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第1回ミーティングレポートーわが家の民主主義、住民投票、歴史と物語、ケア……

2024年5月11日(土)、水戸市民会館で「民主主義同好会」の第1回ミーティングを開きました。初めてということで、どんな方がどのぐらい参加してくださるか不安でしたが、計10人のちょうどよい規模の話し合いになり、充実した時間になりました。ご参加いただいたみなさん、ありがとうございました。当日話し合われたトピックやアイデアをご紹介します。(文責:山崎一希)

民主主義同好会 第1回ミーティング
日時:2024年5月11日(土)10:00~12:30
場所:水戸市民会館 和室・板の間
参加者:10人

民主主義同好会第1回MTGは5/11@水戸市民会館!|民主主義同好会 (note.com)

普段の言葉で民主主義について語るということ

 会では時間無制限の自己紹介から始めたということもあり、「民主主義」という共通項から導かれたさまざまな個人的な体験が語られました。
政治に参加しているという手応えの薄さ。行政と市民活動とのつながりを探る日々の試行錯誤。家族や親類の政治活動の記憶と自身への影響。福祉の現場で働く中で感じた、介護する人・される人の在り方や見られ方。パレスチナの事態に対して何かしたいと思って集まりを作ったけれど、具体的な活動内容は模索中……
 みなさんからは「民主主義」の現状への違和感や疑問がそれぞれ表明されつつも、そこに留まるのではなく、「なぜ自分がそういうふうに思うようになったのだろうか」を思索するような言葉が語られたことがとても印象的でした。そこには、家族や仕事を含めた自身の生い立ちの話もあれば、他の参加者の語りに触れながら引き出される話もありました。また、その過程で政治的な立場や既存政党について言及される場面もありましたが、それらはあくまでパーソナルな言葉として自然に語られるもので、それが、お互いに真摯に耳を傾け、また学びあう場という雰囲気につながっていたと思います。 
 党派対立的な熱い語りではなく、かといって政治の話を腫物に触るように扱うものでもない、普段の個人的な生活や思索をベースとした「政治」あるいは「民主主義」の語りを共有する場を作りたい、そしてそこからそれぞれにとって手応えのある実践の芽を見つけたい。そういう思いでこの会を開きましたが、今回参加いただいたメンバーのみなさんがその趣旨を深く理解してくださっていると感じました。また、「同好会」という名前や、チラシに書いた「楽しくマジメに」という言葉から、この会がつくりたい雰囲気を感じ取ってくれた参加者の方もいたようで、それは企画者としては嬉しいことです。
 また、他の地域で同じように民主主義を集団で考える場を企画している参加者もいました。そうした他地域の活動とのつながりも、今後探っていきたいと思っています。

第1回ミーティングの様子 車座でわいわいと

スイスと日本の「住民投票」

 さて、今回は第1回ということで、発起人のひとりである掛貝祐太さんが、専門の財政民主主義やスイスの政治の観点から話題提供をしました。スイスでは国政に関わるさまざまなことが国民投票にかけられます(たとえば「牛の角を切らない農家への補助金について」とか!)。年間に何度も国民投票の機会があり、当然その結果が政策に反映されます。
 一方、日本はどうでしょうか。国会議員を選ぶ選挙や最高裁判事の信任投票以外で、憲法で国民レベルの投票が定められているのは、憲法改正に関する投票ぐらいでしょうか。一方自治体では、一定の署名を集めることで、条例の制定など関する住民投票を直接請求することができます。ただし請求があっても、議会で「投票の必要なし」という議決がなされれば、投票は行われません。あるいは投票が行われることになっても、その結果を条例に反映させる法的義務はありません。
 すると、戦後日本ではこれまでどのぐらいの数の住民投票の請求があり、そのうち実際の投票に至ったのはどのぐらいだろうか…ということが気になってきます。会の参加者からそんな疑問が出てくると、実際に住民投票請求に関わったことがあるという方が、「合併問題以外の重要争点をテーマとした投票では6%台ぐらい」というデータを紹介してくれました。かなり少ないんですね。
 住民投票への向き合い方や実態―「慣習」というワードも出てきました—に対するこのスイスと日本の違いはどこから生まれるのでしょうか。会の中でもいろんな意見が出てきました。

