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自分に合った業界を探す?_サーチファンド活動日誌⑤

はじめに

2021年5月に脱サラして事業承継先のサーチ活動を始めました。この連載では「サーチファンドって何?」という方から、これからサーチ活動を始めようとお考えの方まで、私の実体験を通して参考になりそうな情報をお届けしたいと思います。

「良い業界にある良い企業」という幻想

まず私が大前提としている考え方をお伝えしたいと思います。

候補企業を絞るプロセスは何かを諦めるプロセスであり、どれを諦めるかという優先順位の付け方がポイントです。加えて売り手のM&Aに対するスタンス(売却意向の強弱や売りたいタイミング)という要因によっても左右されますので一筋縄では行きません。

今回は下図のステージ1の「D:ショートリストから1社に絞る」の前編です。ターゲットとする業界の絞り込みから入りました。㈱サーチファンド・ジャパン(SFJ)のキックオフが終わった2020年11月上旬のことです。

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過去の経歴から得意な業界をみつけよう?

まず過去に勤めた会社から敷衍化・汎用化できる業界は何だろうかと考えました。これまでの経歴は以下の通りです。

①広告代理店
  - 法人営業
  - マーケティング・リサーチ
②機械部品の専門商社
  - 金型部品の商品開発
  - 海外現地法人での駐在(インド、東南アジア)
③企業再生コンサルティング
  - 食品卸売業
  - 外食チェーン
  - 運送業
  - その他

ここから候補企業の業界を考えてみます。

まず①広告代理店を営む中小企業が候補として挙がることもありますが数は多くはありません。法人営業という当時の職種は、大手クライアントの御用聞きのような役割でしたし、新卒入社後2年ほどやっただけで十分なスキルにはなりませんでした。またマーケティング・リサーチは職人的なスキルなので経営にそのまま敷衍できるものではありません(商品の開発・改良には役立ちそうですが)。

ビジネスパーソンとして本格的にキャリアを開始したいのは次の②機械部品商社からでした。金型メーカーに対して金型に組み込む部品(エジェクタピンやガイドブシュなど)を販売している会社です。経営の技法の洗練に特化した素晴らしい会社でした。

しかしこの商社と同じことをしているドンピシャ企業は日本で2~3社です。その下流に地位する金型メーカー(商社にとってのお客様)は多くの中小企業がありますが、同じ金型でも上流と下流でポジションが1つ異なるだけで、商品もお客様もまったく別物になります。金型部品のことは分かっても金型そのもののことは分かりません。

一方で海外現地法人での駐在(インド、東南アジア)の経験は業界が違っても役に立つ可能性が高いと思います。現地の商習慣の知識に加え、日本以外で仕事の実体験が海外展開が進んだ日本でも依然として希少価値があります。しかし今回は日本国内での事業承継なので、海外展開している企業を対象にする場合以外はあまり役立ちそうにありません。

最も汎用性がありそうなのが③企業再生コンサルティングです。特に食品卸売業・外食チェーン・運送業の3業界は役員として常駐支援を通して業界知識はありますのでこの業界の事業承継を探すというのはアリだと思いました。ちなみに5年勤務で3業界(3社)というのはコンサルでは圧倒的に少ない方です。常駐支援でのターンアラウンドは1件あたり2~3年を要するため、こなせる企業数が少なくなるのです。

とは言いながら、企業再生は社内を一気呵成に変革する方法を取りますので、伝統ある企業の事業承継にそのまま転用は出来ないと思います。

以前、日本人材機構の社長をしていた小城武彦さんの講演で聞いた話ですが、都市圏のサラリーマンが脱サラして地方に移住して事業承継した際、最初から飛ばし過ぎて社内の掌握に失敗したケースが複数あったそうです。「シャカリキになるのは分かりますが、いきなり剛速球は投げないでください」と仰っていました。

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業界で絞る難しさ=サーチャーの永遠の悩み

約20年という短くない時間で経験した3社を振り返ってみて、サーチャーCEOとして役立ちそうな業界が極めて限られているのを知り落胆しました

これを幅広に増やしたいなら、企業再生の仕事を続けるか転職するかですが、それはサーチファンドにトライするタイミングが遅れることを意味します(無暗な転職は履歴書を「汚す」ことにもつながりますし)。

自分の経験がドンピシャでハマる業界・企業を探したが見つからないという状況は私以外のサーチャーからもきく話です。20年のサラリーマン経験が、仮に30年になったとしても、経験できる業界が限られるという点ではあまり変わらないのではないかと思います(その間に職を転々とすれば別ですが)。

