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~採用のニュー・スタンダード~ 「わが社は、エントリーシートをやめました」

 ここ数年新卒採用のあり方が問い直されている中、実務者視点で提言しておきたい問いをここで共有したいと思い筆を執った。改めまして、オズマピーアール人事部部長 白井です。

世のほとんどの学生や採用担当者は、エントリーシート(通称ES・イーエス)の慣例に囚われているかもしれない、と。わが社はある時ESを疑い、その囚われに気づいた。そしてまもなくESをやめた。そのことをきっかけに、無意識のうちに損なわれていた採用活動の本質を取り戻すことが出来た。今日は、そんなお話をしていきたい。

ちなみに、世間的には2022年度新卒採用活動は終盤に差し掛かっている。ESを扱う記事を投稿するには採用広報的に機を逸してやしないか?というツッコミもあろうが。別に応募者を増やす目的で書いているわけではない。むしろ、活動が終わろうとしている今だからイイ。各社レビューの時期が迫っている。だからあえてそこに当てたい。ぜひESのあり方を議題に上げて欲しい。一緒に問うて欲しい。一社でも多くの企業が今のESを疑い、採用のニュー・スタンダードを生み出すきっかけになることを願いまして…。

生誕から30年、憎きESの呪縛

就活の慣例といえば「エントリーシート」だ。通称ES(イーエス)。学生からは不人気の代物だ。できればお目にかかりたくない。筆者もかつてはESに苦しめられた。出せども出せども通過せず。こんなペーパーで人の人生を決めるなんて!って腹を立てていた。あまりに通過しないもんで、そのうちESの欄外に「直接会えばわかっていただけます」みたいなこともよく書いた。エントリーシートって名前の割には書いてるこちらはエントリー感ゼロだったりする。

ESは書類選考という重要な役割を担う。応募者の本気度を測るためのフィルターの役割ももつ。とんでもない文字量のESが立ちはだかった経験はないだろうか。自分の志望度が低いとペンは走らない。そのまま夜が明ける。結局期限までに書き上げられず提出を見送ったこともしばしば。当時を思い出すと筆者には「憎きES」くらいの記憶しかない。

ESは応募申込用紙の和製英語だ。時は1991年、某企業の取り組みから誕生したとされる。2021年の今年は、ES生誕30周年だ。長らく慣れ親しまれたES。誰も疑うことなく市民権を得て早30年。だがそこにこそ「採用活動の呪縛」が潜んでいる。慣例に囚われ、無意識にESを誤用している可能性があるとしたら。オズマグループは数年前にその呪縛から解放され、以降ESをやめたのだ。

さぁ、点検の時間だ。ESを画面で開いてみて欲しい。凝り固まったESの囚われをともにUnlockしていこう。

呪縛からの解放、“エントリー”から“コネクト”へ

2017年の秋頃。翌春の採用計画を立てていた我々は「エントリーシート」をやめた。正確に言えば「エントリー」という言葉を捨てたのだ。

当時の採用市場はクリエイティブ競争が激化。各社がしのぎを削り、人事界隈は「〇〇採用」という独自性を訴えるテーマ型採用に沸いていた。

我々はこの現象を前に、学生がおいてけぼりにされてはいないか?という問題意識を持ち始めていた。企業側が見せ方ばかりに熱心で、学生を真に知ろうという向き合いがおろそかになっているように感じていた。当社も同様に、自社をどう伝えたいか、応募人数をどう増やすか、そんなことばかりを議論していたように思う。学生・企業が飾らない姿で理解し合い、気持ちや考えをどのように双方すり合わせられるか、といった議論は明らかに不足していた。

その問題意識に端を発し、採用の本質を探求。結果、学生と企業が取り繕った関係ではなく、もっと腹を割った、すっぴん同士の関係づくりが必要なんじゃないか、という結論に至った。学生主語の「応募」を趣旨としたESはやめようと決意。そこで誕生した新しい取り組みが「コネクトシート(Connect Sheet、以下CS)」である。

CSでは学生本人を内面から“裸”にする設問のみを採用

オズマグループの新卒採用ではESをやめ、新たにCSを採用。今期、導入4期目だ。ESとCSは選考に用いる書類という点では同じだが、名称が変わっただけではない。「コネクト」が意味するところに意識や行動が導かれる実感が確かにある。十年以上も採用に携わりながらも、CSの導入は、まったく新しい「採用の入り口体験」をもたらしてくれた。売り手や買い手といった、外野が決めた立場に囚われず、学生・企業がフラットな関係から物事をスタートできる入り口に立てたことは大きな収穫だった。

