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Speech と Languageの障害


言語聴覚士(ST)が支援するコミュニケーションの障害の原因は,「ことば」と「きこえ」の機能不全です.
この言語聴覚機能の不全を私たちSTは,スピーチ(speech)とランゲイジ(language)の2つに分けて考えます.それは,この2つの問題の性質と,支援・リハビリテーションの仕方が異なるからです.

ある人に speech の問題があるようだ,というときには,発声や発音(構音)を生み出す身体の部位がうまく機能していない場合です.ですので,speechの問題のことを,「話しことばの障害」「発声発語障害」といいます.

また,ある人に language の問題があるというときは,脳の病気(脳梗塞,脳出血,脳外傷など)や発達の遅れが原因で,相手の言葉は聞こえているのに,内容を理解することが難しかったり(言語理解の問題),自分が伝えたいことがスムーズに表現(言語記号化)できない場合をいいます(言語表出の問題).
具体的には,失語症や,小児の言語発達遅滞がこれに当たります.languageの問題は,「言語障害」「内言語の障害」と呼ばれます(*1).

このように,speech と language という用語は,私たちが考えや気持ちをことばにして話したり,聞いて理解するまでの段階(プロセス)の違いに対応しており,学校の部活動でいえば,運動部と文化部にたとえることができます.

speechは,発声や発音ですので,のど,舌などにある筋肉が動くことで生み出されます.ですから一言で,”ことば” といっても,実際には,「運動(発話運動の企画/実行過程)」のことを指しています.

languageは脳内の活動に終始するもので,筋肉の動きのように,外からその働きは見えませんが,もちろん活発に活動しています.
コミュニケーションは,言語,非言語(表情,ジェスチャでの表現)を問わず,必ず運動部と文化部のコラボレーションによって行われます.

アメリカの言語聴覚士の団体は, American Speech-Language-Hearing Association (ASHA) といいますし,日本言語聴覚士協会の英語名もそれに倣っています(Japanese Association of  Speech-Language-Hearing Therapists).
STがこの2つの用語を使い分け,対象者の理解と支援に役立てていることがわかります(話し言葉の ”知覚” (受信) に困難を示す聴覚障害も,大別すると speech の障害に分類できますが,一般に,言語聴覚障害はspeech, languageおよび hearingの3つに分けて捉えられています). 

先日,言語聴覚士養成コースの2年生の授業後に,speechとlanguageの違いがあいまいだったが,今日の授業で理解できましたという感想がありましたので,ここで改めて解説しました.

*1 ただ,英語では,spoken languageという表現(辞書的には,話しことば,音声言語と訳される)もあり,少し複雑です.これは,STが考える “speech” に近い意味合いと捉えることもできるかもしれません.
しかし,spoken language は written languageとの対比で,話しことば(音声言語) vs 書きことば(文字言語)を明確に区別するときなどに用いられ,失語症の検査で調べるような,もう少し広い意味での(つまり,language=内言語の問題を主体とした),ことばの「話す」「聞く」という側面および「読む」「書く」という側面を指す表現と考えられます.
                        (了)


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