民主主義をめぐる歴史と物語

 住民投票の扱われ方の違いの背景として、ある参加者からは、国民参加という民主主義の実践に対する、日本の社会の経験の薄さ、短さを指摘する意見がありました。たとえばオランダの市民社会の活性化の背景には、みんなで干拓をしてきたという集団的な記憶がある、ということはよく言われます。一方、日本にもそうした過去はある、という指摘もありました。その方によれば、江戸時代の地域の史料からは、その地域や藩の大事な政策について、住民たちが話し合っていたことがわかるのだそうです。
 しかしながら、今を生きる人たちの中で、干拓の歴史や江戸時代の歴史を、自身が直接的に関わったこととして記憶している人はいないはずです。その点では、民主主義に至るそれぞれの社会の歴史の話は、結局のところ「物語」に過ぎないのではないか、という意見もありました。だとすれば、それはどういう物語を共有、継承していくのかという点で、政治や教育の問題ということになります。
 やはり参加者のひとりが、文部省が1948年に出した「民主主義」という教科書を、改めて読んだという話をしてくれました。この本からは、国民が主役となる新しい民主主義をつくるんだという高揚感が伝わるといいます。他方で、戦後日本における「民主主義」とは、「先の戦争はもう起こさない」という、反省とカウンターの言葉だけで語られてきたものであり、「何をどうするのか」「どんな社会をつくるのか」という未来へ向けた言葉で語られてこなかった、という声も。民主主義をめぐる歴史と物語、教育も、そのうち深めてみたいテーマです。

「話し合う」場を作りたい

 ものごとの決定というと多数決を思い浮かべますが、一方でそれは少数の意見を取り下げるという点が批判されます。
 ある参加者の方は、自身が関わっているテーマコミュニティでは、数十年前に、コミュニティの運営に関しては多数決をやめ、全員が納得するまで話し合うということを決めたそうです。ところがそのうち、誰も意見を言わなくなってしまったとのこと。「とことん話し合う」ことの疲労がたまってしまったのかもしれません。
 また、自治会のことも話題に。「あの人にはちゃんと事前に話しておけ」という面倒な根回しや、上意下達的な文化がまだまだあるとのこと。他方でその地域に長く住むベテランの人たちの中には、若いときにコミュニティを立ち上げ、育ててきたという自負をもっている方もいるはずで、じっくり話し合ってみると、実は若いメンバーと同じ方向を見ているということもあるのでは、という意見もありました。
 一方、今回の最若手となった現役学生の参加者は、最近、パレスチナ情勢に対して何かできないかと考え、同じように課題意識をもつ仲間たちと団体を立ち上げたといいます。普段、大学で政治や社会の話をすることはあまりないと言い、また「右」や「左」と言われてもピンと来ないとも言いますが、その団体ではまずは政治のことなどについてみんなで「話し合う」場を作っていきたいとのこと。そもそも「話し合う」場の作り方を学びたいということもあって、この会に参加したとも話してくれました。
 民主主義の歴史と記憶という話を書きましたが、たとえば戦争や災害に対する補償、賠償という具体な施策のフェーズにあたって、その戦争や災害の前から存在した組織的な利害の構造が絡むと、それらの物語によって政治的対立が強化され、「話し合い」が難しくなるという指摘を、ある方が地方で政治に関わった自身の経験を踏まえて語ってくれました。その意味では、「『右』や『左』と言われてもピンと来ない」という人たちこそが拓くことができる「話し合い」のカルチャーと実践に、つい期待を寄せてしまいます。

ケアと民主主義

 それから、参加者の中には、福祉の現場に携わっていたという方が何人かいたため、ケアの現場と社会の関係も話題として挙がりました。
 福祉現場での施設職員から利用者への暴力が時折ニュースになりますが、現場で働いた経験のある方は、利用者とのやりとりにいら立つのは日常のことであり、その延長線上で、自分自身もいつか同じように暴力をはたらいてしまうのではないかという感覚がある、ということを吐露してくれました。そしてその吐露に呼応するように、福祉の仕事が「エッセンシャルワーク」などと言われ、あるいは聖職のように捉えられ、そこでは「我慢」が当然のものとして強いられている面があるという声もありました。
 実はこの「民主主義同好会」の出発点として、高度にプロフェッショナル化する政治だけではなく、多様な個人同士の個別的な関係性の中から立ち現れるような協働やそれを基盤とした政治もあるのではないか、という関心がありました。その意味では、ケアと政治参加というのは、とても興味深いテーマです。人びとの「いろんなことを自分ゴト化すると面倒くさくなってくる」という心を指摘する声もありましたが、「個人的なことはすべて政治的なこと」というフェミニスト運動の有名なスローガンにあるように、ケアと政治参加の関係を深めることが、新しい民主主義の実践を導いてくれるかもしれません。このことは今回の会ではあまり深掘りできなかったので、今後はさらにいろんな方に参加いただきながら、じっくり話をしてみたいです。

 初めての会でしたが、参加いただいたみなさん、いかがでしょうか。一方で、「今回は予定が合わなかったけれど次回は出たい!」という声もたくさんいただき、本当にありがたい限りです。今回の話を発起人の中で振り返りながら、今後のテーマや実践についてさっそく検討していきます。次回の予定が決まったらまたお知らせします!

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