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日記責めの後遺症

 私が小学校6年生の頃でした。

 その時の担任教諭は過去にも担任だったことがあり、生徒の書く日記を読むのが好きな人だなあとは思っていたんです。しかし、始業式の直後、教室に戻った生徒を前に先生はにこやかにこう言いました。

「今日から1年間まいにち日記を書いてもらいます」

 当然、「えー」という声があがりますが、先生にとっては想定内の反応だったらしく、その笑みは崩れませんでした。先生がやると言えば生徒にはどうすることもできません。みんな次の日からしぶしぶ日記を提出するようになりました。1年にもわたるデスロードです。

 小6にとって1年は長期戦です。そんな長い間、ひたすら日記を書く。みんなじわじわとデスロードの恐ろしさが骨身に染みてゆきます。

 日々起きたことを書けばいいと言ったって、日記に書こうと思えるような出来事が毎日起きるとは限りません。ただの日記なんだから、つまらない日を淡々とつまらなく書いて凌げばいいじゃないかと思えるかもしれませんが、そういうつまらない日記は誰よりもまず筆者が飽きるんです。もうあまりにもつまらなくて筆が進まない。

 そうなると、別の方法で書くネタを探すしかありません。日常で起きた些細なことを膨らましに膨らませてその日の日記にしたり、両親や兄弟に面白い話を聞いてどうにかまとめたり、今日考えたおかしな妄想をそのまま書き殴ったりと、小手先でどうにかする小癪な技術が自然と磨かれました。

 「ネタがない」ことをネタにして日記を1本書いた時もありました。しかも3回。「先月も書くことがないという話で日記を書きましたが、今日もまたその話で書くことになりました」と素直に白状し、なぜ書くことがないのかを反省文のように書いて凌いだんです。絵日記形式の日記帳じゃないのに絵を描いて文章の少なさを誤魔化した回数は数十回は下らないでしょう。

 あまりにネタがなさ過ぎて、新聞記事を切り抜いて日記に貼り付けたりもしました。ちょうど台風で県内に被害があったこともあり、濁流で削れた道路の写真が載っていた新聞を日記に貼って、「台風って怖いですね」みたいな一言を添えてみたんです。

 担任教諭は日記を読むのが好きなせいもあってか、その日に教諭が気になった日記をプリントに印刷してみんなに配ったり帰りのホームルームで教諭自らが読み上げたりしました。そして、どういうわけか私の日記は、もがき苦しんで書いた挙句よく分からなくなってしまった時に限って取り上げられるんです。そりゃあ、真面目な日記の中に新聞記事をベタベタ貼った脅迫文みたいな日記が出てくれば先生も「おっ」と思うんでしょうけど、今考えると先生はいろんな日記を見すぎて感覚がおかしくなったとしか思えません。

 端的に言えば、noteを毎日書いている今の生活も、日記をどうしようかあれこれ考えていた小6の頃と特に違いはありません。ここで書いている文章の多くは小6でもがき苦しんだ後遺症だと思っていただければ幸いです。

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