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小説「光の物語」第57話 〜出奔 5〜

「まあ、マティアス様・・・」
ベーレンス夫人の部屋の前で、アルメリーアと女官たちはマティアスにばったり出会った。


「何かありましたの?ベーレンス夫人にご用が・・・?」
ナターリエの身に何かあったのだろうか。アルメリーアの鼓動は早くなる。
「ええ。殿下から伝言を仰せつかりまして」
その時、部屋の中から大きな物音と、小さな叫び声が聞こえた。


マティアスがドアを開けると、中ではお茶の盆を投げつけられたらしい小間使いが倒れている。
そして、その前にはわなわなと震えるベーレンス夫人がいた。

「あの人でなし・・・」
手には何か手紙のようなものを握りしめている。
「やると思っていたわ。ええ、あの男ならやりそうなことよ・・・」
怒りに震えながら呟き続ける。
「私のせいではないわ。息子でなく娘なのが私のせいだというの。持参金の未払いが私のせいだというの!」
夫人は倒れている小間使いに掴みかかろうとし、マティアスは二人の間に割って入った。
「ベーレンス夫人!」
マティアスの声に夫人ははっと正気に戻る。

「無体な真似はおよしなさい。かわいそうに・・・」
小さくすすり泣く小間使いは女官たちに助けおこされた。
「一体どうなされた」
とは聞くものの、状況を思えばおおよその察しはついた。

「は・・・いえ、あの・・・」
夫人は自分の部屋に王子妃とマティアスがいることに戸惑っているようだ。
息も荒く、目つきもうつろになっている。
「家から・・・悪い知らせが・・・」
そう言うなり、ふらふらと倒れ込んでしまった。
「しっかりなさい・・・誰か、侍医を呼んでくれ」
夫人を支えながらマティアスは女官に声をかけた。


出奔 6へつづく


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