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オーナー社長と面談・交渉する_サーチファンド活動日誌⑨

はじめに

2021年5月に事業承継先のサーチ活動をはじめました(当時、45歳)。「サーチファンドって何?」という方や、これから始めようという方向けに、実際の活動の様子をお届けします。また現時点では(2022年5月)事業承継を完了し、故郷・山梨県にあるミスターデイク株式会社の経営実行をスタートさせております。

小テーマについてのコラムも連載しておりますのでご覧ください。

オーナーへの面談を申し入れる

さて、今回は「F.オーナーとの面談/交渉」です。前回の「事業仮説を練る」は、オーナー面談に臨むための事前準備のような位置づけでした。準備が完了したらいよいよオーナーご本人にお会いします。

過去のカレンダーを振り返ってみると、最初のオーナー面談は2020年12月でした。その前月11月に㈱サーチファンド・ジャパンの伊藤社長らと候補企業をサーチし始めてわずか1カ月でオーナー面談まで漕ぎつけたのはとても幸先の良いスタートでした。

このペースでオーナーとお会いできるのなら、最長2年と言われるサーチ活動は早々に終えて経営実行フェーズに入れる、、、。そんな淡い期待を抱いたのもこの頃でした。それがただの楽観に過ぎなかったことは、数か月後に痛いほどよくわかるのですが、ここではさておき。

「サーチファンドって何?」~ネームクリアを取り付ける~

もともと知り合いだったオーナーから譲受する場合、つまりM&Aの仲介者を間に置かないケースは別にして、中間アドバイザーを通す場合は、最初からお互いの名前を開示せず、基本概要(ケースによりますが、業種、所在地、簡単な財務情報だけ)の遣り取りからスタートします。

まずはネームクリアを取り付けることを目指します。日本M&Aセンター社のウェブサイトにあるM&A用語集から、その定義を抜粋してみます。

ネームクリアとは、ノンネームで(企業名を伏せて)打診した譲渡対象となる企業名を買い手候補企業に開示することをいう。日本M&Aセンター方式で仲介する案件は、このネームクリアの段階で、対象企業のビジネスモデルや組織形態、財務状況等を仲介者が要約した企業概要書が買い手候補に提出されるのが特徴である。

最初にまず買い手であるこちらが自己紹介をし、売り手から「この相手なら情報開示しても良し」という承認が降りて初めて企業名が明かされるという順番です。そして、その後にアドバイザーが作成する企業概要書(「インフォメーション・メモランダム」とか略して「IM」とも呼ばれる)を見ることが出来ます。承認が降りなければここで終了です。

1年3か月のサーチ活動のなかで(サーチャー専任は2021年5月~ですが、副業で2020年10月からスタート)、お相手のオーナー経営者が「サーチファンド」という存在をあらかじめご存知だったケースは1つもありません。世間的な認知は圧倒的に足りていないのです。ネームクリアを取る最初のハードルはまずサーチファンドを知って頂くことにあります。

「投資ファンドには譲り渡したくない」「お金で会社を売り買いするような人たちの手に渡ったら何をされるか分かったものじゃない」というネガティブな印象をお持ちのオーナー経営者に対して(そういう方はかなり多い)、㈱サーチファンド・ジャパンや私自身ことを、既存のPEファンドとの違いなどをお伝えし、ご理解頂くよう努力します。

「私が人生を賭けて受け継ぎます」への反応

順番としては最初にM&Aアドバイザーさんにご説明し、その情報をアドバイザーさんからオーナー経営者様にお伝え頂き、ネームクリアを取って頂くという段取りです。M&Aアドバイザーさんやオーナー経営者様との最初のコンタクトは㈱サーチファンド・ジャパンの伊藤代表にお願いするケースがほとんどでした(サーチャーである私は不在)。

伊藤代表の誠実かつ熱のこもった説明のおかげで、最初はややネガティブだったオーナーのスタンスが「初めて聞いたけど興味深い取り組みだ、一度会ってみたい」と変化する確率がかなり高いと思いました

説明内容はセミナーで話されている「サーチファンドとは何か」「㈱サーチファンド・ジャパンの特徴とは?」といったことですが、最も反応が良いのは「誰が社長として来るのか分からない」というよくある懸念点に対し「サーチャー自身がこれまでの前職を辞めて経営者として引き継ぐ」というところのようです。

この点が既存のPEファンド及び事業会社との違いになっている点は間違いないと思います。

PEファンドの場合、ファンドがすべてを決めた後に社長を連れてくることが多く、初回面談で「この人があなたの後任社長です」と買収契約前に引き合わされることはあまりありません(オーナーが社長として残るケースは別)。

