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地下街で山よりデカい生命体

 女神転生という有名なゲームシリーズがあるわけです。破壊された近未来の東京を舞台に、神話や民話に登場する空想上の存在をコンピュータで呼び出して戦うゲームでございます。当時、西洋中世っぽい世界を舞台にしたRPGが多かった中で女神転生は異彩を放っておりました。

 何より、これまでのRPGより明らかに大人っぽい雰囲気でした。イメージイラストにもそれがよく出ていました。RPGと言えばモンスターと戦ってお金なり経験値なりを稼いで成長するわけですが、戦いに勝利した時の描写が違うんです。

 ドラクエですと、絆創膏をバツの字に張ったモンスターが一目散に退却するのを尻目に主人公たちが右手を上げて喜ぶ様子が描かれていましたが、女神転生ですと、倒れた敵がいつ起き上がってもいいように銃口を向けながらそっと戦利品を抜き取ろうとする主人公の姿が描かれていました。なるべく広い年齢にやってほしいドラクエと、適正年齢を多少狭めようとリアルを追求した女神転生の差でございまして、どちらがいいというわけではございませんが、当時の私は倒れた敵に銃口を向ける主人公を見て「このゲームをやってみたい」と思うようになった次第です。

 実際に買ってプレイをすると、東京を舞台にしているだけあって地名も都内に実在しているものばかりです。池袋、渋谷、そして新宿。崩壊しかけたビルを登ったかと思えば薄暗い地下街を探索し、徐々にストーリーが展開してゆく。当然ながら東京の地名が頭に入っていきます。

 上京して実際に舞台となった場所を訪れた際も、まず頭に浮かんだのは女神転生でした。当たり前ですけどちゃんと位置関係も現実に即してありまして、感動した記憶がございます。

 当時はまだまだゲームの表現にかなり限界がございましたから、建物など細かいところの再現度はそこまで高くありませんでした。でも、そこを想像力で補えるのが人間というものです。上京した私は地下道を歩きながら「きっとこういう場所で戦ったんだろう」と、ゲームで繰り広げたいくつもの戦闘を思い返したものでございます。

 ただ、上京してしばらく経ち、東京にも慣れてきますといろいろ冷静になってきます。そうすると、感動していた時には見えなかったものが目につくようになりました。例えば、地下道を歩いていますと、こんな疑問が浮かぶんです。「戦うには狭くないか」と。

 冒頭にも書きました通り、女神転生で共に戦うのは神話や民話に登場する空想上の存在です。敵もまた同じでございまして、当たり前のように竜だの悪魔だの出てくる。神様だって通常出勤です。当然、巨大なやつもいる。山よりでかい生命体が新宿の地下街で戦えるのか。そこが気になってしまったんです。

 ゲーム内では、基本的に敵はいきなり現れます。稲妻のごとき閃光が画面を切り裂いたかと思うと、もう目の前に臨戦態勢の敵がいる、みたいな感じなんです。山よりでかい生命体がいきなり地下街に現れたら通路がパンパンどころの騒ぎではありません。東京の大地が大きく隆起するでしょうし、生命体自体も命の危険にさらされるでしょう。

 女神転生も他のRPGと同様に、ボスキャラにあたる存在が主人公の進路に立ちふさがったりします。しかし、地下で立ちふさがれる生命体は限られるでしょう。縦横数メートルの怪物がせいぜいです。そりゃもちろん山よりでかい生命体のほうがボスにピッタリなんですけれども、通路にギュウギュウ詰まった生命体が「ここから先は通さぬわ」なんて言われてもそもそも自分が通れていないんです。当時のゲームはできる表現が限られていましたから気になりませんでしたけれども、現在のようにリアルな表現ができるとなると、やっぱり無視するわけにはいかないでしょう。もっと現実に即する必要がある。

 最近はゲームから遠ざかった生活をしており、女神転生もどんな進化を遂げているのか分からないままです。恐らく最新の女神転生では、山のような生命体がいきなり地下街に現れ、そのまま詰まって動けなくなる表現も当たり前のように搭載されているに違いない。そう思うと、またちょっとゲームをやりたい気分になって参りました。

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