サーチャーが「事業承継するのに自分に合った業界は何か」を一度じっくり考えることは価値があるとは思います。しかし最初から絞り過ぎたり考え過ぎたりするよりも、個々の企業の財務状況や強み・弱みを見定めて、その後に自分の過去のスキルがいきるだろうか、という順番で考えた方が現実的です。

米国でも分かれる業界を絞ることの良し悪し

1980年代からサーチファンドの試行錯誤を続けている米国においても一定の選定基準のようなものがまとめられています。

スタンフォードGSBの「サーチファンド入門」から、市場として望ましいとされている条件を列記してみます。

①細分化されている(Fragmented industry)
②成長している(Growing industry)
③競合の売上と数を把握できる(Sizable industry—both revenues and number of companies)
④オペレーションがシンプルである(Straightforward industry operations)
⑤ライフサイクルの初期段階にある(Relatively early in industry life cycle)
⑥お手頃サイズの企業が多い(High number of companies in target size range)
⑦安定して高収益、目安はROTC20%以上(Healthy and sustainable profit margins (ROTC >20%)) (※ROTC:「修正ROE」、ROEの分母=株主資本からのれんや無形資産価値などを引いた数字で利益を割ったもの)

如何でしょう。

こんな理想的な業界が本当にあればすぐにでも買収提案するんだけれどな、、、というような好条件ですが、現実的には、これらすべて満たしている業界はめったにないといって良いと思います。仮にあったとしてもその業界で事業承継先を探している候補企業に出会う確率は高くはないのではないでしょうか。

「サーチファンド入門」の中でも、これらの基準が「絶対ではない」「すべて満たしているビジネスはない」「成功しているサーチファンドの投資先でもどれか1つの基準を大きく外している」と断り書きが添えられています(ならば業界選定基準のようなものを掲げる意味は薄いと思いますが)。

あえて示唆を導くとしたら、独占的なガリバーがいる業界は止めた方が良いということくらいでしょうか。

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リアリスティックなHBS

ハーバード・ビジネススクールのGuideには以下のような一説があります。

Our shopping list of the desirable features of a suitable business acquisition excludes some items that you might have expected. We did not suggest, for example, that you restrict your prospects to businesses that you are passionate about.
(意訳)私たちの買収先一覧=ショッピングリストには、一般的にはあって当たり前の項目がいくつか除外されている。例えば、自分が情熱を燃やせる事業に的を絞ることはお勧めしない。

HBSも自分のスキルや経験とのマッチの大切さは主張するものの、過度な商品・サービスへの愛着をまるで諫めるようなコメントです。

業界に関する絞りは、結局のところ自分のキャリアの限定性に足を取られてしまうように思います。また経験を大幅に逸脱して「前から一度やってみたかったんです(というだけ)」のような、未知で未経験の事業に手を出すは私自身もお勧めしません。

このように「私に合った業界」議論はいつも袋小路に入ってしまうのことが多いように思います。現実的には、ある程候財務や戦略や組織などを個別にみながら、その業界で自分のスキルは通用するだろうかという順番で考えた方が良いと思います。

ではその企業の絞り方とはどのような考え方で進めるのかを次回みてみましょう。

まとめ

■サーチファンドでは業界をどう絞るのはは先行する事例でも繰り返し議論されている論点である
■サーチャーが自分の業界経験を棚卸しすることは一度はじっくりやるべき
■得てして経験のある業界やその近隣業界に絞ると対象の幅が限定されることがある
■現実的には業界よりも個々の企業の内容を1つ1つみながら、その業界で自分のスキルは通用するだろうかという順番で考えた方が良い。

サーチ活動日誌目次

①サーチファンドとは何か
②いまの日本にサーチファンドが必要な理由
③私がサーチャーに挑戦するまでの経緯
④アクセラレータからの支援が仮決定する
⑤自分にあった業界を探す?
⑥サーチファンドにとって良い企業とは?(その1)
⑦サーチファンドにとって良い企業とは?(その2)
⑧事業仮説を練る
⑨オーナー社長と面談・交渉する
⑩市場分析/データ分析
⑪意向表明書を提出する
⑫デューデリジェンスを行う
⑬買収価額を算定する
⑭最後の交渉~譲渡契約締結
⑮経営に参画する~Day1を迎えるまで~
※目次は今後変更の可能性があります
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