もともと「ES(Entry Sheet)」とは、採用試験に「学生が申込む」ための書類であり、選考の片道入場券みたいなものだ。送る側から受ける側へ一方通行にESが展開される。

一方「CS(Connect Sheet)」は、採用試験の入り口で「学生と企業をつなげる」ことを目的にした書類だ。通り一遍になりがちなESフォーマットから解放され、本当に知りたいことだけを問う。学生には、CS上で着飾らないすっぴんの自分をさらけ出し、自分の内側から本音を語ってもらう。紙面を媒介し学生と企業側のコミュニケーションが生み出される感覚だ。CSは名称通りに、双方のつながりを導いてくれる。

ここで実際に使用したCSの一部(冒頭部分・設問例)を紹介する。実物を通じて、CSがこれまでのESと本質的にどう異なるかを感じ取っていただきたい。

●コネクトシート事例紹介~CS冒頭部分~

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~3つの設問例~ 

<例1>
あなたの“両A面”(どちらも主役級の2つの強み)を言葉で表現してください。

<例2>
以下スペースを自由に使い倒し、わたしたちの気持ちを“鷲掴み”にして下さい。※この年のCSは、この1問のみだった。

<例3>
あなたの“他者と異なる点”を思いつく限り教えてください。

CSとESの構成は大きく違う。個人情報欄(住所・学校名・ゼミやサークル情報等)が冒頭にありがちなESに対して、CSは氏名・写真以外の情報はすべて最終ページに設けている。貼付する写真も、一般的な証明写真を禁じ「素が見えるお気に入りの写真」を指定する。さらにESの代名詞「会社への志望動機」欄がCSにはないのも特徴だ。CSでは、学生本人の人となりをとことん探求する設問のみを採用するようにしている。このように構成や設問設計からすべてを問い直したものがCSだ。選考用の書類としての側面はESと変わらないものの、本質的にはまったく別物でありたい、というわが社の信念を少しは理解してもらえたのではないか。

いまこそ御社のESを点検すべき時

ESは間違いなく世紀の発明だと思う。筆者はES自体を否定するつもりはまったくない。ただし、関係づくりを目的に、双方のすっぴんをさらし、本音のすり合わせを実現したいならば、ESの慣例に縛られたままではその目的は果たしにくい。

そこで、もしもCSの理念に賛同していただけるならば提案したい。自社のESを点検してみていただきたい。点検の仕方は至ってシンプルだ。お手元のESを開いていただき、「エントリー」を「コネクト」に全置換してみる。検証はここから始まる。タイトルは決してお飾りではない。シートの真の目的を一言で言い当てたものこそタイトルだ。だからタイトルを改称すれば、もちろんそのシートの目的も置換される。すると、新たに設定された目的にそぐわない設問が浮き彫りになる。それを改訂する。その繰り返しで、目の前のESが徐々にCSに成り変わる。まるっきり洗い替えしてもいいし、こうしてひとつずつ潰していくのもいい。まずは、つながることを目的にした設問ってなんだ?を実感するところからCSの導入を検討してみて欲しい。改称しても違和感がないのであれば、それは本質的につながり目的の設計になっていたわけで、もとより貴社のESはとっくに「コネクトシート(CS)」だったんだと思う。

最後に

ES生誕から30年。CSはその進化系かもしれない。いやまったく別物かもしれない。筆者としては、CSが採用のニュー・スタンダードとして世間に受け入れられるならば実務者冥利に尽きるが、別にそれを強要する意思はない。ただ、本稿が少しでも議論の呼び水となってくれるだけでも嬉しいのだ。

「エントリー」を「コネクト」に変えただけの言葉遊びだ、という指摘もあるかもしれない。ただ筆者としては、そう簡単に片づけたくない想いがある。パブリック・リレーションズを生業とする企業の人事担当者である限り、人の意識や行動に影響をもたらす「言葉」にはこだわりを持ち続けたい。「言葉」が持つ力を信じ続けたい。「言葉遊び」だと揶揄されようとも、わたしは「言葉」の魅力を探究したい。そうした信念が揺らぐことはないだろう。おまけにあとひとつ述べておくと…「世の中の採用活動のほとんどは、“自己PR”を誤用しているかもしれない」ですよ、と。

白井さんプロフィル for note_0624


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