造

高崎市の長期的課題解決、少子高齢化人口減少対策の一つとして、
有機農業をはじめ地域循環型農業をも推進し、それらを消費者が積極的に選択するようにPRし、
使用回数無制限の期限付き地域商品券や、ぐーちょきパスポート等の提示で地域循環型農産物の割引を受け入れられる制度等で、高付加価値商品購入を行政が価格面で支援し、地域循環型経済の活性化をも図るとか、
出産・子育て世代、高齢者や社会的要支援者等の支援に活用するとか、
学校給食の有機化や、
部活動の地域移行と地域循環型農業を絡めて教育面でも活用し生消一体化を図るとか、

3−5.柔軟な生産技術の向上による課題解決

近代化、都市化工業化グローバル化の帰結としてのリーマンショックやコロナ禍を経験し、今後想定される石油危機や有事を踏まえた上で、
儲けられる農業と言っても、単純安直に大量資本を投下し規模拡大し、経営の硬直化や外部リスクを抱え込む、大型恐竜的なやり方以外に、
作季作型を需要に応じて柔軟に対処するとか、
中長期的需給トレンドを捉えて品種品目を転換・多様化を図るとか、
地域にある資源を有効活用するとか、
放牧を含めた輪作等旧来の手法をリニューアルしたり新たな栽培方法を活用するとか、
それらに必要な様々な技術的課題の解決により対処するやり方も当然のように考慮されるべきだろう。

参考1) トマトの月別平均卸売価格

参考2) 冬春野菜の需給トレンドhttps://www.google.com/url?q=https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai_zyukyu/attach/pdf/index-20.pdf&sa=U&ved=2ahUKEwja3rTPzMKDAxW6slYBHZjkASEQFnoECAcQAg&usg=AOvVaw0XqCPMas41oEy23sNwFzc3


3−6.飼料の生産について

飼料稲についてだが、この地域では畜産酪農は行われていない(豚の畜産経営者の居住はあるようだが)こと、また、急峻な日本の国土という限られた圃場条件や食料自給率から考えれば、食生活含め今現在行われている畜産酪農のスタイルや、約10万円?/反という補助金が永続的でないのは明らかである。
放っておけば勝手に草が生える土地条件なのだから、余計な事をせずにそれを食べさせればよく、代掻き田植え水管理等わざわざ労力を掛け稲を育てさせ、さらにそれをラップし地域外まで運び喰わせ飼養管理するというのは、全くナンセンスだろう。
イノシシやシカは何も手を掛けずとも、自然に繁殖している。豚や牛でなくとも、例えばヤギやエミューとかでも良いではないか。

実際私は試しにヤギを飼ってみているが、その辺の草を食べさせておけばよく、餌代は殆ど必要ない。
それよりなによりもまず日本食、和食の代表である魚等、持続可能な水産物利用というのは言うまでもない。

次に飼料米だが、気候変動や原油供給不安、戦争紛争等地政学的リスク、大規模地震も想定されている中において、日本の米の備蓄は年間需要量680万トンの約2ヶ月分にも満たない100万トンしかない。
https://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/1911/02.html
その他穀類と併せ、この備蓄量をせめて1年分位に大幅に増やし、飼料米ではなく主食米を生産・備蓄し、その年数の経ったものを飼料等に回すべきであろう。
日本における主食米の消費拡大は勿論だが、隣国では最近毎年のように大洪水が起きている。不安定化する国際情勢において、援助という形での活用も可能だろう。
そのような考えが真っ当ではないか?
つまり予算の組み換えでこれら様々な解決策案は十分実施可能だろう

3−7.解決策のまとめ

規模拡大し大量生産廉価販売、以外でも所得を確保出来る農業をも推進し、様々な外部リスクに対処可能なより多くの担い手を確保しつつ、地域循環型経済をも活性化させ、外部的にもその取り組みを発信し魅力度向上をも図り、地域や高崎市の持続可能性に資するとか等、

(前橋市長選挙により、今後前橋市でそれら施策がなされていくことが想定されるため、高崎市においては相対的に先手を打つことも、戦略的には考慮するべきではないか。)

