優しい嘘


知らない映画が流れているテレビ 
隣には知らない男の子
きっといつもと同じ流れだ、嘘の求め合いなんて虚しくなるだけだから嫌いなのに。
でも私は嘘をつく。
こんな出会い方でただ側にいてくれるなんてある訳なかったとまた今日も絶望するのだ。

流れる映画が終わりに向かっている。
電気をつけたまま誰かの家で映画を見たのは初めてだった。
「人の名前覚えられないんだよね」
それくらいが丁度いいんじゃない、なんて適当な返事をした会話を思い出す。
「ねえ、名前聞いてもいい?」 
そう聞いて教えてくれた名前には私と同じ漢字が入っていた。
漢字が一緒だと覚えやすいね、と優しい嘘をついてくれた男の子を少し愛おしく感じる。

エンドロールが流れるテレビ
1回見たんだと言っていた映画を一緒に見てくれた男の子は寝息を立てていた。
私達の距離は近いのに遠くに感じるこの居心地の良さ。
初めて、私は嘘をつかなかった。
起こさないようにそっと電気とテレビを消す。
私に好意を向けなくていい、詮索もしなくていい、ただ側にいてほしかった私の心は満たされていた。
「名前もう忘れたでしょ?」
不意に目覚めて寝ぼけている彼に問いかける。
ん〜、と笑う彼に不思議と嫌な気持ちは起こらなかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?