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題名読書感想文:31 辞典の沼は深い

 中身は全然見ず、題名だけ熟読に熟読を重ねまして、浮かんだ感想を書いてゆく。それが題名読書感想文でございます。いくら熟読を重ねても1冊読破するより遥かに少ない労力ではございますが、そのぶん数で誤魔化してます。いや、誤魔化しているつもりはないんですが、とにかくそこそこ続けています。

 今回は「辞典」です。私が学生だった頃、とある課題をすることになりまして、そのためだけに類語辞典や擬音語・擬態語辞典を買って挑んだんです。それを友人に言ったところ、こんな風なことを言われました。

「星野って辞書マニアだったのか?」

 友人の言葉を今でも覚えているのは思いもよらない一言だったというのもありますけれども、世の中に「辞書マニア」という人種がいるという発見でした。マニアがいるほど辞書がたくさんあるという情報にも驚きました。

 その小さな記憶がきっかけで、辞書、すなわち辞典にどんなものがあるか、いつか軽くでもいいから調べていきたいと思ったものです。今回はそんな数多くある辞典でも、個人的に味わい深い辞典を選んでみました。

 ちなみに、事典もたくさんございます。辞典との違いは検索すればたくさん出てきますが、ザックリと説明しますと、言葉について解説したものが辞典、ものについて解説したものが事典のようです。

 ですから、辞典と言えば国語辞典とか英和辞典とか、そういうものになるわけですね。前者は日本語の辞書であり、後者は英単語から日本語の意味を調べる辞典となっています。

 しかし、言語は世界中にたくさんございますから、各言語に辞典がひとつしかなかったとしても、それだけで膨大な数の辞典があるわけです。日本で販売されている辞書は、日本語はもちろん、英語や中国語など、国内でメジャーな言語が大半です。ただし、メジャーどころだって辞書によっては「羅和辞典」なんて題名になるわけです。

 「羅」とはラテン語を指すわけなんですけれども、画数が多いためか仰々しい、または禍々しい、もしくは猛々しい印象を受けるんです。だから、渋い声で「羅和辞典!」なんて叫ばれたら、特殊な打撃を駆使した必殺技に聞こえるんです。それこそ羅漢仁王拳らかんにおうけんの必殺技と言われても信じてしまいそうになる。

 ラテン語の辞典と言えばこんなものもあります。「ラテン語法格言辞典」です。

 いろいろ盛り込みすぎて一読で意味を理解するのが難しい題名となっております。ですので、題名をいくつかのまとまりに分離させますと、「ラテン語」「法」「格言」「辞典」なんです。法に関する格言を、ラテン語で記されたものがいっぱい載っている辞典というわけです。ラテン語の格言ですから、ヨーロッパに古来より伝わる法律の格言なんでしょう。

 そんなのを知ってどうなるのか、というのは野暮な話でございます。世の中には笑いに関する名言をかき集めている私みたいな人間だっているわけで、ラテン語の法格言が欲しくて欲しくてたまらない人が存在しているはずなんです。

 ちなみに、よりマイナーな言語の辞典ですと「ベルベル語小辞典」がございます。

 ベルベル語とは主にモロッコ、アルジェリア、リビアで話されている言語でございます。話者の多くはベルベル人とのこと。

 ただ、ウィキペディアによりますと、「ベルベル」はギリシャ語で「言葉が分からない人」を意味するバルバロイに由来していることから、ベルベル語話者は「ベルベル語」という呼称を好まず、代わりに「タマジグト」と呼ぶ場合もあるとのことです。「ベルベル語小辞典」もまた、いつかは「タマジグト小辞典」に改名するひが来るかもしれない。

 それはともかく、日本でも探せば思いもよらぬ言語の辞典が販売されていることが分かります。

 日本語の辞典でも「日本語誤用辞典」という不思議な題名のものがございます。

 副題の「外国人学習者の誤用から学ぶ日本語の意味用法と指導のポイント」から考えて、日本語を勉強している外国人がやりがちな誤用をまとめ、どうしてそのような間違いをするのか、間違えた場合はどう教えたらいいのか、などについてまとめられた辞典なのだと推測されます。

