見出し画像

実家の匂い

風が吹いた。その風はどことなく懐かしい香りを孕んでいた。
私は今日久方ぶりに実家に帰ってきた。最後に顔を出したのはもう6年も前のことだろうか。
前回の帰省は両親と共に食卓を囲み他愛もない話をして実家を後にした。最後に見たときに比べ遥かに老衰している両親を見ると心がチクりと痛んだのを覚えている。両親は少し寂しそうな表情で
「頑張るんだよ」
と私を送り出した。頑張って生きてほしいのは両親のほうだというのに。これが私が最後に見た両親の姿だった。
葬儀の準備のために実家に帰るとそこにはいつも嗅いでいた柔軟剤の匂いが漂っていて、私の頬を一筋の涙が伝った。

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?