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父が泣いた姿を、私は25年間見たことがない

“不要・不急の外出を控えてください”

その言葉を守っていたら、実家に1年以上帰っていないことに気づく。

「年末年始くらい帰ってきたらどうか」
「コロナの検査をして陰性だったら帰ってきたらどうか」

そんな何度か連絡が来ていた両親の言葉に
そっぽを向いて

「落ち着いたら、会おう」
「お姉ちゃんも妹も地元にいるから、寂しくないよ」
「誰かに迷惑をかけられないからさ」



そんな言葉を返していた。

本当にそう思っていた。
本当に。


実家へかえるというのは
父も母も当たり前に歳を重ねていて
(なんて言ったら怒られそうだけれども笑)
どこかに旅行に行くのとは気持ちが違った。


個別LINE攻撃は続いて、ついには実家にいる妹から、
「車で迎えにいくから帰ってきなよ」
と連絡がきた。

両親がそこまでしてどうして私に会いたいと思ってくれているのか分からなかった。しかしなんだか、妹とは大学時代に(とても仲良く)2人暮らしをしていたこともあって
「会いたいな」
とそんなことを素直に、ぼんやり思う。


電話が鳴って素っ気なく「迎えに行くから」
父のその言葉で、地元へ帰る決心をした。


車で往復5時間。


厳格な父と、ほとんど電話もLINEもしないため
往復5時間、私にとっては少し悩んでしまうものでもあった。


何度も自分に言い訳をしたけれども両親に
「申し訳ない」「迷惑をかけたくない」
という気持ちもあったし
本当のことを言えば
“検査が陰性”
“車での移動(つまり誰とも接触しない)”
という2つの保険があったとしても
心のどこかが不安だった。

でもここまで気持ちが揺らいでいたのは
「大丈夫」だと思って欲しかった強がりなのかもしれない。


政府が出している様々な情報を自分でもかき集めたが、
目に見えない、というのは本当に未知だ。


前日まで「やっぱり行かない方がいいのかな」
なんて思っていた。


実家へ帰る1週間前にも検査をして、陰性。
父が迎えに来る、前日の夜にもう一度検査をして、

陰性。

「陰性だったよ」
と送ったら深夜にも関わらずお母さんから
猫のスタンプが返ってきた。


早朝、2020年最後の日に迎えにきてくれた父の顔をみて
少し泣きそうになった。


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冬の空気は、好きだ。

寒くて、張り詰めていて、
でもそこに流れる温かさに気づきやすいから。

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年があけた。

代わり映えしない日常を過ごし

新年、東京へ帰る車の中、父と2人
私は眠ってしまった。


「元気で」とそっけない父の車が
青信号で動き出して見えなくなるまで
ずっと見ていた。



次の日、母からLINEが来た。


ゆきが家に来て良かった!
色々心配だったと思うけど、お父さんがすごく喜んでたよ!
送った後、悲しくて泣いてたよ
恥ずかしいから、内緒だよ


私と会った時は全然嬉しそうじゃなかった。


最後だってあんなにそっけなかったよ。


そんな心の中で言い訳をしながら

帰れてよかった、会えてよかったよ

とLINEを返した。

妹やお姉ちゃんがいるから、じゃなくみんなに居てほしいんだよ

そう言ってくれる母は、いつだって優しい。



次、いつ家族と会えるかは分からない。


何も気にせず、みんなで集まって、大笑いして
次は、もう少ししっかり者の私も両親に見せてあげたい。
それに
どこかいこう、なんて我儘も言いいたいよ。


25年間、私はまだ父の涙を見たことがない。(たぶん)

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