また事業会社の場合は事業承継イコール子会社化となる訳ですが、子会社の社長に誰を送り込むのかが提示されることも、まずありません。親会社内である程度アテをつけていても、新社長ご本人への内示は出ていないことが大半。中には「なんで俺が出向先に出されるの?」と、自分の身に降りかかった人事が明らかにハラ落ちしていない新社長が来るケースもあります。

その点サーチファンドは、誰がオーナーの後任者なのか最初から明白であり、かつ専任サーチャーの場合はお会いした時点で "身ぎれい" にしている(既に前職を辞めている)という点が、長所になっていると思います。

ネームクリアが取れないとき

ネームクリアが取れなかったことが一度だけありましたが、それはある事業会社傘下の子会社のカーブアウト的なケースで、「親会社がファンドへの譲渡は完全にNGという方針なので・・・」ということでした。非常に魅力的な企業でしたので残念ではありましたが、一度くらいはこういうこともあるでしょう。
このあたりは文句を言っても仕方はなく、個々のケースで理解を取りつける、もしくはサーチファンド自体の認知を高めるしかありません。いずれにせよ、これで1つ目のハードルをクリアということになります

企業概要書(IM)から情報を得る

ようやくオーナー面談の運びとなるのですが、企業概要書(インフォメーション・メモランダム)をみるときの注意点です。中身はおおよそ以下のような感じです。

■基本属性(社名、住所(本社・支店共)、代表者名、沿革、資本金等)
■売却の理由
■販売商品・サービス
■ビジネスモデル
■主要な顧客と取引先一覧
■組織と従業員(所属チーム、年齢、職種等)
■直近のPLとBS(3年くらい)
■借入金額と取引金融機関

作成する仲介会社によって細部は様々、かなりバラツキがある印象です。実績が多く一定の歴史がある仲介会社の概要書ほど中身の充実度や信頼度は増すように思います(逆もまた然り)。

財務数値がざっくりしすぎていたり、中には信用情報(帝国データバンクや東京商工リサーチで販売されているもの)をコピペしただけのものもあったりするので要注意です。それは依頼元との関係が弱く、まともな情報を持っていないことを意味します。

そのような点に注意しながら、事前情報を頭に叩き込んだ上でいざ最初の面談です。

まずは自分の事業仮説を伝える

オーナー社長あるいは創業者というのはこの道ウン十年のたたき上げ、自分の会社のことは勿論、業界の隅々まで熟知している方です。そんな方にド素人が数週間考えただけの仮説をぶつけて相手にされるだろうか、最初は不安でした。

結論を言うと、皆さん、ド素人仮説に対してとても寛容に接して下さいました。議論していく上で、ここが甘いよと指摘下さることもありましたが、それはオーナーが一緒に戦略を練ってくれるわけですから、むしろ有難い話です。

幸運なことに、すべてのオーナー面談が(全部で5回くらい)良好な雰囲気で進み、初回から「承継後にどんな経営をするか」についての有意義なディスカッションをすることが出来ました。

初回の感触が良ければ、2回目、更には3回目と進むこともありました。なかには1回お会いしただけで終了ということもありましたが、それは、事業承継についての決断が最終的についていらっしゃらないオーナー様だったように思います。

でも結局、人柄で判断される

オーナー面談に際しては、とにかく事前の仮説づくりをしっかり準備し、素人なりの成長戦略の仮説を立て、どれだけ真剣に考えているかを伝え、後継者として相応しい人物であると思ってもらうアピールをしました。

このやり方は間違ってはいなかったと今でも思っています。職務経歴やサーチファンド自体についての説明はそこそこにして(正確には、事前にファンドからの説明で終わらせておいて貰って)、本番では未来の話に焦点を当てるのが狙いでした。

というのがこちらの視点ですが、オーナー様からはどう見えていたのか。ご本人にきいてみないと確かなことは言えませんが、結局は人物や人柄を判断されていたのではないかと思います

話す内容や、表情・しぐさ、つかう言葉の端々から漏れてしまう人間性、フィーリングがマッチするかどうかなど、直観的な要素が多分にあったと思います。

人間同士ですから、人対人のケミストリーは最優先事項であり、「この人違うな」と思われてしまったら、ある意味で諦めもついたと思います。

事業譲渡の決断は長い道のり

最後にとても大事なテーマです。それは、「結局、オーナーが事業譲渡を決断するのはどのようなきっかけなのか?」ということです。

これまでの遣り取りからだと、私がオーナー様の事業承継を説得している構図にみえると思いますが、実際は違います。

すべてを見聞きした訳ではないので断定出来ませんが、創業オーナーが一人だけで譲渡を決断することは多くはないと言いますか、ほとんど無いというのが私の実感です。

当然ですが自社の社員には相談しません。というか「相談出来ない」と言った方が正しいですね。オーナーが近いうちにいなくなるということが社内に知れ渡れば不安が広がり、士気が低下する可能性が高い。

