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名前の魔力に追い詰められる

 「言葉には力がある」と言い切られてしまうと、「そこまで大層なもんじゃないっすよ」と照れながら否定したくなってしまいますが、「名前には魔力がある」という主張にはそこそこ同意しています。

 自分が呼ばれたわけではなくとも、自分と同じ名前を呼ばれると振り向いてしまう。当たり前と言えば当たり前なんですが、人を振り向かせる魔法と思えなくもない。名前なんて割とみんな持っているものですし、持とうと思えばいくらでも持てるものです。だから取るに足らないと思われがちですが、「名前には魔力がある」と言われると確かに結構な力がありそうだと感じてくる。

 友人に勧められ、とあるアニメを見ていた時です。開始5分で私の心に暗雲が立ち込めました。主人公の苗字が私と同じなのです。主人公が名前を呼ばれるたび、自分が呼ばれた気になってしまい、どうにも落ち着かないのです。

 更にまずいことに、主人公は女の子でした。性別としては真逆です。そうなると、すごい良い声の少年が「星野さんは今日も綺麗ですね」などと意味不明な発言をするわけです。それだけで私の心は骨を十本くらいやられた状態になるのですが、話が進むと典型的なキザ野郎が現れて、あろうことか主人公の星野さんを口説きにかかるんです。歯が浮くどころの騒ぎじゃない。歯も下あごも全部抜けて床に散らばるレベルの惨事です。

 名前に魔力があるのならば、私にかけられた魔法は何だったんでしょうか。拷問専用の魔法だとしたら納得です。キザ野郎に口説かれる場面をループされ続けたら、軽犯罪のひとつやふたつくらい、濡れ衣を着てやろうかという気になりそうです。

 まだ苗字なら諦めもつくんです。そこそこメジャーな苗字ですから、かぶっても仕方なかろうと。しかし、本を読んでいたら本名と丸かぶり人物が現れた時は変な声が出そうになりました。漢字も一緒です。いろんな名前を見聞きしてきましたけど、漢字まで同じだったのは過去にひとりしかいません。創作物に至っては初めてです。

 同じ名前の人物がちょい役だったらよかったのですが、不幸にも準主役級の扱いで、物語の最初から最後まで満遍なく出てきます。しかも、割と序盤で痴情のもつれへ自ら巻き込まれに行ってて、とてもじゃありませんが、まともに読めませんでした。

 いつか誰かにその本で拷問されるのかもしれません。朗読されれば私は間違いなくのたうち回る。まさに魔法です。魔力です。名前だって使い方次第でここまでいけるんです。

 ペンネームと丸かぶりの人物まで小説に出てきたら、いよいよ世界が私を追い詰めようとしているのだと覚悟を決めるつもりです。よろしくお願いします。

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