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固定ギアの自転車による環島(台湾一周)の記録 最終回

 2023年4月28日から5月4日までの七日間、自転車で台湾を一周した。今回で最終回。


 前回の記事はこちら


 朝5時、台湾は羅東の「イランインスピレーション」のドミトリーで目を覚ました。明日の空港泊は別として、台湾で迎える最後の朝だ。干していた洗濯物を回収し、早々に宿を出発した。ゴールまでは100kmに満たない距離でそんなに急ぐ必要はなかったが、ひょんなことから台北で人に会う用事ができたので、早めに出発することにした。海沿いの道に出る途中、早餐店がやっていたので、蛋餅と葱が練りこまれた白い蒸しパンを買って食べた。ラスト台湾朝ごはん、とても美味しかった。

イランインスピレーション
羅東の早餐店
蛋餅
葱が練りこまれた蒸しパン。ほのかに甘く素朴で美味しい。

 羅東から台湾の東端にあたる三貂角(サンティヤオチヤオ)を経て福隆に至るまでは、ひたすら海沿いの道を走ることになる。途中、釣具屋を見つけたので、お土産を買って帰ることにした。「日本の友人にメイドインタイワンの釣り具を買って帰りたい」と店主のおばちゃんに伝えると、錘や浮などをいくつか見繕ってくれた。置いてあるものは日本製が多く少し苦労していた。帰ってから浮を見ると「宮ノ浦」とめちゃくちゃ日本製っぽい名前が書いてあったが、釣り好きの友人が「見たことないな」と言っていたので台湾製ということにしておこう。

海沿いの東屋
海蝕台地が発達した莱莱地質区。魚類が豊かだそう。
釣具屋の気さくな店主

 福隆以降は、急峻ではないもののダラダラと長い山岳地帯を走らされ、歩いて環島をしている女の子を追い抜いたこと以外はほとんど覚えていないし、疲労のあまり写真も撮っていなかった。
 山岳地帯を抜けた後は、新北市を経てゴールの台北へと至るのだが、この新北市の汐止区はかなり道が複雑なのでこれまで以上に環島看板に気をつけながら走った方が良いかもしれない。ゴールを目前にした焦りで勢いよく走っていると、僕みたいに坂道をかなり下った先で行き止まりに当たって引き返す羽目になるかもしれない。そうでなくとも、市街地をグネグネと曲がりくねりながら進まされるので、ものすごく焦らされ、最後の最後で我慢の時間になる。
 でも最後はゴールの松山駅まで一直線の道に出る。だんだんと、何と無く見慣れたようなそうでもないような景色が見えてくる。なんだかそわそわしてくる。とにかく、ようやく終わる・・・

ゴール!

 ゴールしてしばらくぼーっとしていると、同じく環島をしていた日本人のおじさんと居合わせた。環島中は一度も会わなかったが、その人もたった今ゴールした様子だった。健闘を讃えあって、環島モニュメントの前で互いに写真を撮りあい、会話もそこそこにお別れした。ゴール後の達成感をしばらく一人で噛み締めたい、けど写真は撮って欲しい、という想いは二人とも一緒だったのかもしれない。

環島後の自転車

 ゴール後は、チンという台北に住む女性と会うことになっていた。日本の知人を介して僕が環島をしていることを知り、台湾人でもあまりしてる人がいないので会ってみたいということで、ゴール後に会うことになった。チンはとても親切にしてくれ、合流するやいなや、自転車や荷物を自宅マンションのロビーに預けさせてくれて、車で台北市内を案内してくれた。助手席に乗って台北の街中を走るのはとても不思議な気分だった。ビールや小籠包など本当に色んなものをご馳走になり、途中からはチンのボーイフレンドのミンも合流して3人で腹がはち切れんばかりの料理を食べ酒を飲んだ。

チンとミン
ラーメン風のビーフンと豚モツの和え物。ツルッといけてとても美味しかった。
リバーサイドでビール
名物の夕日を眺める。「今日はあまりよく見えない」とチンは残念そうだった。
前菜と「ONLY 18 DAYS」という18日間しか賞味期限がないビール。超フレッシュで台湾料理にとてもよく合い、めちゃくちゃ旨かった。
焼飯、小籠包、茹でたキャベツ。当然美味しい。
酒米のお粥。日本酒みたいな味がした。
パイナップルケーキを買うならこのお店
ヌガーを買うならこのお店。ここのヌガーは段違いで美味しかった。葱を練りこんだクラッカーで挟んだヌガーサンドもかなりおすすめ。
夜の台北市街

 そんなこんなで空港までのバスの時間が迫っていたので、チンの家に荷物を取りに帰り、バスターミナルまで一緒に歩いて送ってくれた。途中チンが、「いつも会社に行くときはこれに乗る」と言って道端にあったシェアサイクルに跨った。
 「あなたも自分の自転車に乗って」
 と言ってチンが僕を急かす。
 「無理。もう乗れない」
 と言ったが、チンはお構いなしにターミナルに向かっていった。
 仕方なく自転車に跨ると、やっぱりお尻が痛くて乗るのが辛かった。
 その後、チンはバスのチケットを買うところまで面倒を見てくれて、無事に空港まで着くことができた。

 明朝に出発する飛行機を待つ間、「無事に着いた」と高雄の張に連絡すると「You are brave」とすぐに返事が帰って来た。

 おそらく心配してくれていたのだろう張の心意気をはじめ、親切にしてくれた台湾の人々への感謝で胸いっぱいになりながら、本当に環島が終わった。


あとがき

 予想よりだいぶと長くなったがなんとか締めることができてよかった。旅の記録を残すのも初めての経験だったが、もう一度旅行したような気分になってなんだか得した分だった。やってよかった。
 本編の中で、固定ギアによる環島は失敗だったかもしれないと書いたが、やり終えてからかなり期間が経った今は、辛かったことを綺麗さっぱり忘れて、また固定ギアで自転車旅をしたい気持ちになっている。固定ギアという乗り物は、辛いとか楽とかそんな理屈抜きでとにかく乗りたくなる、不思議な魅力がある。
 環島自体は文句なしで最高だった。何周でもしたい。もし迷っていたり、いつかやりたいと思っている人がいるなら、その気になれば案外すぐにできると思う。僕が環島の存在を知ったのが2021年の6月で、その時点ではほとんど自転車旅や海外旅の経験がなかったし、勝手にもっと遠い将来のことだと思い込んでいた。だから大丈夫と無責任なことは言えないが、自分でもいけるかもと思ってもらえるのではないだろうか。
 これまで長々と備忘録を書いて来たが、これらが少しでも役に立てば嬉しい。

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