 辞典は正しい内容であるのが大前提です。だから辞書として使われるわけでございますけれども、日本語誤用辞典は間違った内容である点が大切になっている特殊な辞典でございます。間違いを正しく載せていることが必要と申しましょうか。

 そう言えば、先ほどのラテン語法格言辞典のように、いろいろ意味が盛り込まれた題名の辞典は他にもございます。「科学技術英語動詞活用辞典」がそれです。

 こちらも題名をいくつかのまとまりに分離してみますと、「科学技術」「英語」「動詞」「活用」「辞典」といった感じでしょうか。科学技術関係の英語、その中でも動詞の活用に特化した辞典となっています。今や研究職の多くはワールドワイドな活動がほぼ必須となっておりますからこそ、このような辞典も出てくるのでしょう。専門家の卵に向けて発売された辞典なのかもしれません。

 そうかと思えば、一般向けの不思議な辞典も存在します。例えば「366日の誕生鳥辞典」です。

 誕生石とか誕生花とかだったら聞いたことがありますが、誕生鳥もあるようなんです。ただ、それで驚くのは少し早かったようです。何となく検索したら、いろんな「誕生〇〇」を一気に調べられるサイトが出てきました。

 調べられるのは花・石・色・星・鳥・魚・酒・果物・木・竜、それから同じ誕生日のキャラクターでございます。

 「竜なんて366種類もいたっけ」と思いましたけれども、どうやら恐竜を指すようです。それにしたって「誕生〇〇」は予想外に多いですね。こういうのは一体誰が考えているんでしょう。私でも参入できるのでしょうか。366パターン考えるのは楽しそうでもあり、大変そうでもあります。

 「こんな辞典もあるんだ」と思わせるものとしては他に「ピロティ辞典」がございます。

 ピロティは柱だけで構成された吹き抜けの空間を指しますけれども、そんなピロティだけで1冊の辞典ができてしまうんです。ビックリしている私はきっとピロティについて何も分かっていないだけで、生粋のピロティマニアからしてみたら、そりゃあ辞書の1冊や2冊、できあがるくらい深くて広いジャンルなんでしょう。

 こんな辞典もあります。「図学用語辞典」です。

 何かの用語辞典であることは確かなんですけれども、図学が分からないと何の辞典だか理解が難しい題名となっています。

 図学とは図法幾何学の略でございまして、立体の空間図形を平面の図形としてうまく描く方法を研究する学問のようです。

 しかし、「図学用語辞典」がどういうものかを理解できたくらいで安心するのは早いんです。パッと見で何の辞典か分かりづらい辞典は他にもございまして、例えば「トライポロジー辞典」なんかがそれです。

 トライポロジーが何なのか知らない人は、題名の意味を知るだけで別の辞書が必要になる、そんな辞書となっています。高校生の時、数学の授業で初めて「任意の点」が出てきた時、教師が「毎年『任意の点』の意味が分からず、辞書を引く学生がいる。数学の問題に国語辞典を出してくるという、よく分からないことをするんだ」という小噺を披露したのを思い出しました。

 ちなみに、トライポロジーとは摩擦や潤滑など、運動しながら互いに影響しあうふたつの物体の表面で起きる現象について調べる学問とのこと。

 最後はちょっと違った視点から。紹介するのは「音楽中辞典」です。

 辞典の中には大辞典とか小辞典とか、辞典の頭に大小をくっつけて「大きいよ」「小さいよ」と主張するパターンがございます。

 大だと内容が充実している印象を与えますし、小だとコンパクトで使いやすい風に聞こえます。そこに切り込んできた第3の派閥が中辞典です。中辞典は数が大小に比べて少ないようです。イマイチ数が伸びない原因は「中ならでは」の利点を示しづらいからではないでしょうか。

 いや、それは私が中辞典ビギナーだからそう思うわけであって、中辞典プロの方々からしてみたら、中辞典なんて良さしかないと思っているはずです。中辞典の今後は中辞典プロの方々が私のような中辞典ビギナーに対して、どれだけ中辞典ならではの利点を知らせていくかにかかっていると言っていいでしょう。

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