オーナーが個人的に「この人は!」と見つけてくるような場合には、その時点で後継者に譲る気持ちを固めているのがほとんどのようですが、例外的なケースなのでここでは除外します。

銀行や税理士さんに相談することもありますが、それが決断に至るケースは多くない印象です。譲渡を迷っているオーナーは、誰かに背中を押して貰わないと決断できません。しかし、ご高齢の「お客様」に向かって、以下のような言葉を投げかけられる人は少ないというのが実情でしょう。

「社長、お身内に承継者がいないのなら、ハラを括って親族以外に売却しないと、いよいよ健康問題で危なくなってからでは遅いですよ!何より社員が可哀そうじゃないですか。お客様だってお取引先だって、あなたが健康なうちにしっかりこの会社を譲渡することを望んでいるんですよ!」

普段から「社長!!」と崇め奉っている相手に向かってこのような言葉を言えるのは、直言しても嫌われないくらいの人間関係が出来ている間柄の人に限られるでしょう。

そこまでオーナー社長を追い込まなくても、、、と仰る方もいらっしゃるでしょう。私もたしかにそう思います。それに私は譲渡頂く側なので、結局は我田引水、ポジショントークでしかないかも知れませんが、それにしても事業譲渡を決断するまでの時間が長い。そろそろ譲り渡そうと思い始めて10年以上かかるケースが普通、10年経ってようやく買い手候補と交渉の席についても話が進まない、進んだとしても、あともう少しで妥結という直前で変心して頓挫。

私の印象では日本の中小企業の後継者不足という問題は、「継ぐ人がいない」だけではなく、譲渡する決断がなかなか出来ないとか、それなりにあるのだけれど先延ばしにしがちという側面も多分にあるのです。

これは日本における事業承継あるあるなのです。思い入れのある家業を他人に譲り渡すことへの心理的ハードルの高さというのは、自分で会社を育て上げた人にしか分かりません。おカネの多寡や説得等では容易には解決できないと思います。

これからサーチ活動を始めるサーチャーは、そもそもそういうものだという前提の上で活動をスタートされることをおすすめします。

結局、オーナーの背中を押すのは誰か

私は、ファンド兼アクセラレータの支援を受けているので、そのバイアスが強く入っているという前提でお伝えしたいのですが、サーチャーが素手でオーナーご本人を説得するのは相当ハードルが高い

その役割を果たしてくれるのはM&A仲介のアドバイザーだったりします。私のケースに限れば、M&Aアドバイザーの支援無かりせば事業承継は実現できなかったと断言できます。

利益相反(コンフリクト)問題が指摘され、非常に競争が激しいとも言われるM&A仲介業ですが、譲渡を決めあぐねているオーナー社長に、例えそれが商売だからとはいえ、強く説得できる人は他には殆どいません。その点で、非常に貴重な存在であると思います。

繰り返しますが、オーナー個人と昔ながらの関係にある人が譲渡を直言するというのは非常に難しい。それは、オーナーに向かって「オーナーから降りて下さい」と言うに等しい行為であり(言葉でどう伝えるかは別にして)、多くが当たり障りの良い言葉で濁すだけ、結局オーナーは孤独に悩み続けるか、決断を先延ばしにして年齢を重ねるのがオチ。

ということで、サーチャーは信頼できるM&Aアドバイザーとの関係を密にし、譲渡企業について頻繁に照会し、ここぞと思った企業との面談・交渉するときは、その仲介者さんにしっかりと働いてもらうことが欠かせないというのが私の考えです。

次回はまた間隔があくかも知れませんが、続きます。

サーチ活動日誌目次

①サーチファンドとは何か
②いまの日本にサーチファンドが必要な理由
③私がサーチャーに挑戦するまでの経緯
④アクセラレータからの支援が仮決定する
⑤自分にあった業界を探す?
⑥サーチファンドにとって良い企業とは?(その1)
⑦サーチファンドにとって良い企業とは?(その2)
⑧事業仮説を練る
⑨オーナー社長と面談・交渉する
⑩市場分析/データ分析をする
⑪意向表明書を提出する
⑫デューデリジェンスを行う
⑬買収価額を算定する
⑭最後の交渉~譲渡契約締結
⑮経営に参画する~Day1を迎えるまで~
※目次は今後変更の可能性があります
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#サーチファンド  #事業承継

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