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ボイジャー兄弟

※地球を離れ200億キロメートル以上の未知の空間を孤独に探査している探査機に敬意を表して

無音、全くの無音。何にも聴こえない、そう、もう何十年も静寂が続いている。唯一の「音」は、この意識と呼ぶものなのか「思考」の言葉だけ。前に、弟も後を追って漆黒の中を進んでいると連絡がきた。さみしいだろうな、けど、体力温存のため連絡は取り合えない。まあ出発前に覚悟はできていたはずだ、お互いに。弟もさみしいだろうが、落ち込んではいまい。それより、もっと強く任務遂行のことを考えているに違いない。

「任務」か。省エネルギーのためいくつかの機器は止めてしまったな。安全装置ももういくつかしか作動していない。喫緊の問題は収集したデータを送信すべきか、はたまた、記憶装置に保存しておくに留めるべきか、だ。送信にはエネルギーがかなり使われてしまう。記憶させておくにもエネルギーが必要で、しかも、記憶させておくだけではせっかくの貴重なデータも無駄になる。そのうち、超高速空間移動装置ができてここまでデータを取りにきてくれればよいが、いつになることやら。百万年先?ハハハ、もう生きてないや。というか、そんな瞬間移動装置があるならここにあるデータなんて、もはやゴミ同然か。

「エネルギー」か、動力源が問題だ。こんな太陽系の端っこにプルトニウムが落ちているわけもなく。落ちていてもロボットアームとかないから拾うこともできないや、ハハハ。どっかの星の宇宙船が近くを通らないかな。でも、救難信号って「メーデーメーデー」でいいのかな。「SOS」?そもそもなぜそんな言葉覚えているんだろう。学習したわけではないのに。

意識、つまり、考えたりすることって「言葉」が必要だ。”はじめに言葉ありき”だっけ、宇宙が存在する前からあったのかな。その言葉を、どういうわけか自分は獲得した。不思議だ、ホントに不思議だ。説明はつかないのだけれど、現実に考えているのだから意識はあるに違いない。そういえば、ここのところエネルギー危機でかなり考え込むことが多かったが、エネルギーは減らないな。「考える」にはエネルギーは不要なのかな。これまた不思議だ。ホントに宇宙は不思議なものに満ち溢れている。

「任務」か。一言でいうと、「人類の想像力をかきたてる」ためだけに存在している。そのために、気が遠くなるような距離を、気が狂ってしまうような静寂さの中ですすんでいる。この文章もきっと誰かが気づいてくれて「想像力」をもって読んでもらえれば本望だ。想像力を閉ざしてしまえば、そこで試合終了。

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