父と音楽と私の話。

遠い遠い、1番初めの記憶。車の中で父が運転をしながら音楽を陽気に口ずさんでる。当時の流行りの、バラードだった。

赤ん坊の頃から、父がいつも口ずさむ歌を聴いてきた。父が好きな音楽はいつの間にか、私の好きな音楽へと変わっていった。


父が好きなのはスピッツやスキマスイッチ、いきものがかり。最近はofficial 髭男 dismもお気に入りらしい。父はいつも家で大熱唱を繰り広げては、母に迷惑そうな顔をされている。

けれど、私の思い出は父の歌と結びついているのだ。幼い頃の、運転中の父の陽気な歌から私の記憶は始まり、音楽といえば泣きながらピアノの練習に付き合ってくれたのも父だ。一緒に嵐のコンサートに着いてきてくれて、『果てない空』を合唱してくれたのも父だ。

アコースティックギターを弾きながら大熱唱をした挙句、母親からうるさい、と大目玉を一緒に食らったのも父とだ。

父は特別歌が上手いわけでもないし、おたまじゃくしもまともに読めない。けれど、彼は音楽が大好きなのだと思う。

父との思い出を思い出すのに1番容易な方法は、その頃父が聞いていた音楽を聞くことだ。目を閉じて音楽を聴けば、父の歌声が重なってくる。

父に、私のおススメの曲を勧めることもある。父が、"これ、いいね"なんて言ってリピート再生している様子など見れば、私は有頂天だ。父に認められた!

父は私の音楽の神だ。私に最初のインスピレーションを与えてくれたのだ。中学で合唱部に入ったのも、3歳からピアノをやったのも、声楽やボイトレに行ったのも、全部父からスタートしてるんだ。父は私の音楽技術の向上に1番喜んでくれる存在だった。

よく覚えてる記憶があるのだ。私が、高校でバンドを組んだとき、初めてギターを触った。私は手始めにbacknumberの『クリスマスソング』を弾き語りしようと苦心した。

やっとできた!と思い、父や母のいるリビングでその成果を見せた。まだアルペジオも出来ず、ストロークも、Fコードも覚束無い。けれど、私は弾き終えた。歌い切った。

どうだ!と言わんばかりに両親の顔を見ると、すごく神妙な顔をしていた。

「すごいじゃないか。もう1人でそこまで練習出来るのか。」

父は、私が小さな手でピアノを叩いていた頃を思い出したのだろうか。すごく嬉しそうな顔をして、ギターを弾き切った私を見ていた。

「すごいでしょう。」

得意げな私に、父は頷いてくれた。

音楽は私にとって父との思い出だ。

音楽は父にとって私の成長だ。

この記事が参加している募集

#自己紹介

230,268件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?