一部担い手の儲かる農業ではなく、地域とか、高崎市、さらには流域等を対象に、より高く多様で長期的な視点に立って思考し、様々な付加価値を設けることにより、高齢農家や定年退職農業者他、より多くの地域の関係者がその意義を感じられるプランとしなければならないのではないか。

4.おわりに

少子高齢化・人口減少だから、皆で弱者を淘汰し少数精鋭で回せる社会にしよう、そのような思想でのみ社会変革をしようとするか?それこそサイコパスの所業だろう。
子育て支援や、若者が普通に家庭を築けるような社会にし、その少子高齢化自体にも対策をしようとするのが普通だろう。

農業農村地域の分野でも同じである。それら変革の大波に対処しようとするのも当然だが、激変を緩和するため、その大波を可能な限り小さくし、またその時期を少しでも後ろ倒しにしようとも、するべきではないのか?

大規模効率化を図ることが自らの需要を減らし、経営継続が困難になり、やがて破綻するか外部移転するかの選択を迫られることになる。その時地域での後対処はバンザイ状態だろう。
地域として、そのようなサイコパス的でハイリスクかつ愚かな策を選び得るか?
真っ当であれば、そうならない道を選択しなくてはならないだろう。

規模の大小に関わらず儲けられる、様々多様な多くの関係者が担い手としてメリットを感じられ、プランに参加できる形でなければならない。
そうでないから毎年数名の参加者しか集まらないのだし、そんな座談会を繰り返したところで出来たプランは実現可能性の面で絵に描いた餅であり、かつ当然正当性もない。
さらにはプランを実行出来たとしてもじきに上手くいかなくなるだろう。何故ならそれは自然に則したものではないだろうから。

全否定するつもりはないが、
規模拡大、効率的な大量生産で自由市場に対峙という路線は今に始まった事ではなく、既に何十年も継続して行っており、その結果というか現状現実が農家の高齢化や耕作放棄地の増大となっている事実を率直に受け止め、その路線で間違いはないのか、実現力を含め問い直す必要もあるだろう。

上手くいっていないのにそれを漫然と繰り返すほど、我々は愚かではない。

「自由」を旗印に、発展発達拡大拡張成長進化等、近代化という西洋文明的直線リニア思考的価値観が行き詰まった現代、
東洋的な循環型とか持続可能的熟成とか、自然に則した侘び寂びや粋のような価値感がそれにあたるのかは不明であるが、次の価値観で次の文明社会を構想し実行していく時代にあって、その前時代文明的価値観から抜け出すのは容易なことではない。

それ故に多様性という概念でそれらを包摂しつつ、それらを地域や市民の皆が共感共有し得る新たな価値観により止揚糾合し、皆が輝ける社会を未来の子ども達に引き継いで行きたいと思う。

そんな計画を実行したい。


参考資料

参考書籍

・動物農場  ジョージ・オーウェル 著 https://amzn.asia/d/3bngbNy
https://youtu.be/2QPB0hsN0KM?si=ulO6xqcCj6FV8sTs

・怒りの葡萄 スタインベック 著https://amzn.asia/d/cxmw8wq

・農業消滅 鈴木宣弘 著 https://amzn.asia/d/cpMSeYT

・社会という荒野を生きる。 宮台真司 著 https://amzn.asia/d/iqxTbFT

・西洋の没落 シュペングラー 著 https://amzn.asia/d/dKmaRcG

・日本の没落 中野剛志 著 
https://amzn.asia/d/bgFf0R7 https://youtu.be/_1O5Tuc0S9U?si=WFBcmUCToSWtk0BY

・大転換 カール・ポランニー 著 https://amzn.asia/d/1iJH3PX

・レジーム・チェンジ 中野剛志 著 https://amzn.asia/d/fMCafSg

https://youtu.be/qKV-C6mbZR4?si=UGDQqk8d214ZUEOZ

https://youtu.be/u0jh_35m8yA?si=_JIcjDm2vdicDrVd

https://youtu.be/QTtQs_eU2Wg?si=_aOAoyXfKC_YLjQY



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?